「早苗さん、飲み物のお代わりはいかがですか?」

「ありがとうございます、頂きますね。 ……岡崎さん、とてもお似合いですっ」

「いえ、楽しんでもらえたのならそれで満足ですから」

「岡崎、私も欲しいぞ」

「あー、ちょっと待ってくれ。 っと、待たせたな智代」

「……」

「ん? どうした?」

「私にも古河の母親にしたように丁寧な、その、なんだ…… してくれないのか?」

「ったく……んっん。 どうぞ、お注ぎいたします」

「あ、ああ、頼む」

 

 まったりとした歓談の時間が過ぎていく。

 それぞれが思い思いに食事や談笑を楽しみながら、このパーティーを満喫していた。

 

「鈴さんにクドさん、風子、お二人に質問があるんでした」

「ん、なんだ?」

「わふ?」

「どうしたらお二人のように猫さんや犬さんになれるのでしょうか?」

「わけわからんな」

「どーお答えすればよいのでしょーか……?」

「なるほど……企業秘密というものなんですね。 風子、俄然興味が湧いてきました」

CLANALI3  第十五話

「と言う訳で、その秘密を知っているのでしたら教えてください」

「ちょっと待って。 なんで僕に聞くの?」

 

 風子が尋ねた相手は理樹。

 是が非でも教えてもらいたいのか、彼女の瞳はやけに輝いている。

 

「実は最初、鈴さんのお兄さんに聞こうと思ったんです。 ……」

「? 伊吹さん?」

「もうっ、駄目です! せっかく風子が間を溜めてるんですから『どうして?』って投げかけてくださいっ!」

「えっ? それ僕の台詞なの?」

「もう一度です。 実は最初、鈴さんのお兄さんに聞こうと思ったんです」

「あ、うん。 ……どうして?」

「なぜならばっ! 鈴さんのお兄さんといえば、一番鈴さんの事を知っているはずです。 仮にも兄妹なんですから」

「仮もなにも、本当の兄妹なんだけどね?」

「ですがその時っ!」

「あ、僕の話はスルーなんだ」

「『ん? 鈴と能美の事? 任せろ、なんだって答えてやるぜ』」

「もしかして恭介のマネ?」

「『鈴は勿論、能美だって俺にしてみれば妹みたいな存在だ。 しっかりばっちりあいつらのデータは網羅してるさっ』」

「恭介……」

 

 親友である恭介の事が色々な意味で心配になる理樹だったが、構わず風子は恭介のマネを続ける。

 

「『知りたいのは趣味の事か? それともスリーサイズか? …安心しろ伊吹、見たところスリーサイズに関しては少なくとも』、

  っとその時です! 風子のないすばでぃーに目を取られていたお兄さんが、真っ青になったのはっ!」

「ナレーション付きなんだ」

「『ちょっと待て、マテマテマテ! 杏っ! どうして本棚から分厚い本を物色してるんだっ!?』、『んー手頃な重さのがないわね…』、

  杏さんはそう呟きながら、本棚の奥に消えていきました…… そして駆け出すお兄さん!」

「惨劇回避に必死なんだね、恭介も……」

「一緒に駆け出す風子っ!」

「いやいやいや、追いかけなくてもいいからねっ!?」

「お兄さんの背中が語っていました。 『後のことは任せろ、俺が伝えられなかった真実は理樹に託してある。 行くんだ!』、と」

「なに? その嫌なフラグ?」

「だから風子、ここにいます」

「唐突に終わったね」

「さあ、鈴さんとクドさんのスリーサイズを教えてくださいっ!」

「知りたかったのはそれなのっ!?」

「はっ! 風子、危うく騙されるところでしたっ。 直枝さん、ありがとうございます」

「ま、まあいいけどね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど…… 好きだからこそ性格も近くなる、という事ですか」

「うん。 それだけが全て、だなんて言い切れないけどね。 ただ少なくとも、鈴もクドも猫や犬が大好きだから」

「何? またおかしな事吹き込まれてるの?」

 

 そんな会話を交わす二人に近づいてきたのは佳奈多だった。

 はい、と手に持った紙コップを風子に渡しつつ、理樹の隣にまで歩み寄る。

 

「んー、アップルジュースですっ。 風子、りんごの原産地にはうるさいんです!」

「そう? 美味しくない?」

「とっても甘くて美味しいですっ」

「ははっ」

 

 佳奈多と風子のやりとりを目の当たりにし、理樹は無意識ながら笑みを零していた。

 そう、その微笑ましい光景に……

 

「意味深な笑顔ね、何か言いたい事でも?」

「ううん、なんでも」

「ぷはっ」

「ちょっと、そんなに急いで飲み干さなくても……」

「美味しかったですっ。 風子、お礼にケーキをご馳走しますっ。 取ってきますので待っていてください!」

 

 幸せそうな気配を醸し出したまま、風子は料理が並ぶテーブルに向かっていく。

 理樹はテーブルにて奮闘している風子をフォローしようと動こうとしたが、隣から落ち着いた声がかかる。

 

「ところで直枝理樹、一つ聞いても良いかしら?」

「二木さんも僕に? いいけど……どうしたの?」

「……」

 

 歯切れが悪いな、と疑問を持つのと同時に、佳奈多の口から言葉が紡がれる。

 

「結局、あの二人は付き合っているのかしら?」

 

 その瞳が映しているのは……本棚の奥から姿を現した、男女の姿だった。

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