「早苗さん、飲み物のお代わりはいかがですか?」
「ありがとうございます、頂きますね。 ……岡崎さん、とてもお似合いですっ」
「いえ、楽しんでもらえたのならそれで満足ですから」
「岡崎、私も欲しいぞ」
「あー、ちょっと待ってくれ。 っと、待たせたな智代」
「……」
「ん? どうした?」
「私にも古河の母親にしたように丁寧な、その、なんだ…… してくれないのか?」
「ったく……んっん。 どうぞ、お注ぎいたします」
「あ、ああ、頼む」
まったりとした歓談の時間が過ぎていく。
それぞれが思い思いに食事や談笑を楽しみながら、このパーティーを満喫していた。
「鈴さんにクドさん、風子、お二人に質問があるんでした」
「ん、なんだ?」
「わふ?」
「どうしたらお二人のように猫さんや犬さんになれるのでしょうか?」
「わけわからんな」
「どーお答えすればよいのでしょーか……?」
「なるほど……企業秘密というものなんですね。 風子、俄然興味が湧いてきました」
「と言う訳で、その秘密を知っているのでしたら教えてください」
「ちょっと待って。 なんで僕に聞くの?」
風子が尋ねた相手は理樹。
是が非でも教えてもらいたいのか、彼女の瞳はやけに輝いている。
「実は最初、鈴さんのお兄さんに聞こうと思ったんです。 ……」
「? 伊吹さん?」
「もうっ、駄目です! せっかく風子が間を溜めてるんですから『どうして?』って投げかけてくださいっ!」
「えっ? それ僕の台詞なの?」
「もう一度です。 実は最初、鈴さんのお兄さんに聞こうと思ったんです」
「あ、うん。 ……どうして?」
「なぜならばっ! 鈴さんのお兄さんといえば、一番鈴さんの事を知っているはずです。 仮にも兄妹なんですから」
「仮もなにも、本当の兄妹なんだけどね?」
「ですがその時っ!」
「あ、僕の話はスルーなんだ」
「『ん? 鈴と能美の事? 任せろ、なんだって答えてやるぜ』」
「もしかして恭介のマネ?」
「『鈴は勿論、能美だって俺にしてみれば妹みたいな存在だ。 しっかりばっちりあいつらのデータは網羅してるさっ』」
「恭介……」
親友である恭介の事が色々な意味で心配になる理樹だったが、構わず風子は恭介のマネを続ける。
「『知りたいのは趣味の事か? それともスリーサイズか? …安心しろ伊吹、見たところスリーサイズに関しては少なくとも』、
っとその時です! 風子のないすばでぃーに目を取られていたお兄さんが、真っ青になったのはっ!」
「ナレーション付きなんだ」
「『ちょっと待て、マテマテマテ! 杏っ! どうして本棚から分厚い本を物色してるんだっ!?』、『んー手頃な重さのがないわね…』、
杏さんはそう呟きながら、本棚の奥に消えていきました…… そして駆け出すお兄さん!」
「惨劇回避に必死なんだね、恭介も……」
「一緒に駆け出す風子っ!」
「いやいやいや、追いかけなくてもいいからねっ!?」
「お兄さんの背中が語っていました。 『後のことは任せろ、俺が伝えられなかった真実は理樹に託してある。 行くんだ!』、と」
「なに? その嫌なフラグ?」
「だから風子、ここにいます」
「唐突に終わったね」
「さあ、鈴さんとクドさんのスリーサイズを教えてくださいっ!」
「知りたかったのはそれなのっ!?」
「はっ! 風子、危うく騙されるところでしたっ。 直枝さん、ありがとうございます」
「ま、まあいいけどね……」
「なるほど…… 好きだからこそ性格も近くなる、という事ですか」
「うん。 それだけが全て、だなんて言い切れないけどね。 ただ少なくとも、鈴もクドも猫や犬が大好きだから」
「何? またおかしな事吹き込まれてるの?」
そんな会話を交わす二人に近づいてきたのは佳奈多だった。
はい、と手に持った紙コップを風子に渡しつつ、理樹の隣にまで歩み寄る。
「んー、アップルジュースですっ。 風子、りんごの原産地にはうるさいんです!」
「そう? 美味しくない?」
「とっても甘くて美味しいですっ」
「ははっ」
佳奈多と風子のやりとりを目の当たりにし、理樹は無意識ながら笑みを零していた。
そう、その微笑ましい光景に……
「意味深な笑顔ね、何か言いたい事でも?」
「ううん、なんでも」
「ぷはっ」
「ちょっと、そんなに急いで飲み干さなくても……」
「美味しかったですっ。 風子、お礼にケーキをご馳走しますっ。 取ってきますので待っていてください!」
幸せそうな気配を醸し出したまま、風子は料理が並ぶテーブルに向かっていく。
理樹はテーブルにて奮闘している風子をフォローしようと動こうとしたが、隣から落ち着いた声がかかる。
「ところで直枝理樹、一つ聞いても良いかしら?」
「二木さんも僕に? いいけど……どうしたの?」
「……」
歯切れが悪いな、と疑問を持つのと同時に、佳奈多の口から言葉が紡がれる。
「結局、あの二人は付き合っているのかしら?」
その瞳が映しているのは……本棚の奥から姿を現した、男女の姿だった。