「うむ、それは俺も気になる話だな」
「謙吾っ?」
「いいじゃんかよー、教えてくれよ理樹ー」
「真人…っ」
『誰と付き合ってんだ?』
あろうことか、真人の質問に謙吾までのってきてる。
でも実際そんな事を言われたって……
「ちょっと待ってよ二人とも。 僕、誰とも付き合っていないよ?」
「「……は?」」
って、なに? そのリアクション?
「何だ…? これは理樹の新しいボケか…?」
いやいやいや、そんな難しい顔しないでよ真人。 それにボケじゃないって。
「…むぅ…」
謙吾?
「理樹にとって俺は、真実を語るべき相手ではない…という事なのか… ……くぅっ…」
って泣いてる!? 謙吾が!?
「いやいやいやいやいや、落ち着こう? ね、二人とも?」
真人も謙吾も僕を置いていったまま、自分達の世界を作り出してる。
考えは纏まらないままだけど、まずは二人をどうにかしなくちゃ。
…少し過剰な演出かもしれないけど…
「真人、凄いよ!」
「あ? なんだよ? 今は理樹のボケを理解するのに忙しいんだって……っ!?」
ぺちぺちぺち
「この上腕二頭筋、なんて綺麗な流線型なんだろうね? …あ、ごめん… つい触っちゃった…」
「!?」
僕は真人の腕にある筋肉をぺちぺち叩きながら褒め称えて、そのあと照れたように顔を背けた。
「お!?おお!?おほおっ!? そうか?そうかぁ? なんだよ理樹、そりゃ言い過ぎだぜぇ?」
うん、効果は抜群だ。
僕は真人の幸せそうな表情を確認した後、斜め横に座っている謙吾の後ろに回った。
「謙吾…」
そのまま謙吾の名前を呼びながら、広い背中に自分の額をつける。
「理樹?」
「そんな寂しい事、言わないでよ」
「…いいんだ、理樹。 俺はお前の幼馴染ではあっても、その心の中にまでは踏み込めなかったんだな…」
むちゃくちゃ凹んでるっ!?
…だったら!
「…謙吾がそう感じてるんなら、そうかもしれないね… 僕は謙吾の事、幼馴染だって思っていたけど」
「理樹… すまな、」
「謙吾は心友でもあり、親友でもあったんだね」
「!? 心…友、でも…あり、親友……」
あ、なんか謙吾の背中がぷるぷるしてきた。
「…樹、…理樹、…理樹!」
「うん」
「すまないっ! 俺は…俺はなんて浅はかな馬鹿だったんだ…っ! こんなにも…こんなにも思ってくれているというのに!」
「うぐっ!?」
ちょっ…思いっ切り抱きつかれた! これは流石に…っ!
「く、苦しいよ…」
「理樹!理樹!理樹!!」
全然聞いてないし! ……?今、ドアから声が…
「俺の二頭筋も理樹を欲しがってるぜっ! な! だろ!?」
「訳分かんないよっ!!」
「理樹!」
「理樹!」
謙吾に続いて真人まで抱きついてきた! 前後から、ぎゅ~って、筋肉と… 汗が……
「失礼しますです~、ってわふっ!?」
目の前が真っ暗になる寸前、そんな声が耳に届いたような……
「……なのですよ…… ……のところ、ちゃんと理解…… ……聞いているのですか……」
「ん…… くど…?」
良く知っている子の声が聞こえる、気がする。
頭の中がぽやぽやしたまま、そんな事を思った。
「…ですから、気をつけないと駄目なのですっ! 分かりましたか!」
怒ってるの…かな…? 駄目だよ、クド。
笑顔で、いなくちゃ。
クドは…
「とっても笑顔が似合うんだから…」
「リキ!?」
ぼふっ
「え?」
無意識に出した声に反応したのか。
クドはその小さな身体を投げ出すようにして、僕のベットに飛び込んできた。
あれ? ベット?
「目が覚めたのですか! 良かったです! びっくりしたのです!」
「え? 僕…?」
「大丈夫ですか? 痛いとこはないですか?」
ぺたぺた、ぺたぺた
「く、くすぐったいよクド」
「わふっ!?」
ひっきりなしに僕の身体を触っていたクドは慌ててベットから離れていった。
身体を起こす。
?
……なんか真人と謙吾が正座してる。
「わふ。 よかったです、リキ」
「えっと? どうなってるの?」
「リキは気を失ってしまっていましたので、ベットでお休みしてもらっていたのです」
そっか、抱きしめられてそのまま……
自分でも反省だよね、これは。
二人の事を盛り上げすぎちゃったみたいだ。
「なぁクー公よぉ~」
「なんですか井ノ原さん」
「理樹も目が覚めたみてえだし、もういいんじゃね?」
「ああ、そろそろ許してくれないか?」
正座二人組みがそう言った途端にクドが吠えた。
「駄目なのです! これは罰なのですお仕置きなのです!!」
ぺしぺし
指先をぴっとのばした手のひらで、床に敷いてあるカーペットを叩く叩く。
本人としてはお怒り演出なつもりなんだと思うけど、正直言って可愛いらしい光景にしか見えない。
「クド、僕は大丈夫だよ。 僕も調子にのっていたしね」
「…リキ」
「ごめんみんな。 心配かけちゃったよね」
「気にすんなって」
「そうだぞ、親友」
「むー、なのです…」
うん、体調も問題無いみたいだ。
クドだけは少しだけ不安そうな顔をしているけど……と、そうそう。
「クド?」
「はい?」
「どうしたの? 部屋に来るなんて」
「…あ、忘れてましたっ」
やっぱり用があって来たみたいだ。
たまたまいいタイミングでドアを開けちゃったんだろうな……
「あのですねっ……」