「そこでお前が言うんだよ。 『僕に、地獄の断頭台を、かけてくださいっ!』ってな」
「それは口説き文句じゃないですよね絶対!?」
「甘いな春原…。 それほどまでに私の事を想っているのか、って思わせるんだ」
「そ、そうなのか…? うん、そういうことなら…でも……」
あと一息だな。
「思い出してもみろ、あれだけ短いスカートで足技だ。 もしかしたら…」
「うわっ! やばいよ岡崎! 僕、想像したら興奮してきたよっ!」
「春原…グッドエッチ!」
「岡崎……サンキュ! グッドエッチ!」
「なに道の真ん中で盛り上がっているんだお前らは…」
後ろから俺達に声をかけてきたのは、仕事服姿の芳野さんだった。
「芳野さん? 今日は日曜日ですよ」
「なんで 『可哀相な奴に教えてあげるか』 っぽい口調なんだよ…。
残業だ残業。 昨日までに終わらせられなかった仕事があったんでな」
それで休みなのにその格好だったのか。
「へ~、お仕事大変なんですね~」
春原は他人事のように言う。
「あのなぁ、お前だって来年には就職するんだろ? 多少でも覚悟しておけ」
「へ? いやいや芳野さん、僕は残業なんか無い仕事を探しますよっ」
「…はぁ。 一つ言っておく。 確かに新入社員なら始めのうちは定時に帰らせてもらえるだろう。
だがな、どんな仕事だって必要な仕事量ってものがある。 残業はそれを補う事だ。
そりゃあ時間や内容は様々だろうがな……、別に俺の仕事が特別って訳じゃないさ」
「ええっ!? そうなの岡崎?」
俺だって知らないさ…。 だけどまあ、
「社会人の先輩が言ってるんだ。 それが全てじゃないだろうけど覚えておいた方がいいな」
「そんなもんかねぇ?」
「だけど、そもそもお前は就職出来ないだろ?」
「就職活動しますよっ!? 探しますよっ!」
「えっ? だってお前人間社会に入れないじゃないか」
「僕ちゃんとヒトですから!」
「ヒトデなのか?」
「にーんーげーんっ! なんなんですか芳野さんまで!?」
春原の絶叫も、まぁいつもの事だ。
「で? さっきは何の話をしていたんだ?」
芳野さんが尋ねてきたけれど、
「話?」
さて何の話だったか。
「あれだよ岡崎、あのけしからんおねーさんをどうすれば口説けるかって話さ」
「あー、どうやって春原をけしかけるかって話か」
「違うでしょっ!? ってそんなこと考えながら意見出してたんですかアンタっ!?」
「気にしないでください芳野さん。 たいして意味のある内容ではなかったので」
「アンタひどいっすね……」
「そうか。 告白がどうのと聞こえたからな、愛について話し合っていたのかと思ったぞ。
…その後グッドなえっちだとかなんとか」
いえ、本当に無駄な話だったのでつっこまないでください。
「ところで仕事の方はいいんですか? 結構話しちゃってますけど」
休日出勤って言ってたよな。
「問題ない、さっき終わったところだ。 でなきゃこんなにのんびりしていないさ」
「ならこの後暇っすか? 僕も岡崎もすることが無くって」
「ほんと暇してるんだなお前ら…。 悪い、仕事が終わったから家に帰るさ」
「あー、一応新婚さんなんでしたっけ」
「一応とはなんだ一応とは。 付け加えるなら『愛・新婚さん』とでも言ってくれ」
とたんに胡散臭くなったな。
「時間があるのなら愛する女の傍にでもいてやれ。 岡崎、渚さんはどうしたんだ?」
「なんか今日は女友達で集まるみたいなんで、ちょっと居場所が無いんですよ」
「気にしすぎじゃないのか?」
「たまには女同士で楽しんでもらうのもいいかなーと」
「だから久々に僕と遊んでたんっす」
春原の言うとおり、こいつと二人で過ごす休日は久々だった。
考えてみれば毎日のように渚と一緒だったからな。
「男同士の友情も育まないとなって…」
「岡崎…。 へへっ、嬉しい事言ってくれるじゃんかよ!」
「よせよ、春原……」
「そうか…。 でももう夕方だ。 いいかげんその集まりも解散してるんじゃないのか?」
「え? もうそんな時間ですか? じゃ」
「って帰るのあっさりですねぇ!?!?」
「春原…お前にも愛する人が見つかるといいな」
「…芳野さん、その台詞も恥ずかしいっすよ?」
「なんだ? 想い人はいないのか?」
「…別にー、いないっすよ僕には」
「そうか…。 いや、焦る事はないさ」
「だからいないっすよ…僕に好きな人なんて……」