「葉留佳ぁ、嬉しいよね、信じられないよね? 一緒にクリスマスパーティーをしてるのよ? うあぁぁぁぁぁん」

「うんうん、そーだね。 お姉ちゃんと一緒だもんね」

「葉留佳ぁ、葉留佳ぁぁ……」

「いや、ちょっと、苦しいのですヨ? そんなにぎゅーっとされると」

 

 俺にはよくわからない理由で三枝に縋り付いている二木。

 どっちが姉なんだかわかりゃしないな。

 

「鷹文ばーか鷹文ばーか鷹文ばーか」

「いやホントその罵倒、意味全っ然理解できないからね?」

「鷹文ばーか鷹文ばーか鷹文ばーか、このヘタレ…… 鷹文ばーか鷹文ばーか鷹文ばーか」

「息継ぎまで根拠の無い罵倒なんだね……」

 

 鷹文の背中に覆いかぶさりながら、その耳元でなんかぶつぶつ言っている河南子。

 傍から見たら、鷹文に全身全霊で甘えているようにしか見えないが。

 

「朋也くん、その時はとてもとても可愛い男の子だったの」

「っ!? ……幼い朋也くん…… ことみちゃんっ、是非とも詳しく教えてくださいっ」

「? 渚ちゃん、おめめがすごくキラキラしているの」

「半ズボンなんですかっ? 短パンなんですかっ? そこのところはっきりさせてくださいっ!」

 

 ことみと渚は二人揃って床にぺたりと座り込み、ものすごくどうでもいい談議を繰り広げている。

 お前ら…… いや、何も言うまい。

 

 俺は目の前で繰り広げられている惨状から背を向け、断腸の思いで決断を下した。

 関わったら負けだ、と。

CLANALI3  第二十六話

「なんだよ小僧、あいつらをどうにかしないのか?」

「ほっとこう。 それが懸命だ」

 

 俺が近くの椅子に座り込むと、この流れの元凶であるオッサンが早苗さんと一緒に寄ってきた。

 返答と溜息が同時に零れる。

 ま、無礼講なパーティーだ。 それぞれが楽しんでいるならそれはそれで問題ないんだが……

 

「オッサン、これって狙ってやってるのか?」

「さてな」

 

 オッサンは煙草を口に咥えながら──もちろん場所が場所だけに火は着けていないが──にやりと笑顔を見せた。

 

「秋生さん、『折角の機会だ、あいつらを酔わせてみたら面白くなりそうじゃねぇか?』なんて言っていたのは誰ですか?」

「……はて、誰の事やら」

「無茶苦茶狙い通りじゃねえか」

 

 それにしても……

 

「なぁ、飲ませたものって本当に酒じゃないんだよな?」

「んだよ、疑り深えなぁ。 間違いなくノンアルコールだよ。 ま、若干苦味のある大人向けなジュースだとでも思えや」

 

 場の雰囲気、か。

 擬似的だとしても、それだけでここまで酔うものなんだろうか?

 

 ……ぶっ!?

 今、視界の隅で風子が来ヶ谷に捕まって……

 ……いや見てない、俺は見てないぞ。

 今の光景はとっとと意識の外へ押し流すべきだ。

 

「なんにせよ、だ」

「オッサン?」

「色々と溜まってたんじゃねえのか? 将来の事に今の事……進学、就職、人間関係に心の葛藤。 ……どいつも、な」

 

 ……

 改めて辺りを見回す。

 本音だか愚痴だかが混ざり合う混沌とした会場内。

 あの渚でさえ普段とは違った表情を見せている。

 ……そっか。

 こんな事だって、必要な事なのかもしれないな……

 

「ってまぁぶっちゃけると若い娘っ子達の乱痴気が見られて、俺様テンションリピドーパトスがいやっほーーって事なんだけどな!」

「結局は面白目的かよっ!?」

 

 一瞬でも理解しようとした俺が馬鹿だった。

 

「というわけでお前もどうだ? ん?」

「どうだじゃねえよ……」

「ちっ、仕方ねえな。 だったら他の若い奴にでも……って早苗?」

「私では……」

 

 あ、この肩の震え方は間違いない。

 

「私では秋生さんの迸る熱いパトスを満足させられないんですね~~~っ!」

「早苗っ!?」

 

 顔を両手で覆い、パタパタと資料室から駆け出していった……

 

「え? なんでだ? 今回は別にあいつのパンを引き合いに出してなんかいねえぞっ!?」

「嫉妬じゃないのか?」

「嘘だろっ!? 色目を使ったとかそんなんじゃねえだろ!?」

「……もしかして、早苗さんも酔ってるんじゃないのか?」

「……」

「……」

 

 だとしたらやばい。 色々とやばい。

 酔った早苗さんは見ている分には面白いんだが、その、なんだ。

 

「……小僧、後は任せた」

「とっとと行って来い」

 

 と返答した時には、既にオッサンの足は一歩を踏み出していた。

 

「早苗~~っ! 俺はお前が相手ならパトス以外にもいろんなモノが迸るんだ~~~~~~っ!!」

 

 あまり具体的には知りたくないような告白だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、今日はこのくらいにしておいたほうが良さそうだな……」

 

 オッサン達大人組みも離れていってしまった事だし、残りの面子はこんな有様だし。

 撤収のタイミングをどうやって切り出そうかと考えていた。

 

「結局はこんな終わり方だったけど、これはこれで思い出に残るクリスマスって事、か」

 

 柄にもなく自然と顔が綻ぶ。

 でも。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな感慨を無慈悲に奪い去ったのは、杏の悲痛な叫び声だった。

 

 

 

 

「え?」

 

 崩れ落ちる棗の身体。

 それはまるで、糸が切れたかのように。

 

「恭、介……? ……ちょっと! 恭介っ!? 恭介ぇっ!!」

 

 

 

 楽しく過ごした12月24日。

 ……今年のクリスマスは、まだ、終わりそうになかった。

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