「と、言う訳で!」

「渚のお父さん、張り切ってどーぞっ!」

 葉留佳と杏に話を振られ、秋生は大きな身振りで声高らかに宣言する。

 

「全員コップを持ったな!? ん、んん…… メリークリスマス!」

「「「「メリークリスマス!!」」」」

「あーんどハッピーバースデー、渚ぁぁっ!!」

「「「「ハッピーバースデー!!」」」」

 

 全員、それぞれが手にした飲み物を高く掲げる。

 途端に大きな喧騒に包まれる資料室だった。

CLANALI3  第十三話

「渚ちゃん、誕生日おめでとうなの」

「ことみちゃん… ありがとうございます!」

「ん、めでたいな」

「おめでとうございます」

「鈴さんに西園さんもありがとうございます!」

 

 次々と挨拶を交しに来てくれる友人達。 こんなにも大人数で過ごす誕生日は渚にとって初めての体験だった。

 自然と目頭が熱くなる。

 だがその涙が溢れる前に、彼女をもっとも大切に思ってくれる人々が側に来てくれた。

 

「渚、誕生日おめでとう」

「お母さん…」

「これでまた一つ大人の女になったなっ」

「お父さん…」

 

 娘の成長を見守る両親、見守られながら歩いていく娘。

 今はまだ道の途中。

 それでもひとつひとつの節目毎に、今ある幸せを感じ取っていた。

 

「渚、おめでとうな」

「朋也くん……っ!?」

 

 そんな中へ、なんとも自然に入り込む事が出来る男性が一人。

 彼が見せる笑顔はとても優しく、愛しむ想いが溢れていた。

 

 ……のだが、

 

「? 渚?」

「朋也くんっ! その格好でその表情は反則的ですっ! どうにかなってしまいそうですっ!!」

「…そんな事言われてもだな」

 

 ナイスホストとでも言うべき似合いすぎるデザインスーツ、肌蹴た胸元、ほのかに漂うシトラス系の香水。

 元々それなりに背丈もあり、スマートな体型である朋也がその様な姿で優しく微笑んでいる。

 大好きな恋人が醸し出すフェロモン(?)に、渚の思考は大混乱だった。

 

「でも、今日の岡崎さんはとっても素敵ですねっ」

「…早苗さん?」

「おいおい早苗、こんなガキンチョにお世辞なんて必要ない…」

「年甲斐もなくドキドキしてしまいそうですっ」

「早苗っ!?」「お母さんっ!?」

 

 妙に焦る秋生と渚。

 秋生はいつもの如く嫉妬の塊なのだが、渚にしてみても今の発言は聞き捨てならなかったらしい。

 

   ぎゅっ。

 

「おい…渚?」

 

 朋也は自らの手を握り締める渚から、おかしな気配を感じ取った。

 

「…朋也くんはっ、わたしのモノですっ!!」

「モノっ!?」

 

 渚の所有物宣言。

 

「モノって、渚お前な…」

「ちょおっと待ったコールだぁぁっ!」

「は?」

「なぎさちんの気持ちは分かる、分かっているのですがっ! 今日の岡崎くんはみんなのモノなのですヨー!」

 

 渚にストップをかけたのは葉留佳だ。

 

「岡崎くんと恭介さんはみんなのホスト、略してみんホス! みんホスの寡占化は禁止法違反なのであしからずー」

 

 いつの間にやら、みんホス独占禁止法が施行されているらしい。

 

「さぁさぁ二人とも! それになぎさちんのぱぱさんにままさんも! こっちでみんなと一緒にがちょんと騒ぎまショー!」

「っしゃーねーな。 早苗、ちょっくら並んでる料理でも食うか」

 

 やれやれ、と頭を掻きながらも中央のテーブルに向かう秋生だった。

 

「はい、行きましょうか。 渚も岡崎さんも」

「あ、はい」

「ええ」

 

 

 

 

 テーブルではもう一人のみんホスである恭介が料理を取り皿に分けていた。

 その横では、やっぱりサンタ衣装を着込んだ風子が頭の三角帽子を揺らしながら、幸せそうに料理を口に運んでいる。

 

「きょーすけ、手伝うぞ」

「お、悪いな… ん、似合ってるぞ、鈴」

「うっさい」

 

 兄妹で仲良く共同作業を始めたのだが、

 

「おい、もっとホストならホストらしく盛り付けろ」

「無茶言うなよ… 鈴、お前こそ折角の衣装なんだ。 もう少し色気を、」

「黙れへんたい」

「ま、確かに来ヶ谷や小毬、一ノ瀬達と同じ格好してたら厳しいか」

「ふかーーっ!」

「理樹には見せたのか? ん?」

「っ!? う、うっさいわ… ぼけぇ……」

「呼んでやろうか? おーい理、」

「余計なお世話じゃーーっ!!」

 

 どうも色々とあるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 それぞれがパーティーを楽しみ始めたその時だった。

 

   がらっ。

 

 扉を開く音が耳に届いたのは。

 

 

「わふ?」

「はい? ……!?」

「んだよ、誰か来たのか? ……あ?」

 

 

 扉に目を向けた数名は状況に理解が追いつかず、ただ息を呑むことしか出来ない。

 一瞬の間、

 

「わふーーーーーーーっ!?!?!?」

 

 耐え切れず叫び声を上げたクドに反応して、全員の視線が扉に集まる。

 

 扉の前に立っていたのは、

 

 

 

 目と思しき部分にだけ穴を開けた紙袋を被った……完全無欠の『不審人物』だった。

ページのトップへ戻る