「で、今度は何する気だオッサン?」
古河家での夕食が終わり、俺はオッサンに来週の事を質問した。
「何って、お前、アレだよ、アレ」
何だよ。
「なっ! だろ? 小僧!」
わからんって。
「お父さん、詳しい事を何も教えてくれないんです」
「渚も知らないのか?」
「はい。 小毬さん達にも具体的な内容はお伝えしていませんでした」
このオッサン、またなにか企んでんのか?
「ま、たまにはな。 当日ドッキリ大作戦ってモンだ!」
「ドッキリですかっ! …いつドッキリさせられるのか、少し怖いです…」
日時はバレてるけどな。
「秋生さん?」
「ん? なんだ? 早苗?」
「お弁当はどうしましょうか?」
「あー…、そうだな。 弁当じゃなくて握飯をたくさん用意してくれ」
「はいっ! わかりましたっ!」
おにぎり?
「当日は落ち着いて飯を食べる事も出来ないって事か?」
「推測すんなっての。 ったく、肝っ玉の小せえ奴だな」
「何でだよ!」
「小さいんですか?」
早苗さんまで…。 しかもなぜか、すごく凹むんですが…。
「そういえば…」
「渚?」
「お父さん、鈴ちゃんに伝言を頼んでいた時にもうお一人の事をとても気にかけていました」
もう一人?
「遊びに来たのは棗妹と神北だよな?」
「それともうお一人、笹瀬川さんという方もご一緒にいらっしゃいました」
「そいつを?」
「いえ、たしか…二木さんという方がふぅちゃんと一緒にパンを買いに来られていて・・・」
風子と一緒に? 二木?
「お父さんはその二木さんを気にしていました」
「? なんだよオッサン、美人だったのか?」
オッサンに尋ねると、
「まーな。 ありゃいつものメンツにはいないタイプの美人だったな」
「どんなだよ?」
「んー、きつい事をズバッと言うわよ?って感じだな」
なんだそりゃ。
「可愛い顔してやがるのに、どうも一歩引いた感じを身に纏っていてだな」
「へぇ」
「風子や周りの事とかをしっかりと見守りつつも、口にする言葉は鋭いときた」
「ほぅ」
「それでいてガードが崩れた時には、ほんっとにちょこっとだけちらっと年相応の表情をしやがる」
「ほほぉう?」
「…たまらんぜ? 小僧?」
「…なるほどな…」
それは俺の周りでは見かけないタイプだな。
部分部分では智代に近いのか…? いや、想像じゃわからないか…。
「「……」」
「なんにせよ、きっとそいつは普通に誘ったんじゃ話に乗ってこねえだろうからな。
うまく誘えるよう棗達に伝言したんだよ。 ……一言付け加えてな」
「一言? 何を?」
「『二木が普段隠している表情を見た、お前の妹達の感想を聞いてみな』 ってな」
「は?」
「あの馬鹿兄貴の事だ。 そんな魅力的な事実を知らないまま過ごす事なんて出来やしねえって」
「「……」」
「いやいや、オッサン。 そもそもなんでそんなに二木って奴を気にしてるんだ?」
「…あいつも棗と同じって事だよ」
「…?」
「っかぁー! 察しの悪い小僧だな! だから、二木って女も…」
「秋生さん…」
「朋也くん…」
「「!?」」
えええええーと…渚? それに早苗さん?
どうして背中を抓っているのでしょうか…?
「お、おい早苗…っていててててて!」
「な、渚…っつうううううう!」
正直かなり痛いって!
渚は俺を、早苗さんはオッサンをそれぞれ無言で抓っていた。
拗ねた様な表情で……
「秋生さん? あまり熱心に他の女性の事を話されると、わたしだってやきもちを妬きますっ」
「朋也くんもですっ! 朋也くんにはわたしというお似合いな彼女がいるんですっ!
…って、またとても恥ずかしい事言ったような気がしますっ!」
……グッジョブ、ナルシストな渚…。
「早苗…ナイスやきもちだ……!」
オッサンはオッサンで、やきもちを妬いている早苗さんが新鮮でたまらないらしい。
「秋生さんっ!」
「朋也くんっ!」
詰め寄ってくる二人。
そこで俺とオッサンはアイコンタクトを交わしたっ!
絡み合う俺達の視線! 繋がる男達の意思!
「早苗」
「渚」
「「えっ?」」
「「好きだ」」
「「!……はい、わたしもですっ!」」
「「っしゃーーーっ!」」
ぱしーーーんっ!
ハイタッチを交わす俺とオッサン!
…って何やってんだよ俺……。