「お前達だって俺には大切なんだっ! すっげぇ、すっげぇ大切なんだぜっ!」

 

 

 

「なんだよあれ?」

 帰り支度をしている最中、離れたところで棗と直枝が何かやっていた。

 なんだか妙に恥ずかしい台詞を叫んだ棗は、どこかに走り去って行ったみたいだが……

「こっちの準備は出来ました…って朋也くん? どうかしたんですか?」

「渚… いや、なんでもない」

 ま、あいつらのことだ。

 また突拍子もない事でも始めたんだろうさ。

 気になるといえば気になるんだが…

 

「青春っだなっ!」

「オッサン?」

 

 いつの間にか隣に来ていたオッサンが腕を組みながら一人頷いていた。

CLANALI2  第三十四話

「驚かせるなよオッサン… で?青春って何の事だ?」

「野暮な事言わせんじゃねえよ、ありゃ痴情のもつれってやつだな」

 言ってんじゃねえか。

「棗と直枝……そして井ノ原と宮沢の四角関係が原因だ」

 おいおい。

「ええっ!? そうだったんですかっ? さすがにびっくりです…」

「もちろん適当だがなっ!」

 …相変わらず…このオッサンは…

「お父さんっ」

「悪ぃ悪ぃ、そんなに怒るなって娘よ」

「じゃあ結局なんなんだよ?」

「あ?」

 会話をしてくれ。

「だから棗達の…ってもしかして完全に当てずっぽうだったのか?」

「んだよ小僧、気になんのか?」

「そりゃな。 今度は何を始めたんだか」

「…ほほう」

 なんて言いながらオッサンは目を細めてにやにやと顔を見てきた。

「なんだかんだ言って、いつの間にか小僧の中でもあいつらの事が大きくなってきやがったか」

「そんな事はねえよ」

「おうおう。 そうだな、わかってるって」

 だからあんたは人と会話する気がないのか? それと人の背中をばんばん叩くな。

「だからっ!」

 つい声が大きくなってしまったその時、

 

 

 

「風子、参上っ!」

 

 

 

「「「……」」」

 何故か絶妙なタイミングで風子が俺達の間に現れた。

 風子はいつものようにヒトデを両手で持ったまま無意味に胸を張り、

「親子喧嘩は犬も食わないと言います。 仕方がありません、ここは風子が一肌脱ぎましょう」

 なんて言い出した。

 

 空気は固まったままだが、とりあえず一番根本的なことをつっこませてもらおう。

「おい、風子」

「はい、なんでしょうか岡崎さん。 どうぞ安心して喧嘩の原因を風子に悩み相談してください」

「俺はいつの間にオッサンと親子になったんだ?」

「はい?」

 

「「「「……」」」」

 今度は風子をも含めて空気が固まる。

 

 

 

「…さて。 残念ながら風子、少々予定を思い出してしまいました。 相談はまたいつかお聞きしたいと思います」

 ぺこり。

 風子はお辞儀をし、何事もなかったかのようにとたとた走っていった。

 

「なんだ? 今の?」

「俺に聞くなよ……」

「ふうちゃん、どうしてあんな事を言ったんでしょうか?」

 …渚、あまり深く考えるのはよそう。

 かなり恥ずかしい予想が浮かんじまう。

「……朋也くんにとってお父さんはお義父さんっていう事なんでしょうか?」

「「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」

 二人して頭を抱えながら地面に転がる。

「やらん、まだやらんぞぉっ! 息子よぉぉぉぉっ!」

「ぐはっ!? まだっ? まだって言ったなお義父さんっ!?」

「「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」

 転がりつつの売り言葉に買い言葉。

 それぞれ壮大なダメージを受け合っていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まぁ…なんにせよ…だ…」

「あ…ああ……」

 なんとか立ち直りかけてきた俺達は、ようやく最初の話題に戻っていた。

 

 ……勢いに任せて、かなりとんでもない事を言っていたような気もするが……

 

「棗達の…、さっきの原因はわからんけどよ」

「ん?」

 そう話し始めたオッサンの表情は、何かを想う時の…真剣な顔に変わっていた。

「どうも予想と違ってやがったみてぇだな…」

「予想ってなんだよ?」

「? ああ、あいつらの関係っつうか、役割っつうか…」

 どうも歯切れが悪い。

「てっきり直枝は棗の後ろにくっついてばかりだと思ってたんだが…」

「思っていた?」

「走り去る棗の後姿を見ていたあいつの目。 それを見てようやく気が付いたんだよ」

 なんだか嬉しそうな、少し驚いたようなそんな口調だ。

「ある意味、直枝の奴は誰よりも……」

「…」

「……」

「誰よりも?」

 俺は言葉の続きを促してみたが、

「あとは自分で考えな」

 オッサンはそう言い終えて、早苗さんの元へ歩いていってしまった。

 

 

 

「どういうことでしょうか朋也くん?」

「んー」

 渚の問いに答える事は出来なかった。

 俺自身、オッサンの言いたい事がわかるようなわからないような…なんとも妙な感じだったから。

 もう一度直枝の方を向いてみると、あいつはもうその場所にはいなくなっていた。

 

 

 それはまるで、棗と離れたその場所に自分がいなくても何の問題もないと言うかのように。

 あるいは……、既に自分の役目は終わったかと言うかのように。

 

 

 俺には、そう感じられたんだ。

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