「ちょっと待てよ岡崎っ!」
「? 春原?」
突如背後から投げかけられた春原の言葉。
その声には、どこか緊迫したものが混ざっていた。
「僕とだってそんなことしてくれたこと無いのにっ! 僕達は親友だろ!?」
……? 何のことだ?
そんな俺の疑問に答えるかのように、春原は西園が回収しようとしていたストロー二本挿しコップを手にとって、
「一緒に飲もうぜっ、ぐほぉっ」
とりあえず殴っておいた。
ぐーで。
……なんなんだ一体?
酒も入っていないのに酔っ払ってんのかこいつは?
「あー悪い。 智代、ちょっと手伝ってくれないか?」
「なんだ岡崎……ん? 春原……?」
床の上で大の字に転がっている春原を見て、うわ……と声を出しながら近づいてくる智代。
状況は理解してもらえただろうか。
「おい、こんなところで寝ていると風邪を引くぞ? しかも普通に迷惑だ」
智代は軽く失神している春原の横にしゃがみこみ、なんとも面白い表情になっている顔をぺちぺちと叩く。
「こいつ、どうも頭のネジが緩んでいたみたいでな。 つい反射的に引導を渡しちまった」
別に自分のとった行動に後悔はないが、起こすなりなんなりしないとパーティーに支障が出そうだ。
俺も智代に倣って春原の顔をがすがすと叩くが、当の本人は一向に目を覚ましそうもない。
「なんだこれ? 寝てんのか? 床がそんなに気持ちいいのかコイツ?」
「いや、失神してるだけだと思うよ?」
何やってんだ?と河南子に鷹文が寄って来た。
「なんでもない。 目を覚まさせてやろうと思ったらいつの間にか眠りについてた」
「はあ? 意味わかんね」
仕方がないので四人で春原の両手両足を持つ。
そのまま部屋の片隅に引きずっていった。
「あれ? 春原さん? ……え? お休み中ですか?」
そんな俺達の行軍に不思議な表情を返しているのは仁科だった。
仁科は小走りで駆け寄ってくると、
「あの、春原さん……なんだかモップみたいになってますよ?」
若干見当違いな感想を述べてくれた。
「『僕、床が大好きっ!』 ……それが生前の口癖でな。 察してやってくれ……」
「……はぁ」
ものすごい勢いではてなマークを浮かばせていた仁科だったが、春原が目を覚ますまで見ていてくれるそうだ。
問題の春原は鷹文が乱入してきた時の紙袋を河南子に被せられ、奇妙なオブジェと化していた。
「ったく。 ホントなんだったんださっきのは」
「春原の奇行は今に始まった事ではないだろう? 岡崎もそんなに気にしないことだ」
智代……お前も慣れたもんだな。
にしてもさっきのあいつのテンション、なにか原因があるんじゃないか?
いくらなんでもあの豹変は……
「おう小僧、どうだお前もっ!」
威勢のいい声が響く。
振り返ってみるとやけに上機嫌なオッサンがいた。
若干上気した頬、無駄に大げさな身振り、そしてその手には……
「アンタか。 そもそもの原因は……」
溜息と共に頭を抱える。
ったく、これだけ学生が多いパーティーだっていうのに……
「おい、岡崎……もしかして」
「ああ、間違いない」
俺達の視線には、どこからか手に入れてきたワインのビンを手にひゃっほーなんて叫んでいるオッサンの姿が映っていた。
「やはーっ! おねえちゃん良い飲みっぷりーっ!」
「……葉留佳ぁ、葉留佳ぁぁ」
「ありゃりゃ、泣き上戸?」
おい。
「ちょっと聞いてるの恭介!? だからアンタはにぶちんなのよっ!」
「……にぶちん……」
「そーよー? このにーぶーちーんー」
「……う、うあああああ……」
待て。
「待て待て待て! オッサン、これは洒落にならないだろっ!?」
クリスマスパーティーだと言っても、ここは校内だ。
いくらなんでも酒はマズイだろ!?
「あー?」
あーじゃねぇ!
「不っ思議だよな」
「オッサン、いい加減に……っ」
思わず胸倉を掴みあげる。
「これビンも、こいつらに飲ませたのも…… ノンアルコールだぜ?」
「そんなもの飲ませたら誰だって……え?」
「いっちまえばプラシーボ効果ってヤツか? 青春だねぇ~」
嘘……だろ?
全員、勘違いで?
「まーーーーんまーーーーんまーーーーんっ!」
「ほわあああああああああ、謙吾くんの動きが怖いぃぃぃぃぃぃっ」
……この状況をどうにかしろ、と?
いや、マジで勘弁してください。