「わたしは……鈴さんが好きです」

 

 最初の言葉は、告白だった。

 

「? やぶからぼうだな。 うん、ぼーぼーだ」

「鈴? 意味わかってる、それ?」

 

 クドは僕と鈴のそんなやりとりに目を細め、ゆったりとした口調で言葉を続ける。

 

「……もっと具体的に言いますと、リキと一緒にいる時の鈴さんが……大好きでした」

 

 クドの表情は変わらない。

 包み込むような笑顔…… 少しだけ覗く八重歯……

 そして、

 

「でも、その想いと同じくらい……」

 

 迷いの無い、その瞳。

 

「私はリキが……好きでした」

「っ!?」

 

 刹那、鈴の肩が震える。

 

「鈴さん、ごめんなさいです…… 私は────」

CLANALI3  第二十七話

「理樹は馬鹿だな」

「え、断定なのっ?」

「ああ、もうくっちゃくっちゃ馬鹿だ」

 

 えっと、それは『くちゃくちゃ』の上位語なのかな……?

 

 今、ここにいるのは僕と鈴の二人だけだった。

 既にクドは、真人と一緒にここから離れている。

 昨日の出来事とクドの想い、さっきまで抱えていた悩み……

 それらを語ったクドは、とてもすっきりとした声で最後にこう締めくくった。

 

 ──だからこそ、これからも仲良しさんでいたいのです──

 

「クドはいいこだ。 あたしがほしょーする」

「うん、知ってるよ」

「それなのに付き合わないのか? 理樹は?」

「……うん」

「……そうか」

 

 結局クドは僕が告白を断った理由に関しては言葉を濁した。

 それを言うのは自分の役目ではないと。

 彼女の目が、そう語っていた。

 

「そもそも」

「ん?」

「あの馬鹿はどーしてクドにつっかかったりしたんだ? 昨日の夜に」

「んー、どうしてだろうね」

「なんだかあいつらしくない感じがする」

「……そうだね」

 

 鈴の言うとおりだった。

 それは僕も感じていた違和感。

 真人にも思うところがあったんだろうか?

 今日の手助けも、それに繋がる事?

 

「だけどさ、こればかりは本人じゃないとわからないよ」

「そうなのか?」

 

 もしくは、当の本人にもわからないことなのかもしれない。

 

「もう一つわからない」

「……クドが鈴に話をした理由、かな?」

 

  ちりん

 

 頷きが鈴の音を響かせる。

 

「クドは、あたしに『ごめんなさい』って言った」

「うん」

「確かにびっくりした。 おどろいた」

 

 鈴は僕を真っ直ぐみつめる。

 

「でも、どうして謝るんだ? ……どうして、あんな顔をあたしに向けたんだ?」

 

 それは抜け駆けをした事に対する謝罪。

 いくら僕が違うと諭しても、クドにとってはそれが事実だったから。

 

 それは大好きな友達への懺悔。

 許しを請うわけでもなく、自分の気持ちに線を引く為の行為。

 

 でも、本当に伝えたかったのは……

 

「僕達の為、なんだと思う」

「? 理樹と、あたしの?」

 

 それは、きっと……

 

「鈴」

「……ん」

 

 クドの優しさ。

 

「聞いて欲しいんだ」

 

  ちりん

 

 ──その優しさに甘える僕は、酷い奴なんだろうか。

 

「僕は……クドの告白には応えられなかったんだ」

 

  ちりん

 

 ──その優しさがなかったら、勇気を出す事も出来なかったんだろうか。

 

「好きな娘が、いるから」

 

 少しだけ、鈴の頬に赤みが差している。

 そう思えたのは、きっと、勘違いじゃない。

 

「……どうして、そんなこと、あたしに言うんだ?」

 

 もしかしたら。

 鈴は今、期待してくれているのかもしれない。

 

 ……そんな都合の良い考えが顔を覗かせたその時、驚きを含んだ声が突き刺さった。

 

 

「……ちょっと! 恭介っ!?」

 

 

 今のって藤林さん……?

 えと、また恭介が何かした……

 

 

「恭介ぇっ!!」

 

 

「っ!?」

 

 肺が、縮む。

 

 今のは……紛れもない……

 

 叫び声、だった。

 

 半ば反射的に駆け出す。

 たった三歩。

 それだけで、その光景を目にする事が出来た。

 

 

 

 横たわる姿……

 藤林さんはその体の上体を起こそうとして……

 

 その所為か、

          それは、

 その体勢が、

          まるで、

 

 『あの時』の再現に見えて……

 

 

「恭介ぇぇぇぇっ!」

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