「ありがとうございました、とても素敵な曲だと思います」
「でしょ? これがテープじゃなくてCDとかMDだったら良かったんだけどね」
仁科と春原が一本のテープについて語ってる。
春原が貸したテープってことは……
「仁科、お前も意外な趣味をしていたんだな?」
「意外……ですか?」
「てっきりクラシックとかが守備範囲だと思っていたんだけどな」
「そんなことはありませんよ岡崎さん。 歌は色々と聴かせてもらっています。 合唱部ですし」
色々とねぇ……
それにしても、
「ボンバヘはないだろ?」
「……はい?」
……おや? 違ったのか?
「ぼんば……え?」
どうやらその歌に心当たりは無いらしい。
仁科はきょとんとしたままクエスチョンマークを浮かばせている。
「違うって」
「春原?」
「これは芽衣のヤツから借りたテープでさ、しばらく聴いていなかったんだけど。 …ほら」
そう言いながら俺にテープを渡してきた。
……タイトルと曲名、歌手の名前がシール部分に書いてある。
あ……
……なるほどな。
「どう? 分かったろ岡崎?」
「ああ」
「この間一緒に飯食べていた時に話題になってさ。 だったら貸してあげるよって事に……」
?
テープの事は分かった。
それはいいんだが。
「何? 陽平アンタ、仁科さんと一緒にご飯食べる仲だったの?」
そう、それだ。
俺の感じた疑問を杏が形にしてくれた。
「は? 偶々だよ偶々。 誰かさん達が僕のことをほったらかしにしてくれていましたしねー」
「どーでもいいけどね」
「良くないよっ!?」
それにしても春原と仁科がね……
「仁科」
「はい? なんでしょう」
「変なことされてないか?」
「?」
「無理に奢らされたり、食事中なのに叫び声をあげられたり…」
俺の目が届かない時の春原の行動。
……不安だった。
だが、そんな俺の質問に対してたった一言。
耳を疑うような答えが返ってきた。
「楽しかったです」
満面の笑顔で言い切った。
……どういう意味だ?
奇行がか?
歌の話題がか?
それとも……
らしくもない深読みな思考を遮ったのは棗の声だった。
「それで? 誰の曲なんだ?」
「芳野さんの曲だよ」
「ヨシノさん?」
そうか。
棗達は知らなかったんだよな。
「芳野祐介。 この前一緒に遊んだだろ? ……あの人の曲さ」
「へぇ~、あの人ってロックシンガーだったのか」
春原のテープを流しながら、芳野さんの事をざっくりと話た。
「ロック、歌……皆で……」
棗のヤツ、なんかぶつぶつ言ってやがる。
あ、今、なんか思いついたな。
すっげぇ笑顔になりやがった。
「いい事を思いついたぞ! みんな! バン……」
「却下」
棗の宣言を断ち切ったのは、笑顔が眩しい杏だった。
「……ドを……やろ……」
「だから却下よ」
「う、ぜ……?」
「恭介、今は駄目。 明日の事をしっかりやり遂げた後なら聞いてあげる」
「……」
「とりあえず新しい遊びは頭の中に留めるだけにしておきなさい。 いい?」
「……名前は、リトルバスター……」
「わかった!?」
「……はい」
杏はくっつくんじゃないかってくらいに顔を近づけて、主張を押し通す。
まぁ、なんだ。
いいコンビ……だよな?
そんなやり取りを見ていた宮沢が素直な感想を漏らす。
「やっぱりお二人ってお似合いですよね」
「「え?」」
「「「「あ」」」」
空気が固まる。
杏と棗は顔がくっつきそうなまま動きが止まり、俺達は揃って有紀寧に顔を向けた。
「?」
……仁科だけはついてきていなかったが。
「恋人さんとのそういった関係、憧れますね」
ひゅばっ!
うお!?
とんでもない勢いで二人が離れた……
「なっなっなっ……」
杏、まずは落ち着け。
一瞬で顔が真っ赤になり、言葉が話せなくなっていた。
「だって、そんなっ! ちょっと恭介! あんたも何か言いなさいよ!」
「あ、ああ…… 確かにまだ俺達は、」
「……まだ?」
「あ」
!?
まじかよ。
「いや、あ、その、なんだ」
凄ぇ。 棗の顔が真っ赤になっていく。
こいつのこんな姿を見ることが出来るとは。
「「「「……」」」」
リトルバスターズ側の面々も『とんでもないものを見てしまった』とでも言うような表情だ。
「ふふ、どうしたんですか皆さん?」
宮沢……お前、もしかして……
わざと、か……?