「あの二人って……恭介達の事?」
理樹の問い返しに対して、佳奈多は視線を外さないまま肯定も否定もしなかった。
それは恰も、寄り添いあうかのような二人を見続ける事が返答だと言うように。
「……どうだろう? 本人達の口から聞いてもいないし、実際まだそういった関係じゃないと思うんだけど」
「まだ……ね」
「うん」
「……」
「……」
不意に訪れる沈黙。
「二木さん?」
その僅かな時間で何かを感じ取ったのだろう。
理樹は佳奈多の瞳から視線を外せなかった。
「そう……」
結局佳奈多が答えたのはたったの一言。
何かを認めたような、決意を秘めたような。
……溜息の混じりの返事だった。
「失礼します」
「こんにちは……すごい人数ですね」
遠慮がちに開かれた扉。 姿を現したのは光坂高校下級生の面々だ。
宮沢に続いて、仁科達合唱部の三人が入ってきた。
「盛り上がっているみたいですね」
「りえちゃん……これは盛り上がっているって言うよりも、」
笑顔の仁科にやや呆れ気味な言葉を吐きそうになった杉坂は、言い切る寸前で言葉を飲み込む。
「おっ岡崎さん!?」
代わりに零れた言葉は戸惑いの感情だった。
「外は寒かったのかな? こんなに鼻を赤くして…… その姿も名残惜しいけど、預からせてもらっていいかな?」
入り口近くにいた朋也が不意を付く形でホストモードに突入。
蜂蜜のような話し方で彼女達に近づき、杉坂のコートを脱がす手伝いを始めた。
「えっ!? ……あ、は、はい…。 ありがとうございま……っ!?」
「さ、先ずは左腕から」
「っ!?」
あくまでも優しく、紳士的に。 ……笑顔はそのまま、必要以上に顔を近づけて。
「……朋也もやるわね、って恭介、アンタも仕事よ仕事っ!」
「ったく了解だ、いえっさー」
杏の指示によってもう一人のホスト、恭介が出陣。
彼女達に話しかける頃には、彼の表情・行動もホストになりきっていた。
「有紀寧さん、メリークリスマス。 来てくれて嬉しいよ」
「恭介さん……? 凄いです、お似合いですね」
「そんなことはないさ。 君のその姿に比べたら…… 魅力的だ」
「あはっ、ありがとうございます」
蕩けるボイスに蟲惑的なフェロモン。
なにやってんだよ俺はぁっ、と内心いくら叫んでみたところでルールはルール。
見事に役割を演じきっているホストの二人だった。
「……」
「ふ、二木……さん……?」
ぴりぴりとした視線を向ける者がいた事なんて、知るよしもなく。
「お?」
「本当ですねっ」
古河夫妻が、揃って感嘆の溜息をつく。
「良い腕してんじゃねーか、お嬢ちゃん」
「そんな、ただの自己流です。 でも、ありがとうございます」
招かれる側の宮沢だったが、いつの間にか甲斐甲斐しい世話を焼き始めていた。
特に好評だったのは宮沢特性コーヒー。
古河夫妻も例外なく、初めて彼女の腕前を味わう者達は、全員揃って同じ感想を抱いたようだった。
「そろそろ良い頃合でしょうか」
「みんな、ちょっとだけ落ち着いてきたの」
同じくコーヒーを楽しんでいた美魚とことみが状況を判断する。
クリスマスパーティーの余興(と言うよりも二人の希望?)を開始するタイミングを計っていたのだが、
「んー、ちょっと待ってもらってもいいかな?」
「どうかされましたか?」
小毬が周囲を見渡しながら、二人に少しの待ったをかけた。
「えとですね、全員揃っていたほうが楽しいと思うのですよ」
「と仰いますと?」
「実はさっき、謙吾くんが飛び出しちゃって……」
「放っておきましょう」
美魚、即断。
「ええええっ!?」
「いえ、流石に冗談ですが……」
一応のフォローを入れる美魚だったが、一旦テンパった小毬はそう簡単には止まらない。
「すぐっ、すぐに連れてくるからっ! 準備だけして待っててーっ。 うわーん、謙吾くーん、どこー?」
何か色々な事を叫びながら資料室から飛び出していく小毬。
周囲から届く何事だ?という視線に対して、
「花摘みです。 大分切羽詰っていたようですね」
とだけ説明する美魚だった。