「ねこ? あたしは猫だったのか? …それは知らなかったな、ちょっとびっくりだ」
鈴は小毬に問いかける。
「鈴ちゃんはねこさんっぽいもんねー?」
「そうなのか」
「うんっ!」
「…猫」
鈴はまんざらでもなさそうだが、
「ちょっとあなた!」
「風子の事ですか?」
「他に誰かいるとでも?」
佐々美は風子に詰め寄る。
「このわたくしと棗鈴を一纏めにしないで下さるかしら!」
「笹瀬川さん、大人気ないわよ?」
佳奈多が諌めるが、
「どうして棗鈴と同類に見られなけらばならないんですの!?」
佐々美は納得しない。
「? お前、猫嫌いなのか?」
「べっ別にそういう意味では…、って棗鈴! あなたも何か文句をおっしゃってはどうなの!?」
「落ち着け、ささせがわささい」
おしい。 あと一文字だ。
「ささせがわささいさんですか! とっても珍しいお名前です……風子、これは予想外です」
「違いますわっ! ささみ! 佐々美ですわ!」
それを聞いた風子はさらに驚きつつ、
「わわっ! 『笹瀬川佐々井 佐々美』 さんですかっ! 苗字長すぎですっ! 何者ですかっ!」
「さ・さ・せ・が・わ! さ・さ・み! どれだけ長い名前ですの! 誰ですか! 笹瀬川佐々井って!?」
「どちらにしてもヘンな人ですね、しゃしゃしぇがわしゃんは」
それは噛み過ぎだ。
「きぃぃぃーーーーーーっ!!」
「こっちの嬢ちゃんも、こりゃまたオモシロキャラだな…」
秋生もびっくりだ。
「ええと…。 鈴ちゃんと笹瀬川さんは、駅でお会いしてからずっとこの様な調子で…」
「渚、気にしないでいいんじゃねえか? あれが二人にとってのコミュニケーションなんだろうよ」
「その真ん中にふぅちゃんがいるのですが……」
風子、鈴、佐々美の掛け合いはまだ続いている。
「鈴ちゃんもさーちゃんも、めっ! みんな仲良く、だよ?」
小毬が割って入りようやく落ち着きを取り戻す店内。
「…小毬ちゃんに怒られた……」
「…神北さんに『めっ』なんて子供のように叱られるなんて……」
「ええっ? わっわっ、えと…えと……うわーーーんっ! 元気出してーー!」
「貴女こそ落ち着きなさい…」
結局締めたのは佳奈多だった。
「予定の物は買ったのね? ならそろそろ行くわよ?」
佳奈多が店を出ようとすると、
「なるほどな。 そっちの嬢ちゃんはクールっ娘担当ってわけか」
秋生が少しネジの外れた感想をもらす。
「そんなことないですっ!」
反論は風子だ。
「佳奈多さんはただの落ち着きある大人の女性なだけではありませんっ!」
そうは言うが、とりあえず風子の方が年上だ。
「さぁ! 佳奈多さん! こちらをどうぞ!」
「風子?」
風子が佳奈多に手渡したのは、買ったばかりのヒトデパンだった。
「あぁ…。 なんでこんなにもお似合いなんでしょうか……」
「ちょ、ちょっと! だからそんな顔されても困る…!」
風子の幸せ顔に対して、どう対処すればいいのか困ってしまう佳奈多。
ちょっと困ったような、それでいて仕方ないわね…という雰囲気を纏った表情だ。
「はわー…」
「?」
「あら…」
普段は見かけない佳奈多の表情を見て、三人娘が言葉を無くす。
「な、なによ? 言いたい事があるのなら…!」
「…やるな、アンタ」
秋生がにやにやしながら答える。
「何気なく頬を染めているのが高ポイントだな」
「! いい加減にしなさいっ! お邪魔しましたっ!」
佳奈多はずんずん歩いて店から出て行き、その後を公子が風子を引っ張って続いていく。
「それでは失礼しますね」
「はいっ、伊吹先生もふぅちゃんもまたいらしてくださいっ!」
「…なぁ、あいつもお前らと同じ学校なんだよな?」
「ええ、そのとおりですわ」
「…ほほぅ」
佐々美の答えを聞いて、秋生は何か考え付いたみたいだった。
「学校に帰ったらお前の兄貴に伝えな」
「? あの馬鹿にか? なんだ?」
「来週の日曜までに人数を集めておけってな」
「人数? なんかするのか?」
秋生はにやりと笑い、
「ああ、それとな……」
秋生がちょっとした伝言を鈴に託していた。