「寒っ! くちゃくちゃ寒いぞっ!?」

「冬なんだから当たり前でしょ? 何? あんたって寒いのが苦手だったの?」

「冬という季節が存在する意味がわからない」

「…相当重症ね」

 

 杏と鈴。

 二人は寒空の下、他愛もない話をしながら歩いている。

 杏はともかく、鈴はというと完全な防寒装備だ。

 コートに手袋、耳まで隠れるニット帽。

 上着を何枚も着込んでいる上に、もこもこのマフラーまで巻いている。

 身を縮こまらせた歩き方をしている所為もあり、その姿はまるでよちよち歩くぬいぐるみの様だった。

 

 

 

 季節は冬。

 

 この町にも、クリスマスの気配が近づいていた。

CLANALI3  第一話

「とっとと春になればいいのにな」

「そう? 冬があっという間に過ぎちゃったりしたらつまらないじゃない」

「そんなことはない。 冬に良い事なんて何もないぞ」

「寒いからこそ温かい物の良さが実感できるでしょ?」

「うん?」

「寒い外から家に帰って、ぬくぬくのこたつに入ったら…」

「それは天国だな」

「夜、体が冷え切った時に飲む甘~いホットミルク…」

「あれは究極だな」

「ちょっと肌寒いかな?って時に直枝にぴたって寄り添うと…」

「理樹は温かいからな。 あれはたしかにしあわせだ」

「…っぷ。 ふ~ん? やっぱりあいつとそんな事してるんだぁ~?」

「!」

 

 見事なまでの誘導尋問…ではなく、無防備な鈴による自爆。

 普段はクールな対応を心がけている鈴も、突発的な事に対してはついつい本音が出てしまう。

 以前に比べて鈴の雰囲気が変わってきたとは言っても、やはり基本的には猫っぽい彼女の事だ。

 実際に鈴のそういった一面を見ることが出来る人間はそう多くない。

 

「違うぞっ! 理樹はあったかいけどいつもくっついてなんかいないからなっ!」

「も~、真っ赤になっちゃって可愛いんだからこの娘は~」

「話を聞けっ!」

「…その時、ごろごろ言ってんの?」

「ふか~~~~~っ!」

 

 そんな彼女の一面をここまで引き出している杏。

 ある一人の人物を軸にし、二人の距離は縮まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、こんなところかしらね」

「今ので最後か?」

「うーん、多分」

 

 抱えているのは、両手いっぱいの買い物袋。

 二人の目的は明日必要な食材や小道具等の買出しだった。

 

「にしてもやっぱり二人だけっていうのは少しきつかったかしらね…」

「だから馬鹿兄貴を連れてこようって言ったのに。 きょーが断るからだ」

「あんたねぇ…。 荷物持ちで男手の事を考えるのはいいけど、女の子なモノも買ったんだから駄目に決まってるでしょ?」

「そーなのか」

「そーなのよ」

「なら、おかざきさいこーでも駄目だったのか?」

「岡崎朋也。 インパクトがあったのは認めるけど名前で呼んであげなさいよ」

「うむ、正直どうでもいい」

「あっそ…」

 

 明日の企画の準備として、参加メンバーは杏達の学校に集まっていた。

 土日を選んで日時を決めていたので、本番直前の打ち合わせとして土曜である今日を使っていた。

 もちろん参加メンバーには他にも女性陣がいたのだが、たまたま時間やタイミングが合ったのはこの二人だけ。

 小毬や渚は二人だけに買出しを任せてしまう事を何度も何度も謝っていた。

 そっちはそっちの準備があるでしょ?

 杏の一言でその場は収まり、結局鈴と二人で町に出たのだったが…

 

「やばい、心が挫けそう」

「あたしはとっくに挫けてるぞ」

「なんでそんな得意そうな顔してるのよ…」

 

 当初の予想よりも、随分と荷物が増えてしまっていた。

 追い討ちをかけるように北風が二人を包み込む。

 

「あーもぅっ! なんでこんなに寒いのよっ! 重いのよっ! 買いすぎよ!」

「きょーが壊れた」

「そもそも明日の企画自体、既に当初の予定から随分と離れた展開になってるしっ」

「凄まじい話の繋げ方だな」

「企画をここまで変貌させたのって、確か美魚が言い出した演出から始まった事よね……」

「とても楽しげに語っていたな」

「よしっ! この寒さの責任をとってもらいましょうか。 帰ったら何か温かい飲み物でも奢ってもらいましょ」

 

 そんな愚痴を言ってはいるものの、杏の表情は軽やかだった。

 

 

 

 明日の企画、一月前に行ったケイドロの罰ゲーム参加者は…

 朋也と恭介、杏と鈴、風子、ことみ、小毬、葉留佳、来ヶ谷。

 更にピンチヒッターとして渚と美魚。

 

 対してその企画を体験する側は勝利者である理樹、秋生、春原に真人と謙吾。

 女性は佳奈多とクド、佐々美に早苗。

 そして希望者が数名ほど。

 

 舞台となるのは光坂高校の一室。

 それはとある二年の女子生徒が管理している、隠れた憩いの場だった。

ページのトップへ戻る