「そこでお前が言うんだよ。 『僕に、地獄の断頭台を、かけてくださいっ!』ってな」

「それは口説き文句じゃないですよね絶対!?」

「甘いな春原…。 それほどまでに私の事を想っているのか、って思わせるんだ」

「そ、そうなのか…? うん、そういうことなら…でも……」

 あと一息だな。

「思い出してもみろ、あれだけ短いスカートで足技だ。 もしかしたら…」

「うわっ! やばいよ岡崎! 僕、想像したら興奮してきたよっ!」

「春原…グッドエッチ!」

「岡崎……サンキュ! グッドエッチ!」

 

「なに道の真ん中で盛り上がっているんだお前らは…」

 

 後ろから俺達に声をかけてきたのは、仕事服姿の芳野さんだった。

CLANALI2  第六話

「芳野さん? 今日は日曜日ですよ」

「なんで 『可哀相な奴に教えてあげるか』 っぽい口調なんだよ…。

  残業だ残業。 昨日までに終わらせられなかった仕事があったんでな」

 それで休みなのにその格好だったのか。

「へ~、お仕事大変なんですね~」

 春原は他人事のように言う。

「あのなぁ、お前だって来年には就職するんだろ? 多少でも覚悟しておけ」

「へ? いやいや芳野さん、僕は残業なんか無い仕事を探しますよっ」

「…はぁ。 一つ言っておく。 確かに新入社員なら始めのうちは定時に帰らせてもらえるだろう。

  だがな、どんな仕事だって必要な仕事量ってものがある。 残業はそれを補う事だ。

  そりゃあ時間や内容は様々だろうがな……、別に俺の仕事が特別って訳じゃないさ」

「ええっ!? そうなの岡崎?」

 俺だって知らないさ…。 だけどまあ、

「社会人の先輩が言ってるんだ。 それが全てじゃないだろうけど覚えておいた方がいいな」

「そんなもんかねぇ?」

「だけど、そもそもお前は就職出来ないだろ?」

「就職活動しますよっ!? 探しますよっ!」

「えっ? だってお前人間社会に入れないじゃないか」

「僕ちゃんとヒトですから!」

「ヒトデなのか?」

「にーんーげーんっ! なんなんですか芳野さんまで!?」

 春原の絶叫も、まぁいつもの事だ。

 

 

 

「で? さっきは何の話をしていたんだ?」

 芳野さんが尋ねてきたけれど、

「話?」

 さて何の話だったか。

「あれだよ岡崎、あのけしからんおねーさんをどうすれば口説けるかって話さ」

「あー、どうやって春原をけしかけるかって話か」

「違うでしょっ!? ってそんなこと考えながら意見出してたんですかアンタっ!?」

「気にしないでください芳野さん。 たいして意味のある内容ではなかったので」

「アンタひどいっすね……」

「そうか。 告白がどうのと聞こえたからな、愛について話し合っていたのかと思ったぞ。

  …その後グッドなえっちだとかなんとか」

 いえ、本当に無駄な話だったのでつっこまないでください。

 

「ところで仕事の方はいいんですか? 結構話しちゃってますけど」

 休日出勤って言ってたよな。

「問題ない、さっき終わったところだ。 でなきゃこんなにのんびりしていないさ」

「ならこの後暇っすか? 僕も岡崎もすることが無くって」

「ほんと暇してるんだなお前ら…。 悪い、仕事が終わったから家に帰るさ」

「あー、一応新婚さんなんでしたっけ」

「一応とはなんだ一応とは。 付け加えるなら『愛・新婚さん』とでも言ってくれ」

 とたんに胡散臭くなったな。

「時間があるのなら愛する女の傍にでもいてやれ。 岡崎、渚さんはどうしたんだ?」

「なんか今日は女友達で集まるみたいなんで、ちょっと居場所が無いんですよ」

「気にしすぎじゃないのか?」

「たまには女同士で楽しんでもらうのもいいかなーと」

「だから久々に僕と遊んでたんっす」

 春原の言うとおり、こいつと二人で過ごす休日は久々だった。

 考えてみれば毎日のように渚と一緒だったからな。

「男同士の友情も育まないとなって…」

「岡崎…。 へへっ、嬉しい事言ってくれるじゃんかよ!」

「よせよ、春原……」

「そうか…。 でももう夕方だ。 いいかげんその集まりも解散してるんじゃないのか?」

「え? もうそんな時間ですか? じゃ」

「って帰るのあっさりですねぇ!?!?」

 

 

 

 

 

「春原…お前にも愛する人が見つかるといいな」

「…芳野さん、その台詞も恥ずかしいっすよ?」

「なんだ? 想い人はいないのか?」

「…別にー、いないっすよ僕には」

「そうか…。 いや、焦る事はないさ」

「だからいないっすよ…僕に好きな人なんて……」

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