12月24日、クリスマスイブ。

 

 昨日までの天気はどこへ行ってしまったのか?とでも言いたくなるような曇天の下、とある集団が談笑している。

 人数は四人。 秋生と早苗、智代に春原という奇妙といえば奇妙な組み合わせだ。

 学校へと続く坂道の下で会話に花を咲かせている彼ら。 そんな彼らに別のグループが近づいてきた。

 『遅いよ』と言う春原の口から言葉と共に白い息が立ち上る。 実際、かなりの寒さなのだろう。

 

「お待たせしました」

 

 挨拶をする理樹に続くのは真人と謙吾、そしてクドと佳奈多。

 

「おう、それじゃ行くとすっか」

 

 理樹に答えた秋生は咥えていた煙草を携帯灰皿で揉み消し、坂の上にある学校に視線を向けた。

CLANALI3  第十一話

 ──勝者を全力で楽しませる事、それが今回の罰ゲームだ!──

 

 約一ヶ月前、ケイドロ戦の勝敗が決まった後に告げられたのは罰ゲームの内容だった。

 秋生の指定は準備期間を設ける事、全員が楽しめる事、詳細は敗者が決めること、…ただそれだけだった。

 困ったのは敗者側だ。 自分達自身が行う罰ゲームの内容を自ら決めろと言われても困惑するだけだ。

 どうしよ?という空気の中、最初に出て来たのはことみの一言。

 

 『私、お料理とかお菓子とか、いっぱい作れるの。 それでみんなをおもてなししたいの』

 

 それ、罰ゲームか?

 等という考えが広まったが、そんな中で一人『それだっ!』と声を上げた人物がいた。

 それはもちろん恭介。 遊びに関する達人として、とあるアイデアが閃いたようだった。

 

 『もてなすんだよ勝者を。 おもてなしだ! 俺達でクリスマスパーティーを開いて!』

 

 今は11月の中旬。 企画を考えて準備や根回しを行ったとしても、12月のクリスマスまでにはなんとかなりそうな気配だ。

 

 『突飛と言うか王道と言うか…』

 『なんだよ岡崎、嫌なのか?』

 『そんなことは無いけどな。 ん、いいんじゃないか?』

 『ああ、ありがとう。 みんなはどうだ?』

 

 周りを見回す。 どうやら概ね好評のようだった。

 

 『なら作戦会議だな。 各自イベントアイデアを用意しておくこと。 週末に集まって打ち合わせだ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の参加者はこれで全員か?」

 

 学校の敷地内を歩きながら、秋生は後ろに続く学生達に声をかける。

 

「有紀寧ちゃんと仁科、杉坂達も顔を出すってさ」

「鷹文と河南子もだ。 どんどん連れて来いと言われたからな、声をかけておいた。 …少し遅れてくるそうだが」

 

 春原と智代が追加参加となる面々の名前を上げていく。

 

「美佐枝さんも誘ったんだけどさ、『あたしゃ忙しいのよっ!』って断られちゃったよ」

「そうなのか? うん…、それは残念だな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──没~~~~~~~~~~っ!!──

 

 杏の大声が響き渡った。

 パーティーのネタ打ち合わせで集まった面々。 早速持ち寄った案件を吟味していたのだが……

 

 『直枝理樹を女装させて360度鑑賞会…って全然もてなしてないじゃないっ! 誰よこんな案を出したのはっ!?』

 『無論私だが。 何か問題でもあるかね?』

 『自分が楽しむだけでしょうに……』

 『そうでもないぞ? なあ、小毬君?』

 『ほ、ほえええええっ? ち、違うよ? 私、それもいいかな~なんて思ってないよ~っ!?』

 『はあ…、そもそも直枝はゲスト側でしょ?』

 『むしろおねーさんへのクリスマスプレゼントだな』

 

 ノートに持ち寄った案をまとめ、全員で議論しているのだが……

 

 『やはー…はるちん的にはこれもきついかも~…』

 『『そんなっ!?』』

 『…やっぱこれ書いたのって渚ちんと風子ちゃんでしたか~…』

 『だんご大家族と、』

 『ヒトデ核家族の、』

 『『だんごとヒトデのクリスマスソングメドレー大合唱(選曲演出:風子)のどこに不満が?』』

 『合唱時間が2時間30分ってのがアウトなんデスヨ』

 

 ……どうせなら自分達も楽しまなければ……、そんな感じなネタだらけだった。

 話し合いも進まず、誰かがちょっとした溜息をついたその時。

 タイミングを見計らっていた美魚が一つの案を提示した。

 

 『…なら、こんなのはどうでしょうか?』

 

 案が書かれた彼女のノートを覗き込む一堂。 真っ先に声を張り上げたのは、

 

 『おいおい、マジかよっ!?』

 『却下だ却下!』

 

 恭介と朋也、男子二人組みだった。 ……しかし。

 

 『…みなさんはどうですか? ……見てみたいかも、と少しでも思いませんでしたか?』

 『『『『『『……』』』』』

 『『???』』

 

 鈴と風子以外の女性陣は、それとなく目をそらしつつも確固たる同盟関係を結んでいた。

 即ち、見てみたい、と。

 

 『ま…まあ、これはこれで良いかもね、うん。 恭介、何事もチャレンジよ!』

 『杏っ!?』

 『朋也くん、これはパーティーですし…』

 『渚まで!? ってどんなパーティーだよ!』

 『さて、多数決…は取るまでも無いようだな』

 『大決定~っ!』

 『来ヶ谷に三枝… ……そうか、理解した。 これは挑戦なんだな?』

 

 ここで恭介は取引を行うべく、自分の案を切り出した。

 

 『…お前達がコレを実行するのなら…、俺と岡崎は…その条件を飲んでやるさっ!』

 

 取り出された一枚の紙切れ。 そこに書いてあったのは……

 

 『いいわよ』

 『は? …えーとちょっと待て杏。 そこは、こんなこと出来ないわよっこの馬鹿!って流れなんじゃ…』

 『はい、朋也くんが見たいのなら… とても恥ずかしいですけど…』

 『待て待て渚、これは棗の妄想趣味嗜好だからな?』

 『…恭介氏、おねーさんがこの程度のえろさで怖気づくとでも? むしろ大歓迎だ』

 『…しまった… 来ヶ谷にとっては諸刃の剣だったか…』

 『朋也くん、とっても、とってもえっちなの…』

 『ことみ? その表情は困ってるのか? 恥ずかしいのか? 嬉しいのか?』

 

 ……やっちまった……

 恭介の脳裏はその言葉で埋め尽くされていた。

 彼の計算では、無理難題をふっかけて自分達に迫る危機を乗り切る予定だったのだが。

 

 結局双方の案件が受理されて、その後の打ち合わせはスムーズに進んでいってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 ─そして当日。

 

 会場である資料室の前にケイドロ勝者達が集まり、その扉に手をかけた。

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