「あの二人って……恭介達の事?」

 

 理樹の問い返しに対して、佳奈多は視線を外さないまま肯定も否定もしなかった。

 それは恰も、寄り添いあうかのような二人を見続ける事が返答だと言うように。

 

「……どうだろう? 本人達の口から聞いてもいないし、実際まだそういった関係じゃないと思うんだけど」

「まだ……ね」

「うん」

「……」

「……」

 

 不意に訪れる沈黙。

 

「二木さん?」

 

 その僅かな時間で何かを感じ取ったのだろう。

 理樹は佳奈多の瞳から視線を外せなかった。

 

「そう……」

 

 結局佳奈多が答えたのはたったの一言。

 何かを認めたような、決意を秘めたような。

 ……溜息の混じりの返事だった。

CLANALI3  第十六話

「失礼します」

「こんにちは……すごい人数ですね」

 

 遠慮がちに開かれた扉。 姿を現したのは光坂高校下級生の面々だ。

 宮沢に続いて、仁科達合唱部の三人が入ってきた。

 

「盛り上がっているみたいですね」

「りえちゃん……これは盛り上がっているって言うよりも、」

 

 笑顔の仁科にやや呆れ気味な言葉を吐きそうになった杉坂は、言い切る寸前で言葉を飲み込む。

 

「おっ岡崎さん!?」

 

 代わりに零れた言葉は戸惑いの感情だった。

 

「外は寒かったのかな? こんなに鼻を赤くして…… その姿も名残惜しいけど、預からせてもらっていいかな?」

 

 入り口近くにいた朋也が不意を付く形でホストモードに突入。

 蜂蜜のような話し方で彼女達に近づき、杉坂のコートを脱がす手伝いを始めた。

 

「えっ!? ……あ、は、はい…。 ありがとうございま……っ!?」

「さ、先ずは左腕から」

「っ!?」

 

 あくまでも優しく、紳士的に。 ……笑顔はそのまま、必要以上に顔を近づけて。

 

「……朋也もやるわね、って恭介、アンタも仕事よ仕事っ!」

「ったく了解だ、いえっさー」

 

 杏の指示によってもう一人のホスト、恭介が出陣。

 彼女達に話しかける頃には、彼の表情・行動もホストになりきっていた。

 

「有紀寧さん、メリークリスマス。 来てくれて嬉しいよ」

「恭介さん……? 凄いです、お似合いですね」

「そんなことはないさ。 君のその姿に比べたら…… 魅力的だ」

「あはっ、ありがとうございます」

 

 蕩けるボイスに蟲惑的なフェロモン。

 なにやってんだよ俺はぁっ、と内心いくら叫んでみたところでルールはルール。

 見事に役割を演じきっているホストの二人だった。

 

 

「……」

「ふ、二木……さん……?」

 

 ぴりぴりとした視線を向ける者がいた事なんて、知るよしもなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お?」

「本当ですねっ」

 

 古河夫妻が、揃って感嘆の溜息をつく。

 

「良い腕してんじゃねーか、お嬢ちゃん」

「そんな、ただの自己流です。 でも、ありがとうございます」

 

 招かれる側の宮沢だったが、いつの間にか甲斐甲斐しい世話を焼き始めていた。

 特に好評だったのは宮沢特性コーヒー。

 古河夫妻も例外なく、初めて彼女の腕前を味わう者達は、全員揃って同じ感想を抱いたようだった。

 

「そろそろ良い頃合でしょうか」

「みんな、ちょっとだけ落ち着いてきたの」

 

 同じくコーヒーを楽しんでいた美魚とことみが状況を判断する。

 クリスマスパーティーの余興(と言うよりも二人の希望?)を開始するタイミングを計っていたのだが、

 

「んー、ちょっと待ってもらってもいいかな?」

「どうかされましたか?」

 

 小毬が周囲を見渡しながら、二人に少しの待ったをかけた。

 

「えとですね、全員揃っていたほうが楽しいと思うのですよ」

「と仰いますと?」

「実はさっき、謙吾くんが飛び出しちゃって……」

「放っておきましょう」

 

 美魚、即断。

 

「ええええっ!?」

「いえ、流石に冗談ですが……」

 

 一応のフォローを入れる美魚だったが、一旦テンパった小毬はそう簡単には止まらない。

 

「すぐっ、すぐに連れてくるからっ! 準備だけして待っててーっ。 うわーん、謙吾くーん、どこー?」

 

 何か色々な事を叫びながら資料室から飛び出していく小毬。

 周囲から届く何事だ?という視線に対して、

 

「花摘みです。 大分切羽詰っていたようですね」

 

 とだけ説明する美魚だった。

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