「かたじけのうござるっ!」

 

    スパーーーン!

 

「わふーっ! ……無念なり~」

 丸めた新聞紙で頭を叩かれたクドが涙目で台詞を口にする。

「わっはっはー! はるちん強いっ!」

 葉留佳さんは得意げだったが、

「…かたじけのうござる」

 

    スパーーーン!

 

「わきゃっ! む…無念なりー……ガク」

 西園さんに背後を取られていた事には気付いていなかった。

CLANALI2  第五話

「それにしてもさー」

「なんだね葉留佳君?」

「せっかくの日曜だってのに今日は何もないんですかネ?」

「だから君の要望を聞き入れ、こうして新聞紙ブレードをしていたのではないか」

「だって四人だけじゃん。 朝起きたら鈴ちゃんも小毬ちゃんも理樹くん達だっていなかったんだよ?

  はるちん置いてけぼりは悲しいですヨー」

「『朝起きたら』ではなく『昼過ぎに目が覚めたら』の間違いだろう…」

 葉留佳さん、来ヶ谷さん、クド、西園さんの四人は空き教室で遊んでいた。

 どうやら葉留佳さんは、寝坊している間にメンバーがいなくなってた事に対して不満があるみたいだ。

「小毬さんは鈴さんと一緒にお出かけしたそうです」

「そうなんですか? 神北さんは笹瀬川さんとお出かけになったと思っていましたが…」

「クドリャフカ君、美魚君共に正解だ。 正確にはその三人で外出しているようだ」

 クドと西園さんの答えを来ヶ谷さんが補足した。

「珍しい組み合わせといえばその通りだが…」

「なるほど…。 アリ、ですね…」

「アリなのですーーっ!」

「クド公、勢いで言ってるっしょ?」

「そんなことないのですっ! 仲良き事は美しきかなーっ、なのですーっ!」

「クドリャフカ君の言う事はもっともだな。 …では我々も仲良き事をしようではないか」

 あ、来ヶ谷さんの目に怪しい光が灯った。

「はっ! 日曜日の教室…人気の無い空き教室…主導権を握るのは姉御……」

 葉留佳さんが息を呑む。

「わふ?」

「もしかしなくても大ピンチ、という状況ですね…」

「ふっふっふ…。 三人とも分かっていてついてきたのだろう?」

「くっ! ここは先手必勝っ! かたじけのうござるっ!」

 葉留佳さんが新聞紙で来ヶ谷さんに襲い掛かるけど…

 

    ひゅっ!    「…あれ?」

 

「そうかそうか、先ずは葉留佳君から、という事か」

 背後から抱きしめられて、葉留佳さんは身動きが取れない!

「クド公にみおちんっヘルプ…って! こらーーーっ!」

「わふーー、三枝さんの犠牲は忘れません……」

「…ごゆっくり…」

 既に二人は教室のドアに手をかけていた。

「ううう、世の中無情なのですヨ……」

「そんなことは無いぞ? これからたっぷりと情けをかけてあげよう……」

 いやいやいや。

「わーーーわーーーわーーーっ!」

 

 

「? 何やってるんだお前達?」

「「恭介くん(氏)?」」

「…悪い。 邪魔したみたいだな」

 気まずそうに去ろうとする恭介。

「君こそ何をやっているのかね? そんなところで…」

 恭介は窓の外にいた。

 屋上からロープを伝って降りている途中、この教室の窓を通りかかったみたいだ。

 うーん、まずいなぁ。

「たいした事じゃないさ。 ちょっと、『スニーキングかくれんぼ』をな」

「それはまた新感覚な遊びを…」

「すにーきんぐ?」

 西園さんもクドもドア付近から戻ってきた。

「『かくれんぼ』ってさ、逃げる奴だけが隠れるだろ? そんなの不公平じゃねえか」

「いやー、それがルールでしょ?」

「そこで俺は考えた。 『かくれんぼ』という名前だったら、鬼だって見つかっちゃ駄目だっ! ってさ」

「……誰にだね?」

「? いや、世界中の人々から」

 無駄にスケール大きいよね、ソレ。

「それで今日は君達四人の姿が見えなかったという事か」

「わふ、朝からずっと隠れているんですか!?」

「その通りだ。 朝の六時からだから…もう九時間ほどになるな。

  なんだかもう隠れているのか逃げているのか寂しいのかなんなのか、分かんなくなって来たところだ」

「うん、僕もそう感じていたところだよ……」

「「「「え?」」」」

 

 僕はそう言いながら、掃除ロッカーの扉を開けた。

 

 

 

「リキはずっと掃除ロッカーに隠れていたんですか?」

 ただでさえ大きな瞳をさらに真ん丸く開いて、僕に聞いてきた。

「なんか出るに出られなくって」

「ほぅ、ならばおねーさん達の会話や行動も覗き見ていた、ということかね?」

「ごめん、みんな」

 これは素直に謝っておこう。

「アブナカッタ…。 恭介さん、止めてくれてさんきゅーですヨ!」

「…あと少しで直枝さんが本物のガッテム覗き魔となるところでしたね」

 ごめんなさい。

「キリがいいからここいらで終了しておくか」

「うん。 ところで恭介…」

「なんだ?」

「真人と謙吾にはどうやって伝えるの?」

 制限時間も無いし、携帯だって持っていないはずだ。

「あ…」

 あの二人は今でも隠れ続けている訳で……

「「「「……」」」」

 

 

 

 

 

 結局二人は校内放送で呼び出すことになってしまった。

 

 『えーー。 迷子のお知らせをお伝えします。

  井ノ原真人君、宮沢謙吾君。

  もう泣きながら隠れていなくても良いそうです。

  勇気を出して放送室まで帰ってきてください』

 

 鬼のような来ヶ谷さんの放送の後、ものすごい勢いで二人は戻ってきた……。

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