「明日の件ですが、笹瀬川さんは来ることが出来なくなってしまったそうですっ」

「え? そうなの?」

「はい、えとですね。 お聞きしたのですが笹瀬川さんは明日、渡辺さんやー川越さんやー中村さんといった仲良しな皆さんと

  めりーなくりすますを過ごすんだーって約束を前もってされていたらしくて…」

「ちょっと待って」

「わふ? なんですかリキ?」

 

 誰? その人達?

 

「まとめると、笹瀬川さんは用事があって明日は来れないって事でいいのかな?」

「いっと、いず、らーいと! なのですー!」

CLANALI3  第七話

「お? そうなのか? なんだよ、残念だったな謙吾!」

「何のことだ?」

「すかしやがって、このむっつりツンツンが」

 

 僕達の横で真人と謙吾が「よっこらせ」っとおじさん臭い声を出しながら、正座を崩しつつ笹瀬川さんの件を話している。

 

「言いがかりも甚だしい。 俺自身は色恋の事を考えている暇など無いんだ」

「ほう? なら何を考えてんだよ?」

「今の俺は、理樹の事と遊びの事、リトルバスターズの今後とちょっとだけ剣道部の事と……そうそう、今晩の夕食時ののりたまと、

  リトルバスターズジャンパー・アウェイVer.の製作見積もりの事。 ただ、それだけの事しか考えられん」

 

 いやいやいや、十分マルチタスクだよねそれ?

 

「へ…… 相変わらずストイックなヤツだぜ、お前はよ…」

 

 真人? 意味分かってないよね、絶対。

 

「そうでもない。 …お前の筋肉には負けるさ」

 

 え? どうして会話が続くのさ、今ので。

 …でもってがっちりと握手を交わすんだね…

 

「筋」

「肉」

 

 とてもいやな感じの握手言葉だった。

 

 

 

 

 でも確かに謙吾だけじゃなくて、真人にも色恋…というか浮いた話みたいな事は聞かないのも事実だった。

 二人とも僕にはそんな話を振ってきたのに自分達はどうなんだろう?

 

 …謙吾は、もしかしたら。

 ううん、やめよう。

 古式さんの事、そんな何気なく聞ける話じゃなかったよね。

 …なら真人は…?

 ……駄目だ。 何故か想像できないや。

 

「真人はさ」

「ん?」

 

 不意に僕の口から出た質問だった。

 

「いないの? 好きな人って」

「わふっ!? リキにはいるのですかっ!?」

 

 え? クド?

 

「なんだよ理樹、やっぱりいるんじゃねえかよ」

「お、なんだ? 話してくれる気になったのか?」

 

 いや、今は僕が聞こうとしたんだけど。

 クドが僕の言葉に凄い速さで食いついてきた所為で、再びさっきまでと同じような空気が流れ始めてきた。

 

「だからさっきも言ったでしょ? 僕は」

「さっき? そんな話をしていたのですかっ!?」

「おお? おいおい、クー公も気になるのか?」

「なりまくっていやがるです!」

「えー? クー公にはまだ早いんじゃねえか?」

「井ノ原さんしつれーです! 私だってお年頃なのです!」

「あー、七五三?」

「はいー、私は日本で七五三をする事ができませんでしたのでとても興味が……ってこんちくしょーです!」

 

 真人? クド? なんでそんなにヒートアップしてるのさ?

 真人もクドもなんか…、らしくない。 本当に。

 

「早えって」

「早くないのです!」

「早えよ!」

「そんなことないのですっ!」

 

 ちょっとちょっと…

 

「ねえ、二人とも…」

「じゃあクー公にはいるのかよ?」

「もちろんですっ!」

 

 これは流石に…

「いいかげんに落ち着、」

「誰だよ!?」

「リキですよっ!!」

「「「!!」」」

 

 え……

 

「私はリキが好きなのですっ! 井ノ原さん! ちゃんと聞いていま……! わふっ!!」

 

 クドの表情が瞬間的に入れ替わった。

 必死になって言葉を紡いでいたその顔から、自分の想いが零れてしまった事を理解した……泣き出しそうな今の顔に。

 

「わふ……、ち、違うのです… だって…、こんなの…… 皆さんに抜け駆け…」

 

 何かから…いや、僕から逃げるように。

 少しずつ後ずさりをしながら、信じられないといった想いをのせて言葉を続ける。

 その顔は、返事を聞く事に不安を感じているような緊張感を持つものじゃなかった。

 

「鈴さんに…、来ヶ谷さんに… ……嘘…… 私… …ずるい…」

 

 皆から愛されている可愛いクド。

 そんな彼女の表情が。

 

 絶望に覆われていた。

 

「ク、ド…?」

「わふっ!」

「クド!?」

 

 反射的に僕の声を跳ね除けて、クドは部屋から飛び出していった。

 

「クド!」

「理樹…」

 

 慌てて追いかけようとした僕に、真人の声がかかる。

 

「…悪い…」

 

 弱弱しく、後悔の念を含んだ声。 それは、僕の知っている真人の声じゃなかった。

 

「理樹、ここは任せろ。 行ってやるといい」

「…ごめん。 ありがとう謙吾」

 

 側にかけてあった上着を取り、僕も部屋から飛び出す。

 

 …クド…!

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