「重要案件だっ!」

 

 秋の太陽は沈むのが早い。

 午後三時にもなれば気温も下がり、気の早い鈴虫達がその存在の主張を始める。 

 本格的に体が冷える前に帰り支度を…と誰しもが思い始めた時に大声が響いた。

 

 

「なんだよオッサン? 藪から棒に…」

 朋也がその声の主、秋生に問いかける。

「まぁ聞け、ちょっとばかり連絡事項だ。 来月の話の件だが…」

「悪いがその時期は休みが取れそうもない」

「申し訳ないのですけれど、私と祐くんはご一緒できないと思います」

 秋生に続いて芳野と公子が言葉を続けた。

CLANALI2  第三十二話

「そうなんですかっ!?」

 風子が驚きの声をあげる。

「ふうちゃんは気にしないで大丈夫だよ? 遊んできていいからね」

「ん~……」

 何かを気にした表情をみせる風子だったが、

「…わかりました… おねえちゃん達の分まで岡崎さんの罰ゲームを楽しんできますっ!」

「…お前も当事者だからな、風子?」

 すかさず朋也がつっこみを入れる。

「言ってる意味が解りません。 風子、クリスマスの件では重要人物なんです。 罰ゲームなんてしてる暇はないです」

「だからそれが罰ゲームなんだよ」

「そうなんですかっ!? 言葉巧みに誘われてましたっ! 油断も隙もありませんっ!」

「風子ちゃん風子ちゃん。 一緒に、頑張ろ~!」

 おろおろしだした風子を落ち着かせるように、小毬が小さなガッツポーズをしつつ励ます。

「小毬さんも気をつけてください…岡崎さんは口先の犯罪予備軍ですっ! いつか大変な事されるかもしれませんっ」

「え……、えええええっ!?」

「おいおい…」

 小毬は何を想像したのだろうか?

 朋也はそんな小毬を見て口から溜息を吐いていた。

 

 

「でもさ」

 理樹が問題点を口にする。

「そうするとそっちの人数が足りなくなるんじゃないかな。 大丈夫?」

 その通りだった。

 うまく調整すれば出来ない事もないのだが……

「そこでだ」

 秋生が元刑事チ-ム達を見渡しながら理樹の言葉を拾う。

「ボランティアしてやるぜっていう粋な奴はいねぇか? なあに、たった二人でいいんだ」

「なんだよ? 折角勝ったってのに俺達にもやらせんのかよ?」

「だよね~。 そんな奴いないって!」

 真人と春原が口を揃えて聞き返す。

「ま、強制じゃねえさ。 どうだ? いねぇのか?」

 

 

「……」

「? なんですか来ヶ谷さん」

「いや、君は参加しないのかね? 二木君」

「まさか。 ただでさえ忙しくなる時期に、わざわざ面倒ごとを引き受けるとでも?」

「…合法的に傍にいられると思うが…?」

「誰が? 誰と?」

「ふむ……」

「来ヶ谷さん?」

「自分の心に気が付いていないのか、気が付いていない振りをしているのか…… どちらにせよ失言だったな」

「よく分りませんが」

「すまない、忘れてくれ」

「はい、……そのつもりです」

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで!」

 追加メンバーが決まり、葉留佳が勢い良く宣言する。

「みおっちとなぎさちんが起き上がり仲間になりたそうにこっちを見ている仲間にしますかもちろん『はい』っ!」

「どういう意味だ?」

「俺にもわからん」

「そこーっ! インファイターコンビ、ともよんと謙吾くん! 話の腰を折らない!」

 智代と謙吾に対してズバッと指を指し、葉留佳が話を続ける。

「みおっちとなぎさちんは晴れて泥棒チームの参加となったのでした! これから二人は永続的に我々の子分として、わひゃっ!」

「……誰が子分になると言ったんですか?」

 どこからか取り出した新聞紙ブレードで葉留佳を撃墜する西園。

「内容が内容ですから少々興味があります。 よろしくお願いします」

 続いて渚も、

「えーと、…一生懸命頑張りますっ!」

 

 結局、罰ゲームの参加者は11人。

 朋也、恭介、杏、風子、鈴、小毬、葉留佳、唯湖、ことみ、そして西園と渚。

「期待してるぜ? 小僧、棗」

 秋生は笑顔でそう言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「三年生はあたしと朋也、アンタに渚の四人ね」

「そうだな」

 

 帰り支度が済んだ恭介と杏。

 二人は他の皆と少しだけ離れた場所で全員を見渡していた。

 

「朋也と渚は別として……恭介、アンタ受験勉強は大丈夫なの?」

 さすがにこの時期だ。

 気がかりな事の一つでもあるのだろう。

「そう言う杏は平気なのか?」

「あはは。 あたしは時間の使い方が上手いの。 アンタはどうなのよ?」

「問題ないさ」

「そぅ? なんだ、アンタもしっかり大学受験の勉強を…」

「俺は就職するからな」

「やってたん……って嘘っ!! 就職組なの恭介!?」

 恭介の就職、それは杏にとってまったく予想外な選択肢だった。

 例え大学自体が別になろうとも、今のままの関係が続いていくものだと思い込んでいた。

 社会人になるという事は、自分とはまったく別の世界に行ってしまう事ではないか?

 杏の心に得体の知れない不安がじわじわと入り込んでくる。

「ん? 言ってなかったっけか?」

「言ってない、聞いてない、思ってないわよっ! もっと早く教えてくれてたっていいじゃないっ!」

「そうか…? でも……」

 

 

 

 

 

 

「俺の進路がなんだろうが関係ない事だろ」

「っ!」

 

 

 

 

 

 

 普通の顔だった。

 

 人懐っこい笑顔で言われた言葉じゃない。

 

 今まで言わなかった事を責められ、焦って言い訳をする表情でもない。

 

 なんでもない……そう、本当になんでもない顔だった。

 

 

 

 

「なに……それ…?」

 杏の声は震えていた。

「? そのままの意味さ」

「関係……ない事、……ね」

「……だってそうだろ」

「あたしは……っ! …っ」

 

   たっ!

 

 言葉を飲み込んで駆け出す。

 今この場に居続けたら、あたしはきっと、言いたくない事を言ってしまう。

 自分の感情が…止められない。

 

 

 

 

 

 杏は走る。

 今は誰にも顔を見られたくなかったから。

 

 自分の瞳に浮かんでいるモノを。

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