「「「「……」」」」
沈黙が支配していた。
と言ってもその沈黙はリトルバスターズの面々がいる空間だけであるのだが。
彼らの手にあるのは早苗特製おにぎり。
大丈夫なのか…?
あのパンを作った人の料理…
いや、流石におにぎりなら…
わふー…
謙吾くん、勇者になるチャンスですヨっ!
理樹、あたしの分も食べてくれ。
いやいやいや…
アイコンタクトでお互いを牽制し合っていたが、
「「「「いただきまーす」」」」
「「「「あ」」」」
朋也達がなんの躊躇いも無く頬張っている姿を見て、ようやく妙な緊張が解けたのだった。
「それしてもさ」
理樹が恭介に声をかける。
「何だよ? って口にご飯粒がついてるじゃないか」
「えっ? ホント?」
「嘘言ってどうするんだよ……右だ、右。 違う違う、理樹から見て右…あ~理樹。 少し動くな」
そう言いつつ恭介の顔が理樹に近づく。
「うわわっ! 恭介っ!?」
「取ってやるって」
「い、いいよ…っ、自分でやるからさっ」
「遠慮するなって」
「……アリです…」
「ん~? どうしたのみおちゃん? ってほわぁぁぁぁぁ! 恭介さんと理樹くんがぁぁっ!?」
小毬の叫び声で全員の目が集まった。
理樹のほっぺたについた米粒を取ろうと恭介が迫っているその光景。
理樹は顔を染めつつも体を後ろに反らしているだけであり、恭介はそんな理樹に接近し顔を近づけてほっぺたに指を伸ばす。
(何やってるんだあいつらは?)
過半数の目にはそのように映っているが…
(恭介が理樹を口説いてる…っ!?)
多少そういった知識を持った者達には薔薇な世界にも見えた。
「みっみんなが見てるしさっ」
「なんだ? 見られてたっていいじゃないか」
(((いいのっ!?)))
「よくないよ…恥ずかしいだけだよ…」
「理樹をこのままにしておく……、そのほうが恥ずかしい事になるんじゃないか?(ご飯粒がついたままなんて)」
「そんな事無いよっ。 (ご飯粒取るのは)僕がするよ…」
(((攻守逆転っ!?)))
「…そうか、ちょっとだけ寂しいな。 悪い、つい兄貴風を吹かしちまった」
「ううん、恭介の気持ちは嬉しいよ? だけど…」
「? だけど?」
「…恭介、後ろを振り返って?」
「なんだよ…って、おわっ!?」
数名の女子達が食い入るように熱い視線を向けていた。
「こいつ、今『おわっ』とか言ったぞ」
「ふむ…もうお終いか?」
「ほわわわわ……」
「おんや? お姉ちゃん、顔が真っ赤っ赤だよ?」
「何よっ!? 葉留佳だってっ!」
「……」
「わふっ? 西園さんがおもむろにスケッチをっ!?」
「強気受けと見せかけて、いたってノーマルな強気攻め…なの」
「ちょっとことみっ!? また変な知識増やしたでしょっ!? …あ~、この場に椋がいなくて良かったわ…」
「男の人同士っ…でも前に朋也くんも…」
「渚さん、風子また一つ大人の階段を登ってしまいました」
「それは違うと思うのだが… それよりも古河、その…岡崎の話は…本当なのか…?」
訂正。
同年代の女子ほぼ全員の視線が集中していた。
「なぁ岡崎?」
「なんだよ春原」
何かを必死になって弁解している恭介達を見ながら、春原はぼそりと呟く。
「なんかさ。 今のやりとりを見てたらさ、だんだん…」
「だんだん…?」
「直枝の奴が、おんなのこに見えてきちゃったんだよね…」
「お前、本当にやばい奴だよな」
「やばくないよっ!? いたって健康だよっ!」
「その自信がどこから生まれてるのかが不思議で仕方ない」
春原はぐわ~~っと頭を抱えながら、
「だっておかしいよっ? 柊ちゃんといい理樹ちゃんといい、妙に色っぽい表情してないっ?」
「既に直枝の事、ちゃん付けかよ…」
「なんか世界がおかしいよっ!?」
「おかしいのはお前の頭だからな?」
朋也の春原に対する扱いは円熟期を迎えていた。
「ふぅ。 恭介、さっきの話だけどさ」
落ち着きを取り戻した後、初めに言いかけた話題を再び振る。
「罰ゲーム、本当にするの?」
「ああ」
迷いなく答える。
食事前に秋生が提案した罰ゲームはちょっとした余興だった。
事前に提示してはいなかったので泥棒チームにも拒否権が与えられたが、恭介以下数名は内容を快諾していた。
「…うん、わかった。 手伝える事があったら何でも言ってよね?」
「ああ。 サンキュな、理樹」
その罰ゲームには準備期間が必要だった。
実行する日は今から約一ヶ月ほど先の話。
それは秋を越えて冬が始まった頃。
……12月、クリスマスパーティーの中で行われる事になっていた。