「みんな! 頑張ってるみたいだね」
「誰だお前は?」
「僕だよ僕! そんな素の表情で尋ねないでくれませんか!?」
爽やかな登場シーンも一瞬しか保てなかったらしい。
春原は必死な形相で俺の返し台詞を跳ね除けてきた。
「僕? なんだ、新手の詐欺か」
「あ? 詐欺ってどういうことだよ岡崎?」
「ボクボク詐欺」
「聞いた事無いよそんな詐欺! しかもやけに丁寧そうな詐欺っすねっ!?」
「あ、春原くんだ、どうしたの~?」
「いやね、そろそろ僕の助力が必要なんじゃないかなって思ってさ。 小毬ちゃん、何でも言ってくれていいからね」
「え? え~と……」
無駄に恩着せがましく、その上妙なポーズを決めたままの格好で答える春原に、神北は言い難そうに口ごもる。
「小毬君、良いのだよ」
「ゆいちゃん……」
「ああ…… 正直に言ってあげると良い。 素直にな」
「……うん」
そんな神北の肩にやさしく手をかけたのは来ヶ谷だ。
その一言に勇気を貰ったのか、神北は意を決して春原を見据える。
「春原さんっ」
「ん? なにかな?」
「実はですね」
「うん!」
「もう必要なかったりします」
「……え?」
実際、明日の準備はもう殆ど終わっている。
ぶっちゃけタイミングが悪いなんてものじゃない。
「お、岡崎……」
期待に満ちた目で俺に助けを求める。
わかってるって。
「じゃあな」
「って全然理解してくれていませんよねっ!?」
「でだ、宮沢。 さっきの話なんだが」
「既に意識の外ですか僕っ!?」
ったく。
「そもそもお前は罰ゲーム側じゃないだろ? どうしたんだよ」
「どうした……だって……?」
……春原がフルフルと震えだした。 ちょっと怖えぇ。
「トイレか?」
「寒いのでしょうか?」
「珍しいおまじないなのでは……?」
「マナーモードなんじゃないか?」
「そういう儀式なんだろう」
「きしょいな」
「くけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「「「「!?」」」」
「僕はねえ! 寂しいんだよ! 寂しいんだよ! 寂しいんだよ!」
こいつ、同じ事を三回も言いやがった。
「ずっと前から岡崎は渚ちゃんにべったりだし、その上ここしばらくこの事にかかりっきりだしさ! 構ってくれよ!」
なんとも嫌な告白だな。
「なんだこいつ。 ホモなのか? ホモなのか? ホモなんだな?」
「棗妹、真似しないほうが良いぞ?」
「……なるほど」
「西園? 今手帳に書いた事、素直に言ってみてくれ怒らないから」
さて、どうやって春原を落ち着かせるかが問題だな…
「ふぅ、またつまらない者につまらない物を投げてしまったわ……」
「こういう時は智代かお前、どちらかがいると助かるよな」
「ヤな担当にしないでよね、もう」
杏の活躍で、ようやく落ち着きを取り戻したのもつかの間、
「すみません失礼します、こちらに……え?」
「あ、仁科さん」
「古河さん……ええと、……これは一体……」
資料室の扉から入ってきた人物が床に横たわるその物体を見て声を失った。
「なんだ仁科。 渚に用か?」
「……いいえ、そちらの……」
「?」
不思議な事に、仁科の視線の先には床しかないんだが。
「仁科さん、もしかして春原さんに御用ですか?」
「渚、それはないだろう」
「はい。 春原さんを探していました」
「ほら、仁科もこう言ってる……って春原に用事っ!?」
いくら顔見知りとは言え、春原に用があるなんて事が現実にあるなんて…
「ってアンタ今むちゃくちゃ失礼な事思い描きましたよねっ!?」
お? 復活早いな。
「で、僕に用って?」
「はい、こちらをお返ししようと思いまして」
仁科はほわっとした笑顔を見せながら春原に近づく。
「……朋也氏、あのお嬢様系な娘は?」
「来ヶ谷? ……少し雰囲気が怖いぞ」
「これは失敬。 身近にはいないキャラクターだったものでな」
「……」
「ん? どうしたのかね?」
「いや、なんでもない。 ……あいつは仁科りえ。 渚の友達で二年生だ」
「……ほう」
「別にいつだってよかったのに」
「はい。 でも大切にされているってお聞きしましたので」
「ははっ、そうだね」
春原から借りた?
仁科が?
……何を?
仁科が懐から取り出したのは、一本のカセットテープだった。