「ちょっと待てよ岡崎っ!」

「? 春原?」

 

 突如背後から投げかけられた春原の言葉。

 その声には、どこか緊迫したものが混ざっていた。

 

「僕とだってそんなことしてくれたこと無いのにっ! 僕達は親友だろ!?」

 

 ……? 何のことだ?

 そんな俺の疑問に答えるかのように、春原は西園が回収しようとしていたストロー二本挿しコップを手にとって、

 

「一緒に飲もうぜっ、ぐほぉっ」

 

 とりあえず殴っておいた。

 ぐーで。

CLANALI3  第二十四話

 ……なんなんだ一体?

 酒も入っていないのに酔っ払ってんのかこいつは?

 

「あー悪い。 智代、ちょっと手伝ってくれないか?」

「なんだ岡崎……ん? 春原……?」

 

 床の上で大の字に転がっている春原を見て、うわ……と声を出しながら近づいてくる智代。

 状況は理解してもらえただろうか。

 

「おい、こんなところで寝ていると風邪を引くぞ? しかも普通に迷惑だ」

 

 智代は軽く失神している春原の横にしゃがみこみ、なんとも面白い表情になっている顔をぺちぺちと叩く。

 

「こいつ、どうも頭のネジが緩んでいたみたいでな。 つい反射的に引導を渡しちまった」

 

 別に自分のとった行動に後悔はないが、起こすなりなんなりしないとパーティーに支障が出そうだ。

 俺も智代に倣って春原の顔をがすがすと叩くが、当の本人は一向に目を覚ましそうもない。

 

「なんだこれ? 寝てんのか? 床がそんなに気持ちいいのかコイツ?」

「いや、失神してるだけだと思うよ?」

 

 何やってんだ?と河南子に鷹文が寄って来た。

 

「なんでもない。 目を覚まさせてやろうと思ったらいつの間にか眠りについてた」

「はあ? 意味わかんね」

 

 仕方がないので四人で春原の両手両足を持つ。

 そのまま部屋の片隅に引きずっていった。

 

「あれ? 春原さん? ……え? お休み中ですか?」

 

 そんな俺達の行軍に不思議な表情を返しているのは仁科だった。

 仁科は小走りで駆け寄ってくると、

 

「あの、春原さん……なんだかモップみたいになってますよ?」

 

 若干見当違いな感想を述べてくれた。

 

「『僕、床が大好きっ!』 ……それが生前の口癖でな。 察してやってくれ……」

「……はぁ」

 

 

 

 

 

 

 ものすごい勢いではてなマークを浮かばせていた仁科だったが、春原が目を覚ますまで見ていてくれるそうだ。

 問題の春原は鷹文が乱入してきた時の紙袋を河南子に被せられ、奇妙なオブジェと化していた。

 

「ったく。 ホントなんだったんださっきのは」

「春原の奇行は今に始まった事ではないだろう? 岡崎もそんなに気にしないことだ」

 

 智代……お前も慣れたもんだな。

 にしてもさっきのあいつのテンション、なにか原因があるんじゃないか?

 いくらなんでもあの豹変は……

 

「おう小僧、どうだお前もっ!」

 

 威勢のいい声が響く。

 振り返ってみるとやけに上機嫌なオッサンがいた。

 若干上気した頬、無駄に大げさな身振り、そしてその手には……

 

「アンタか。 そもそもの原因は……」

 

 溜息と共に頭を抱える。

 ったく、これだけ学生が多いパーティーだっていうのに……

 

「おい、岡崎……もしかして」

「ああ、間違いない」

 

 俺達の視線には、どこからか手に入れてきたワインのビンを手にひゃっほーなんて叫んでいるオッサンの姿が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「やはーっ! おねえちゃん良い飲みっぷりーっ!」

「……葉留佳ぁ、葉留佳ぁぁ」

「ありゃりゃ、泣き上戸?」

 

 おい。

 

「ちょっと聞いてるの恭介!? だからアンタはにぶちんなのよっ!」

「……にぶちん……」

「そーよー? このにーぶーちーんー」

「……う、うあああああ……」

 

 待て。

 

「待て待て待て! オッサン、これは洒落にならないだろっ!?」

 

 クリスマスパーティーだと言っても、ここは校内だ。

 いくらなんでも酒はマズイだろ!?

 

「あー?」

 

 あーじゃねぇ!

 

「不っ思議だよな」

「オッサン、いい加減に……っ」

 

 思わず胸倉を掴みあげる。

 

「これビンも、こいつらに飲ませたのも…… ノンアルコールだぜ?」

「そんなもの飲ませたら誰だって……え?」

「いっちまえばプラシーボ効果ってヤツか? 青春だねぇ~」

 

 嘘……だろ?

 全員、勘違いで?

 

「まーーーーんまーーーーんまーーーーんっ!」

「ほわあああああああああ、謙吾くんの動きが怖いぃぃぃぃぃぃっ」

 

 ……この状況をどうにかしろ、と?

 

 

 いや、マジで勘弁してください。

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