「「「メリークリスマース!!」」」

 

 扉を開けた瞬間、目の前にはクリスマスにしか見られない光景が広がっていた。

 それは声を揃えたクリスマス挨拶の所為だけではない。

 部屋の窓際に備え付けられたクリスマスツリーの所為と言うわけでもない。

 ケーキや七面鳥といった、定番の料理の所為なわけでもない。

 

「えっ? 何? 嘘っ!? みんなマジでっ!?」

 

 扉から顔を覗き込ませた春原の感想は、もはや言葉になっていない。

 

「お…おぎおぎして…いいのか? コレ?」

「……むぅ…」

 

 真人と謙吾も動揺している。

 それでも、そんなリアクションばかりな男性陣の中でただ一人。

 

「……おうおうおう! まさにクリスマス天国だな、こいつはっ!」

 

 秋生だけは素直に浮かれていた。

 

 

 

 理由は簡単。

 勝者を出迎えた女子達はサンタクロースの格好をしていたからだ。

 

 付け加えるなのば、彼女達はただのサンタではなく……

 ズボンの代わりにスカートを履いたサンタクロース、…所謂、サンタ娘な格好をしていたからだ。

CLANALI3  第十二話

「わふっ! みなさんとっても可愛いのですっ!」

 

 見えないしっぽをぱたぱた振るかのように、クドが小毬の元へと駆け出した。

 

「ちょっとだけ恥ずかしいけど、どうかな~?」

「もう抱きしめたくなりますっ!」

 

 そう言いながらも既に抱きついているクド。

 抱きつくクドも、抱きつかれている小毬も、満面の笑顔だった。

 

 ちなみにこの衣装は肩の部分に露出がある、心持セクシー系な服だ。

 そんな服を部分的にそこそこなボリュームを持つ小毬が着こなしている。

 …つい目がいってしまうのは、男の悲しい性なのか。

 

「どうしたね? 理樹君。 『うわ~い、小毬さんのジーザスな部分がメリーなクリスマスになってるよ~』、とでも言いたげな視線だな」

「意味わからないからね、それ!? そもそも僕は…… っ!?」

「ん? そもそも…なんだね?」

「う…あ…」

 

 小毬に視線がいっていた理樹をからかう来ヶ谷。

 いつものように素早いつっこみで切り返す理樹だったが、言い返す言葉も彼女の姿を前にしては声にならない。

 

「ほほう… なかなかに男の子な視線だな」

 

 来ヶ谷は愉しそうに口元を綻ばせる。

 

「おねーさんの顔を見たかと思えば肩から胸へ、撫でるように腹部・腰周り・ふとももを堪能してから再び胸か」

「え… ええっ!? そんなっ!」

「なに、構わんさ。 今日は君達へのご褒美でもあるのだからな。 おっぱい大好きな少年としては楽園だろう?」

「来ヶ谷さんっ!」

 

 完全に遊ばれている理樹だったが、顔を真っ赤にした彼は困っているのか喜んでいるのか。

 

 

 

 

「? 棗恭介やもう一人の彼は?」

 

 不意に佳奈多が疑問を漏らす。 確かにぱっと見たところ、恭介と朋也の姿は見受けられない。

 

「んっふっふっ~、あの二人?」

「?」

 

 ニーソックスサンタ娘な杏が答える。

 

「実行した私たちが言うのもなんだけど、 ……ここまではまり役だとはね」

「はまり役?」

「…眼福モノですよ?」

「西園さん… って、貴女は何をしているの?」

「見ての通りですが、何か?」

「…なんでそんなに似合っているのかが不思議だわ…」

 

 佳奈多の後ろから姿を現した美魚は、何故かトナカイの顔出し着ぐるみをその身に纏っている。

 しかも妙に幸せそうだ。

 

「あの二人には特別製のコスチュームを用意しました。 …いえ、もはやアレを着こなす為に生まれてきたのではないかと」

「やははーっ! 演技指導もバッチリなのデスヨ?」

「葉留佳っ! そんなに飛び跳ねないのっ。 スカートから見えちゃう!」

「いや~ん、お姉ちゃんのえっち大臣~」

「だからくるくる回らないっ!」

 

   ぱっ!

 

「「「??」」」

 

 突然部屋の片隅にスポットライトが当たった。 

 ライトに照らされた書棚の奥から、二つの影が歩み寄ってくる。

 彼らはスーツ姿のようだ。

 一人は黒系に白い縦縞の、もう一人は白一色なのだが下品には見えないスーツを着こなしている。

 それぞれ上着は前を全開にしており、しなやかに折り目のついたシャツは胸元まで大きく開いていた。

 自分に自信があるようにも、うっすらと羞恥心が零れているようにも思える歩調で佳奈多に近づいてくる。

 

「え…? え、えええっ!?」

 

 距離が縮まる程、胸元から覗くなめらかな素肌に、物憂げな表情に目が囚われてしまう。

 気がついた時には佳奈多の目と鼻の先にまで近づかれていた。

 

 どこからか、淡いシトラスの香りが脳裏を擽る。

 

「この聖夜を、君に…」

 

 白いスーツの男性、朋也が優しい瞳で語りかけた。

 

「……お嬢さん…」

 

 もう一人、恭介が流し目を向けながら佳奈多の手をとる。

 

「「俺達から、君への… 夢の一夜を…」」

 

 朋也が跪き、恭介は佳奈多の手の甲に、軽い…キスを手向けた。

 

   ぼふっ!!

 

 

 

「お顔が真っ赤にぼーんなの。 血圧が大変な事になっているかもしれないの」

 

 反則なまでにサンタ娘が似合っていることみが、その様子を冷静に解説している。

 これでもか、どうだこれでもか、と見目麗しいホストな二人に攻略されてしまった佳奈多はその場から動けないでいた。

 そもそも視線が定かではない。

 

「格好いい男の子二人が演出過剰に迫り来るの。 でも、実はこの二人が愛しているのはお互…」

「ストーップ、それ以上はネタバレよことみっ!」

 

 色々と設定があるようだ。

 

 

 

 

 

 ともあれ、主催側が一番楽しもうとしているパーティーの幕が開いた。

 

 ……まだ乾杯すらしていないのだが。

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