「わたしは……鈴さんが好きです」
最初の言葉は、告白だった。
「? やぶからぼうだな。 うん、ぼーぼーだ」
「鈴? 意味わかってる、それ?」
クドは僕と鈴のそんなやりとりに目を細め、ゆったりとした口調で言葉を続ける。
「……もっと具体的に言いますと、リキと一緒にいる時の鈴さんが……大好きでした」
クドの表情は変わらない。
包み込むような笑顔…… 少しだけ覗く八重歯……
そして、
「でも、その想いと同じくらい……」
迷いの無い、その瞳。
「私はリキが……好きでした」
「っ!?」
刹那、鈴の肩が震える。
「鈴さん、ごめんなさいです…… 私は────」
「理樹は馬鹿だな」
「え、断定なのっ?」
「ああ、もうくっちゃくっちゃ馬鹿だ」
えっと、それは『くちゃくちゃ』の上位語なのかな……?
今、ここにいるのは僕と鈴の二人だけだった。
既にクドは、真人と一緒にここから離れている。
昨日の出来事とクドの想い、さっきまで抱えていた悩み……
それらを語ったクドは、とてもすっきりとした声で最後にこう締めくくった。
──だからこそ、これからも仲良しさんでいたいのです──
「クドはいいこだ。 あたしがほしょーする」
「うん、知ってるよ」
「それなのに付き合わないのか? 理樹は?」
「……うん」
「……そうか」
結局クドは僕が告白を断った理由に関しては言葉を濁した。
それを言うのは自分の役目ではないと。
彼女の目が、そう語っていた。
「そもそも」
「ん?」
「あの馬鹿はどーしてクドにつっかかったりしたんだ? 昨日の夜に」
「んー、どうしてだろうね」
「なんだかあいつらしくない感じがする」
「……そうだね」
鈴の言うとおりだった。
それは僕も感じていた違和感。
真人にも思うところがあったんだろうか?
今日の手助けも、それに繋がる事?
「だけどさ、こればかりは本人じゃないとわからないよ」
「そうなのか?」
もしくは、当の本人にもわからないことなのかもしれない。
「もう一つわからない」
「……クドが鈴に話をした理由、かな?」
ちりん
頷きが鈴の音を響かせる。
「クドは、あたしに『ごめんなさい』って言った」
「うん」
「確かにびっくりした。 おどろいた」
鈴は僕を真っ直ぐみつめる。
「でも、どうして謝るんだ? ……どうして、あんな顔をあたしに向けたんだ?」
それは抜け駆けをした事に対する謝罪。
いくら僕が違うと諭しても、クドにとってはそれが事実だったから。
それは大好きな友達への懺悔。
許しを請うわけでもなく、自分の気持ちに線を引く為の行為。
でも、本当に伝えたかったのは……
「僕達の為、なんだと思う」
「? 理樹と、あたしの?」
それは、きっと……
「鈴」
「……ん」
クドの優しさ。
「聞いて欲しいんだ」
ちりん
──その優しさに甘える僕は、酷い奴なんだろうか。
「僕は……クドの告白には応えられなかったんだ」
ちりん
──その優しさがなかったら、勇気を出す事も出来なかったんだろうか。
「好きな娘が、いるから」
少しだけ、鈴の頬に赤みが差している。
そう思えたのは、きっと、勘違いじゃない。
「……どうして、そんなこと、あたしに言うんだ?」
もしかしたら。
鈴は今、期待してくれているのかもしれない。
……そんな都合の良い考えが顔を覗かせたその時、驚きを含んだ声が突き刺さった。
「……ちょっと! 恭介っ!?」
今のって藤林さん……?
えと、また恭介が何かした……
「恭介ぇっ!!」
「っ!?」
肺が、縮む。
今のは……紛れもない……
叫び声、だった。
半ば反射的に駆け出す。
たった三歩。
それだけで、その光景を目にする事が出来た。
横たわる姿……
藤林さんはその体の上体を起こそうとして……
その所為か、
それは、
その体勢が、
まるで、
『あの時』の再現に見えて……
「恭介ぇぇぇぇっ!」