「風子、囚われの身ですかっ?」
「そうですわ、ですから少しは大人しくなさい」
「ん~っ、逃亡者の血が騒ぎますっ!」
「だから大人しく…、ほら、こっちですわ」
ふうちゃんが笹瀬川さんに連れられて歩いています。
…私は、またもや驚かされています。
ふうちゃんが新しいお友達と、ごく自然にお話しをしているからです。
「笹瀬川さんも可愛らしい方ですっ! 風子、いつか笹瀬川さんと一緒にっ」
「少しは落ち着きなさいっ! って伊吹さんっ!? そっちは……」
あの時、二木さんにお願いした事はふうちゃんにとって余計なお世話だったみたいですね。
『長い間、世界を知らなかったこの子に……貴女の世界を教えてあげてくれませんか? ふうちゃん、貴女にとても懐いています。
…はい、突然なお話でごめんなさい。 …でも……、あの子が自ら近づいていった貴女となら…… 私の勝手なお願いですけれど……』
私がお膳立てなんかしなくても、ふうちゃんは自分から新しい世界を広げているんですね…。
ふうちゃんの事、少しだけ過保護にし過ぎましたかもしれません。
これは反省しなければですね。
あれ? 牢屋の様子が少し……
…きっと、作戦が上手くいったんでしょう。
岡崎さんに藤林さん……頑張ってくださいね。
「させねぇって言ってんだろうがっ!」
「聞き飽きたぜオッサンっ!」
秋生と朋也が争っていた。
秋生は朋也を捕まえようとするが、朋也も全身を大きく動かしその手を避ける。
「ちょこまかとっ!」
痺れを切らし、朋也を放って恭介達に目を向ける秋生だが、
「良いのかよオッサン? あっちに加勢に行くのは構わないけどな……俺なら渚を簡単に押し留めて宝に手をつけるぞ?」
「小僧……っ」
朋也ならば口先の言葉を使い、渚を一瞬無力化出来るだろう。
それがわかっている秋生は朋也を無視して智代の加勢に向かえない。
すなわち、朋也は秋生の攻撃を避け続けるだけで、
「俺一人でも、オッサンの足止めが出来るって事だ!」
智代の動きは桁が違った。
恭介、杏、鈴の三人がそれぞれ連携を仕掛けても見事に追いついてくる。
危険を感じる度に身を引く三人だったが、このままでは時間だけが過ぎてしまう。
それではこの作戦の意味が無い。
そう、牢屋スペースに刑事達をつなぎとめて置けていた時間はたったの五分間だけなのだから。
いずれ追いすがってくる事だろう。
「その前に……なんとかしないとな…」
実のところ恭介の脳裏には、智代を出し抜く一手が浮かんでいた。
しかしその一手を実行する為には、お宝の木の下に待機している渚の存在が壁となっていた。
「後…後一人…っ!」
現実は甘くない。
今この場に居て、更に動ける人間は三人だけなのだ。
「恭介…っ!」
杏の顔にも焦りが生まれて…いない。
そこに浮かんでいるのは決意を秘めた表情だ。
「詳しく話す時間は無いけど…信じなさい」
「?」
「リトルバスターズは全員揃ってリトルバスターズなんでしょ?」
「…っ!」
恭介は軽く頭を殴られたような気がした。
そう、あと一人……いる。
「んっ!?」
突然鈴は、目を閉じて神経を集中させ始めた。
まるで、聞き耳を立てているかのように。
すぐさま顔を上げて目を見開く。
二人には何も聞こえない。
それでも鈴がはっきりと言ったその言葉に嘘は無かった。
「いるぞっ…だれかが近くにっ…。 ひとりだっ」
そして恭介は決断した。
杏から言われた言葉、自分の想像する人物、そして鈴の宣言。
全員への信頼から導き出した行動は……
「ここで坂上を超えるんだ……、行くぜ二人ともっ!」
「「んっ!」」
智代に走り出す恭介。
「勝負に来たかっ? しかし…甘いぞっ!」
智代は恭介の動きを見切っている。
「俺は……、一人じゃないんだぁぁぁぁぁっ!」
恭介の叫びと同時に、杏が恭介の背中を踏み台にして飛び上がった!
「坂上智代…っ! あんたを超えてみせるっ!」
「甘いと言ったっ!!」
智代はたった数歩の助走だけで、杏とほぼ同じ高さにまで飛び上がる!
「捕らえたっ!」
智代の手が杏に伸びる。
「絶対に超えてみせる…あたし達全員の力でっ!」
「何をっ!?」
「りーーーーーーーんっ!!!」
たっ………たんっ!………たんっ!!
「馬鹿なっ!?」
鈴が恭介の背を踏み台にして飛び上がり、更に杏の背を第二の踏み台にして智代の上を飛び越えていくっ!
「行ったっ!!」
智代を飛び越えて後は着地するのみ。
しかし着地地点には渚が待っていた。
「鈴さん、ごめんなさいっ!」
両手を広げて鈴を待ち構える渚。
流石に落下中に方向転換は出来ないっ!
「三枝ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
恭介は力の限り叫んだ。 最後の仲間の名を。
「おいしいところではるちん出番だぁぁぁ~~っ! うりゃぁぁあっっ!!」
葉留佳が側にある木の枝から飛び出してきたっ!
「えええええっ!?」
渚も驚愕、と言うか何が起こっているのかついていけていなかった。
「鈴ちゃんっ! 私を足場にして最後のジャンプをっ!!」
「「おおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」」
恭介と杏が興奮のあまり声をあげる。
落下中の鈴と枝から飛び出した葉留佳が重り、もう一つ、遥かな高みへ……っ!!
「出来るかぼけぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
鈴の叫びが響く。
流石に無茶すぎる注文だった。
二人は空中で接触することなく、鈴は渚の下へ。
葉留佳は恭介と杏を捕まえたばかりの智代の目の前に落ちてきた。
「鈴ちゃん捕まえましたっ」
「うみゅ~~ぅ……」
「何がしたかったんだ? お前は」
「やはは……上手くいくと思ったんですけどネー……」
恭介、杏、鈴、更に葉留佳。
ほぼ同時に捕縛。
「…三枝…。 普通に古河の動きを止めるか、鈴が古河と接触している間にお前が宝に向かっていれば……」
確実にお宝を手に入れることが出来ていただろう。
「ドンマイですヨ?」
「お前が言うな……」
恭介が脱力したまま三枝と話している。
「秋生さーんっ。 頑張ってくださいねーっ!」
「朋也くんっ。 危ないですっ!」
「ねぇ? 直枝理樹?」
「何? 二木さん?」
「なんで全員集まってあの二人の戦いを観戦しているのかしら…?」
「僕が聞きたいよ……」
最後の生き残りである朋也と、彼を捕まえようとしている秋生。
二人は完全に自分達の世界に没頭している。
そんな二人を全員で観戦していた。
「……これは大将戦なの」
「ことみ?」
「これに勝った方のチームが勝利するの。 とっても、とっても燃える展開なの」
「「「「いやいやいや」」」」
刑事チームからのつっこみがことみに入っても、二人は戦いを続けていた……