「んだよ、俺だって飲みてえよ」

「うっさい、ぼけぇ。 お前まであいつらみたいになったらどーする」

「筋肉の心配か? 安心しな、俺の筋肉はそれくらいじゃ萎んだりしねえぜ」

「おかしくなったお前の相手をせにゃならんあたし自身の心配じゃ!」

 

  どごぉっ!

 

 鈴のハイキックが綺麗につっこまれる。

 

「ああ、さいですか……」

 

 首を微妙な角度に曲げたままだったけど、そんなに大きなダメージにはなっていないみたいだった。

 

「鈴。 だからさ、真人へのつっこみは基本チョップにしておこうって話したでしょ?」

「問題ない」

 

 いやいやいや。

 

「わふぅ、井ノ原さん、だいじょうぶですか?」

「へっ、こんなつっこみ屁でもねえぜ。 俺の頸長筋は伊達じゃねえさ」

「流石井ノ原さんですっ! 私の心配なんてそのマッスルの前では形無しですっ!」

「ありがとよ」

「こいつ馬鹿だっ! クドまで変だっ!?」

 

 クドと一緒に真人の側まで近寄ったんだけど、当の本人はどうもよく分からない事で鈴につっこまれていた。

 真人がボケて、鈴がつっこみ、僕がフォロー。

 そしてクドが心配して、結局その場が和むいつもの流れ。

 ここには大切な『毎日』が当たり前のように存在していた。

 でもその当たり前に辿り着くまで、少しだけ遠回りしてしまったけど。

CLANALI3  第二十五話

「真人、ありがとう」

「おぉ? ……ああ」

 

 返ってきたのは素っ気ない一言だけ。

 だからこそ、その言葉に救われる。

 本当にありがとう。

 

「ん? どーした? 理樹、お前こいつから何か貰ったのか? カップゼリーか?」

 

 違うって。

 

「井ノ原さん、遅れましたが私からもお礼を言わせてください。 ありがとうございましたっ」

「気にすんなって。 ほら、クー公、もっと良い笑顔になるには頬筋を鍛えるのが一番だ!」

「はいですっ!」

「よっしゃ俺に続け! マッスル笑顔! マッスル笑顔!」

「まっする笑顔! まっする笑顔!」

 

 口を大きく開け閉めさせ始めた真人に倣って、クドまで同じ動きを始めた。

 二人ともすっごく楽しそうだけど、ナニ?この空間?

 

「怖っ! なんだ怖っ! うわっ、怖っ!」

 

 あっという間に3わけわからんポイントゲット。

 ほぼ反射的に怖い発言をした鈴は一瞬だけ物思いに耽った後、僕の顔を覗き込んで、

 

「どーしたんだホントに? 何がどーなってるんだ?」

 

 当然とも思える疑問を投げてきた。

 いや、そんな大したことじゃないんだけどね……

 と、口にしようとしたけど、言葉にする前に思い直した。

 大したこと、あるよね。

 うん、とても大切な事なんだ。

 

「……」

「? どーした理樹?」

 

 慎重に言葉を選ぶ。

 今、僕が答えられるのは……

 

「真人のおかげで、クドと仲直り出来たんだよ」

「なかなおり? 理樹、お前クドと喧嘩してたのか?」

「うーん、そういう意味じゃなくて……」

「じゃあ今迄は仲が悪かったのか? それは予想外だな。 うん、予想外だ」

「いやいやいや、そうでもなくてね?」

「なんだ、はっきりしろ」

「……あ~」

 

 実は昨日クドに告白されて、それを僕が断って、今日もさっきまで無意識にギクシャクしてたんだよ。

 なんて直球言えるわけがない。

 

「言えないのか? 秘密なんだな? そーなんだな?」

「……鈴」

「……別にいい。 悔しくもなんともない」

「ちょっと鈴?」

「うるさい」

「だから僕の話を、」

「ふかーっ!」

 

 あああ。

 あからさまに不機嫌になってるよ……

 うーん、どうやって伝えるべきなのか。

 鈴に対して全てを話す必要はないんだけど、クドは勿論の事、僕にしてみても『鈴が関係している』のは事実だし……

 

「秘密なんかじゃないのです、鈴さん」

「「クド?」」

 

 そこにあったのは、柔らかな微笑み。

 

「鈴さんにはお話しようと思っていました。 私自身の口でです」

「……クド」

 

 つい口を挟んでしまう。

 

「だめですよリキ。 こればかりはリキにも譲りません。 ……譲れないのです」

「でもさ、それなら一緒に」

 

 そこで僕の肩に手がかかっていることに気が付いた。

 大きな、大きな掌が。

 

「……真人」

「俺も具体的には聞いちゃいねえ。 だがよ、クー公がけじめをつけようとしてるんだ」

「そんな、けじめって! そんな単語で纏めようとしても、」

「だから詳しくは知らねえって、例えってやつだよ。 なんにせよクー公が決めた事だろ?」

「……」

「気持ちを汲んでやんな」

「……うん」

「お二人とも、ありがとです。 鈴さん、少しだけお時間いいですか?」

「……よくわからんがわかった。 クドの頼みなら断らない」

「わふっ……はいっ、ありがとですっ」

 

 では、鈴さんに理樹……井ノ原さんもよろしいですか?

 クドはそう言いながら、少し奥まった本棚の間へと僕らを誘った。

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