「そうか…。 あの二木がな…」
古河さんの伝言と、二木さんの見せた表情について聞いた恭介が遠い目をする。
「ふっふっふー。 みんな甘々ですネー?」
「葉留佳さん?」
「お姉ちゃんってば普段は本性を巧妙に隠しているのですヨ!」
本性?
「委員会や日常では見ることの出来ない二木君の素顔か…」
来ヶ谷さんも興味津々みたいだ。
「来ヶ谷、これはもう…」
「恭介氏、意見は合致したようだな」
「よしっ! 二木の部屋に突撃だっ!」
って恭介…?
「非常識にも程があるとは思わないの?」
「くっ!」
二木さんの一言で、恭介はいきなりダメージを受けていた!
「そもそも夜なのに気軽に女子の部屋へと訪れるその感性がありえないわ」
「ぐあっ!」
確かに正論だね。 うん、僕もそう思うよ。
「いや、待て待て二木。 この部屋は能美の部屋でもあるんだ。 だったら…」
「クドリャフカの部屋なら夜に入っても問題ないと? それはもっと問題ね、棗恭介?
…クドリャフカ、この男はこれからも私達の部屋に侵入してくるつもりらしいわよ」
「わふっ!?」
「ぐはぁっ!」
論破するどころかどんどん墓穴を掘ってるよね…。
「まーまーお姉ちゃん、とりあえずは話を聞いてくれないかな?」
「葉留佳? そうそう貴方達、昼間にまたおかしな事をしでかしたみたいね?」
「ほへっ?」
「聞いたわよ? なんでも今日は勝手に放送室を使用して、迷子の呼び出しをしたそうね?」
それって…
「迷子になんかなってねぇーーーっ!」
「俺は泣きながら隠れてなぞいないわーーっ!」
「きゃっ!」
昼間の話題を蒸し返されて、真人と謙吾が二木さんに詰め寄った!
「ちょっと二人ともっ! …って、『きゃっ』…?」
今の声って、もしかして…
「「「「……」」」」
みんなの視線が二木さんに集まる。
「…な、なによ?」
「い、今の可愛らしい声って…二木か…?」
「~~~っ!」
恭介の呟きに、二木さんの顔があっという間に赤くなる。
「そうよ、ええそうよ! 誰だっていきなりこんな筋肉の塊と剣道ネジの外れた体の大きい男の子に
迫られたら体が反射的にびっくりするのは当然の反応よっ! だから自分自身が思ってもいない
声が出る事だってけして不可思議な事象ではないわ! なのになんなのよその目はその視線は!
まるでこの私がうわずった声を出す事自体が未知なる領域だとでも言いたいわけ? それは結構!
私だって好きで悲鳴を上げたわけじゃないわよ! そもそもなんで貴方達はこの部屋にいるの!?
しかも問題児全員そろって部屋に入っているから窮屈でしょうがないのよ! 特に貴方と貴方っ!」
「「「「……」」」」
二木さんは真人と謙吾を指差して、ようやくその口を閉じた。
「…すげぇな、一呼吸で話し終わったぜ?」
だから真人さ、空気を読んで…
「~~~っ! 出て行きなさいっ!」
バタンッ!
…みんな揃って廊下へ追い出されてしまった。
「…手強いな」
いやいやいや。 ほとんどこっちの自滅だからね恭介?
「でもどうしましょうー。 あんな真っ赤になって怒ったのをみるのははじめてです」
勢いでクドまで追い出されちゃったのか。
っと、そうだ。
「クド、二木さんは普段日曜日どうしてるのかな?」
「? リキ、佳奈多さんの事が気になっているんですか?」
「何っ!?」
「違うよクド、そもそも習慣化している事があったら誘っても難しいかなって。 …それに鈴? びっくりしすぎだよ」
「びっくりなんかしてないぞ。 …してないからな」
「鈴君は相変わらず可愛いな」
「っ! はーなーせーっ!」
鈴を抱きしめている来ヶ谷さんの事はとりあえず置いておいて…
「なにか思い当たらない? クド?」
「わふー。 外出する事が多いですけど、どこに行くか教えてもらえない事があります…」
「そうなんだ…。 うん、ありがとうクド」
「いいえー」
ん?
「……」
「葉留佳さん…?」
なんだろう。 葉留佳さんの表情が…。
「どうしたの? 葉留佳さん」
「えっ? ナンデモナイデスヨ?」
「でも」
「ナンデモナイデスヨ」
…少し寂しそうな、いや、申し訳なさそうな表情だったけど……
「ここは二木さんの興味を引く何か、が欲しいところですね」
西園さんがポツリと話す。
「興味…か」
「謙吾? 何かあるの?」
「いやな、俺では分からない事だが…」
僕が謙吾と話し出した時、
~~~♪ ~~~♪
「っと悪い、俺だ」
恭介が携帯電話を取り出した。
「はいもしもし…杏か、…ああ、こんばんはだな」
「「「「!!」」」」
一斉にみんなが静まる。
「ああ、…ああ、そうだ。 …えっ? マジかっ!」
「「「「……」」」」
気になるよね、これは…。
「…そうか。 ああ、ありがとな杏っ!」
「「「「……」」」」
「ああ、わかった。 …またかけるさ、……俺から? ああ、じゃあな」
ピッ
「ふぅ……っておわっ! なんだよお前らっ!」
全員の視線が集まっていた事に気が付いて恭介が声をあげた。
「なんだよ、なんかの儀式かそれ?」
いやいやいや。
「恭介氏、今のは藤林女史だな?」
「? ああ」
「ふむ…。 順調…と言うところか…」
「なんだそりゃ? ってそうそう、良い話を聞いたぞ」
「良い話?」
恭介は電話をポケットに入れつつ話し続ける。
「伊吹風子。 来週の休みには二木の友達が来るそうだ」