「まったくもうですっ!! 風子はとっくに元気少女です!」

「ふぅちゃん? 我侭言わないの。 なにかあったら大変だからお医者さんに行くんでしょ?」

「お医者さんは風子をいじめるから嫌いです!」

「お医者さんだっていじめたくてお注射してくるんじゃないんだから……」

「いいえっ! あの人の顔は明らかに嗜虐的でした!」

「ふぅちゃん、意味分かって言ってる?」

「…きっと岡崎さんみたいな人の事です」

「…岡崎さんが聞いたら怒るよ?」

「やっぱり今のなしです」

 

 

 風子と公子は定期的に通っている病院から出てきたところだった。

CLANALI2  第二話

「どうしようかなー? ふぅちゃん我侭だから、岡崎さんに叱ってもらおうかなー?」

 公子がいたずらっぽく答える。

「駄目ですっ! いくらおねぇちゃんでも言ってはいけない事があります!」

「どうしよっかなー?」

 からかうようにそっぽを向く公子。

「もう! 聞いてくださいおねぇちゃ…きゃっ!」

 

   ドンッ

 

「っと……大丈夫?」

 周囲に対し注意力が散漫になっていた風子は、側にいた女性にぶつかってしまった。

 しかしその女性は、よろけそうになった風子をしっかりと支えてくれている。

「あ…ありがとうございます……」

「すみません、お怪我はございませんか?」

 公子も一緒になって頭を下げる。

「ええ、私は大丈夫ですのでお気になさらず。 ……貴女も問題ないみたいね。

  でも気をつけなさい? ここはまだ病院の敷地内よ。 患者さんにぶつかっていたら大事だわ」

「…はい。 風子、これから気をつけます」

「……そう? 素直ないい子ね。 貴女の言うとおり、次から気をつければいい事よ」

 その女性は一見辛辣な物言いだったが、話している相手の事を考えた言葉だ。

 

「すみませんでした…。 お詫びといってはなんですが、これ、差し上げますっ!」

「え?」

 風子は女性に木彫りのヒトデを差し出した。

「え? …これ……?」

「はいっ! 差し上げます!」

「…ヒトデ……?」

「!? そうですっ! そのとおりですっ! おねぇちゃん! この人一目でヒトデと言ってくれました!」

「うん、よかったねふぅちゃん」

「はいっ!」

「え、あの…?」

 女性は困惑気味に風子を見るが、

「ああ、親切な方が可愛いヒトデを持ってます…。 ちょっと顔が赤いのは幸せだからなんですね……」

 戸惑っているからだ。

「ちょ…ちょっと? ねぇ、えっと……お姉さん?」

「はい?」

「この子、なんだか遠い目をしてるんだけど…?」

 風子はほわほわーっとした表情で時空を飛び越えている。

「大丈夫ですよ。 この子、幸せになるとその幸せを噛み締めちゃうんです」

「そ、そうなの…」

「はい。 でも不思議です…この子、あなたに対してとても心を許しているみたいですね……。 

  普段なら、不安になるくらい人見知りなんですけれど……」

 公子は何かを思案しながら言葉を続ける。

「あの…、お会いしたばかりの方に対して、とても不躾なのですが……」

 …公子はその女性にとある提案を伝えた。

 

 

 

 

 

「本当突然ね……」

「ごめんなさい。 自分でもそう思います。 でも、もしよろしければ…」

「……」

 女性は少しだけ逡巡した後、

「わかりました。 私も今日はこの後予定は入ってないですし、お付き合いさせていただくわ」

「ありがとうございますっ。 きっとふぅちゃんも喜びます」

「貴女の事、落ち着いていて優しそうな感じだと思っていたけれど、随分と押しが強いのね?」

「そうでしょうか?」

「そうよ…。 私の知り合いにも一人いるわ。 あなたみたいなタイプ」

「そうなんですか?」

「ええ、その人は男の子なんだけどね」

「ボーイフレンドですか?」

「違いますっ!」

 妙に語気が強い否定の言葉だった。

 

 

 

 

 

「あれ? 風子、どうしてたんですか…?」

「ふぅちゃん、そろそろご飯食べに行こう?」

「はい! おなか空きました!」

「そう? なら行くわよ?」

「え…?」

 女性の言葉が直ぐには理解できなかった。

 公子は風子を促す。

「ふぅちゃん、御一緒してもらわない? どうかな?」

「……」

 風子は公子と女性の顔を見比べた後、

「あのっ!」

「何?」

「風子は、風子って言います! えっと…お友達になってください…!」

「ええ、そのつもりよ、『風子』」

「あ…」

「私は佳奈多。 二木 佳奈多よ。 よろしくね」

「…はいっ!」

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