「……で? 食事といってもどこへ行くの?」
佳奈多が風子に訊ねる。
「お買い物をして風子の家に行きましょう!」
「お買い物?」
「ふうちゃんってば、朝起きた時からお昼に食べるご飯を決めているんですよ…」
公子はやれやれといった表情で補足する。
「風子、今日はそれだけが心の寄る辺でした……」
そんなに注射が嫌だったのだろうか。
「公子さんにお任せしますけれど、風子は朝から決めていたって……好物でもあるんですか?」
すると公子は、笑顔を向けて佳奈多に答える。
「はい、とっても面白いんですよ?」
「なんだか不安になってくるわね……」
「らっしゃいっ! …って先生さんじゃねえか。 お? 風子も一緒か」
「こんにちは、古河さん」
「こんにちはですっ! 今日も買いに来ましたっ!」
三人が訪れたのは、古河パンだった。
風子→好物→古河パン→……の流れならば、それはもちろん…
「ヒトデパンくださいっ!」
すばらしいほど完璧な、満面の笑顔だった。
「今日もヒトデな毎日ですっ!」
袋いっぱいのヒトデパンを胸に抱えて、風子は満足そうだ。
「風子も風子だけど、この店もこの店ね…」
並んでいるパン(早苗パン)を見ながら佳奈多が感想を漏らす。
「ん? お嬢ちゃんは初顔だな。 先生さんの知り合いか?」
秋生が佳奈多に声をかける。
「知り合いといえば知り合いね。 風子の友達というのが一番正しい認識だけど」
「へぇ、風子のねえ……」
「何? なにか含みのある顔ね」
「なんでもねえよ。 ま、よろしくな嬢ちゃん」
「二木よ」
「へいへい、俺様はアッキーだ。 秋生様でいいぞ」
「ここにも疲れる人がいるのね…」
「古河さん、渚ちゃんはいますか?」
公子は渚の所在を尋ねるが、
「あー、渚なら駅まで友達を迎えに行ってる」
「お友達ですか?」
「ああ。 もうそろそろ帰って…」
「ただいま戻りました」
秋生が言い終わらないうちに店の入り口から渚の声がした。
「あ、ふぅちゃんに伊吹先生、いらっしゃいませ」
「こんにちは、渚ちゃん」
「渚さんですっ!」
「おぅ、お帰り渚。 連れてきたのか?」
「はい、どうぞ中に入ってください」
渚の後ろから店に入ってきたのは、
「「「お邪魔します」」」
「!? 神北さんに、棗さん…、笹瀬川さんまで?」
「あれ? 二木さんがいるよ~?」
「? ほんとだ」
「あら、奇遇ですわね」
リトルバスターズの二人とプラスアルファだった。
「そう…、こちらのお宅の子とホットケーキをね…」
「うん! 前に約束してたの~」
どうやら小毬は野球の時の約束通り、渚と一緒にホットケーキを作るようだ。
「あたしはお供だ」
「お供ってあなたね…」
鈴も小毬についてきたようだが、
「へぇ…、笹瀬川さんも一緒に野球をしたの? 珍しい」
「違いますわ! このわたくしが草野球に参加するとでもお思いでっ!?」
「思わないわね…」
佳奈多は控えめに苦笑する。
「…神北さんが是非に、とおっしゃるものですから…。 仕方なくですわ! 仕方なくっ!」
きっと佐々美は小毬の誘いを断る事が出来なかったのだろう。
それを隠そうとしているのだが、正直に言って周りにはバレバレだ。
「……」
「? ふぅちゃん、どうしたんですか?」
渚が黙り込んだ風子に声をかけると、目をまん丸にしていた風子は鈴と佐々美を指差して、
「ねこさんがいますっ! それも二人もですっ!!」
見当違いだが、ある意味的確な感想を口にした。