「と、とにかく! 準備は終わったんだよな! 今日は解散また明日! じゃっ!」

「ちょっ、恭介!?」

 

 棗の奴、キャラが違うんじゃないか?

 一方的に話を切り上げた上、杏の制止も振り切ってさっさと資料室から出て行きやがった。

 

「わわわ、恭介さん待って~」

「それでは失礼しますね。 明日は予定通りの時間に参りますので」

 

 神北達も棗の後を追っていく。

 ま、実際準備は完了しているから問題は無いとしても……

 

「宮沢、どういうつもりだ?」

「はい? なんのことでしょうか」

 

 それとなく問いかけたところで、笑顔のままな宮沢だった。

CLANALI3  第八話

「それでは私も失礼しますね」

「なんか騒がしくてすまなかったな仁科」

「そんなことありませんよ、岡崎さん」

 

 仁科からの返答を聞き何気なく外に目を向けると、大分薄暗くなってきていた。

 日が暮れるのも早くなったな。 ……年末だし、当然と言えば当然か。

 ……そうだな、時間も時間だしそろそろお開きにするか。

 

「じゃあ今日は俺達もこのぐらいであがるか?」

「はい、そうしましょう」

 

 まず渚が了解し、それに続いて全員が口々に返事を返してくる。

 これで準備も完全に終了となった。

 後は明日の本番だけだ。

 ……今更だが、マジでやるのか? アレを。

 

 

 

「陽平さ、仁科さんを送っていかなくて良かったの?」

「ああ? なんで僕が?」

 

 荷物をまとめていると、杏と春原の話が耳に入ってきた。

 

「もう結構暗くなってるじゃない。 心配じゃないの?」

「だからどうして僕が心配なんかするのさ」

「……はぁ、気が利かない男ねぇ」

「話を振ってきておいて随分なご挨拶ですねえ? 大丈夫だよ、杉坂達と一緒なんだってさ」

 

 なんだ、しっかり気を利かせてるじゃないか。

 

「それより杏こそいいの? 棗の奴とっとと帰っちゃったじゃんか」

「べ、別にいいんじゃないの? あいつが帰えろうがどうしようが……」

「……はぁ、気が利かない女ですねぇ」

「……朝陽が昇るまで殴り続けても良い?」

「僕の失言でした勘弁してくださいっ!」

 

 

 

 

 

 

「じゃあね~、渚に朋也! 明日は遅刻するんじゃないわよー!」

「おやすみなさい」

「お前こそなー」

 

 最後まで道が同じだった杏と別れ、俺と渚は冬の夜空の下を歩き始めた。

 

 ……自然と手を繋ぎ合う俺達。

 

 少しの寒さも、こうすれば乗り越えていけるような気がした。

 

「渚……体の調子はどうだ?」

「はい……、ここ暫くは元気でいられています。 とても嬉しいですっ」

「……そっか」

「……えへへっ」

 

 渚の幸せそうな笑顔が目に入り、繋ぐ手に少しだけ力を込めた。

 その事に気が付いた渚は、それまでよりももう少しだけ……笑顔に赤みが差していた。

 

 恋人同士として手を繋ぎながら下校する。

 ただそれだけの事、それだけの事なのに……

 

 

 何故か、目頭が熱くなる。

 

 

 理由はわからない。 言葉にしたいとも思わない。

 ただあるがままの現実を、大切に……大切にしていきたいと思った。

 何度体験しても同じように浮かび上がるこの感情には、きっと、意味があるんだろう。

 例えその理由に気が付かなくても、思い出せない何かなのだとしても。

 俺は、この手を離さない。

 ……離さずに、生きていきたいんだ。

 

 これから先も、ずっと……

 

 

 

 

 

「明日の朋也くん、とっても楽しみです」

「……渚?」

 

 渚は俺の顔を見ている。

 ……もしかしたら、ずっと表情を見られていたのかもしれない。

 

「朋也くんがとても格好いいことになってしまうからですっ」

「おいおい……担当するのは俺だけじゃないだろう? 棗もそうだし来ヶ谷や神北も同じ目に遭うんだからな?」

「それでもです。 衣装を着た朋也くんを見た時は、どうかなってしまうかと思いましたっ」

「……頼むから変な趣味には目覚めないでくれよ?」

 

 ああいった格好は恥ずかしすぎる。

 特に西園が言ってくる細かな注文がどうも……な。

 

「正直言って、あんなのは俺苦手なんだぞ?」

「はい、知ってます」

 

 ……ったく。

 渚も強くなったと言うか素直になったと言うか。

 

「えへへっ」

「?」

 

 掌が、ぎゅっとされる。

 渚は俺の顔を見たままだ。

 

「……あ」

 

 そうか。

 今、俺、渚の言葉で笑顔を浮かべたんだ。

 きっと、それが嬉しかったんだろうな渚は。

 

 だけど。

 そんな事、確認なんてしてやるもんか。

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