「ありがとうございました、とても素敵な曲だと思います」

「でしょ? これがテープじゃなくてCDとかMDだったら良かったんだけどね」

 

 仁科と春原が一本のテープについて語ってる。

 春原が貸したテープってことは……

 

「仁科、お前も意外な趣味をしていたんだな?」

「意外……ですか?」

「てっきりクラシックとかが守備範囲だと思っていたんだけどな」

「そんなことはありませんよ岡崎さん。 歌は色々と聴かせてもらっています。 合唱部ですし」

 

 色々とねぇ……

 それにしても、

 

「ボンバヘはないだろ?」

「……はい?」

 

 ……おや? 違ったのか?

CLANALI3  第六話

「ぼんば……え?」

 

 どうやらその歌に心当たりは無いらしい。

 仁科はきょとんとしたままクエスチョンマークを浮かばせている。

 

「違うって」

「春原?」

「これは芽衣のヤツから借りたテープでさ、しばらく聴いていなかったんだけど。 …ほら」

 

 そう言いながら俺にテープを渡してきた。

 ……タイトルと曲名、歌手の名前がシール部分に書いてある。

 あ……

 ……なるほどな。

 

「どう? 分かったろ岡崎?」

「ああ」

「この間一緒に飯食べていた時に話題になってさ。 だったら貸してあげるよって事に……」

 

 ?

 テープの事は分かった。

 それはいいんだが。

 

「何? 陽平アンタ、仁科さんと一緒にご飯食べる仲だったの?」

 

 そう、それだ。

 俺の感じた疑問を杏が形にしてくれた。

 

「は? 偶々だよ偶々。 誰かさん達が僕のことをほったらかしにしてくれていましたしねー」

「どーでもいいけどね」

「良くないよっ!?」

 

 それにしても春原と仁科がね……

 

「仁科」

「はい? なんでしょう」

「変なことされてないか?」

「?」

「無理に奢らされたり、食事中なのに叫び声をあげられたり…」

 

 俺の目が届かない時の春原の行動。

 ……不安だった。

 

 だが、そんな俺の質問に対してたった一言。

 耳を疑うような答えが返ってきた。

 

「楽しかったです」

 

 満面の笑顔で言い切った。

 ……どういう意味だ?

 奇行がか?

 歌の話題がか?

 それとも……

 

 らしくもない深読みな思考を遮ったのは棗の声だった。

 

「それで? 誰の曲なんだ?」

「芳野さんの曲だよ」

「ヨシノさん?」

 

 そうか。

 棗達は知らなかったんだよな。

 

「芳野祐介。 この前一緒に遊んだだろ? ……あの人の曲さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~、あの人ってロックシンガーだったのか」

 

 春原のテープを流しながら、芳野さんの事をざっくりと話た。

 

「ロック、歌……皆で……」

 

 棗のヤツ、なんかぶつぶつ言ってやがる。

 あ、今、なんか思いついたな。

 すっげぇ笑顔になりやがった。

 

「いい事を思いついたぞ! みんな! バン……」

「却下」

 

 棗の宣言を断ち切ったのは、笑顔が眩しい杏だった。

 

「……ドを……やろ……」

「だから却下よ」

「う、ぜ……?」

「恭介、今は駄目。 明日の事をしっかりやり遂げた後なら聞いてあげる」

「……」

「とりあえず新しい遊びは頭の中に留めるだけにしておきなさい。 いい?」

「……名前は、リトルバスター……」

「わかった!?」

「……はい」

 

 杏はくっつくんじゃないかってくらいに顔を近づけて、主張を押し通す。

 まぁ、なんだ。

 いいコンビ……だよな?

 

 

 そんなやり取りを見ていた宮沢が素直な感想を漏らす。

 

「やっぱりお二人ってお似合いですよね」

「「え?」」

「「「「あ」」」」

 

 空気が固まる。

 杏と棗は顔がくっつきそうなまま動きが止まり、俺達は揃って有紀寧に顔を向けた。

 

「?」

 

 ……仁科だけはついてきていなかったが。

 

「恋人さんとのそういった関係、憧れますね」

 

 ひゅばっ!

 

 うお!?

 とんでもない勢いで二人が離れた……

 

「なっなっなっ……」

 

 杏、まずは落ち着け。

 一瞬で顔が真っ赤になり、言葉が話せなくなっていた。

 

「だって、そんなっ! ちょっと恭介! あんたも何か言いなさいよ!」

「あ、ああ…… 確かにまだ俺達は、」

「……まだ?」

「あ」

 

 !?

 まじかよ。

 

「いや、あ、その、なんだ」

 

 凄ぇ。 棗の顔が真っ赤になっていく。

 こいつのこんな姿を見ることが出来るとは。

 

「「「「……」」」」

 

 リトルバスターズ側の面々も『とんでもないものを見てしまった』とでも言うような表情だ。

 

「ふふ、どうしたんですか皆さん?」

 

 宮沢……お前、もしかして……

 わざと、か……?

ページのトップへ戻る