明らかにおかしい。

 自暴自棄になるには早すぎる。

 かといって携帯電話も無いのに大規模な作戦も行えるわけが無い。

「何だ? 何を考えてやがる……?」

 芳野家、小毬、ことみの五人を確保した後、秋生は現状を判断しようとしていた。 

 

「わふ? ことみさん、それはなんですか?」

「秘密の道具なの。 だから秘密なの」

「そ~なんですか~。 それは仕方が無いですね~」

 

 そんな会話を耳にした秋生がことみに目を向けると、彼女は黒くて小型な機械を持っていた。 

 大きさは……携帯電話より少し大きめ。

「……そういうことか…っ! 狙いは同時攻撃ってとこか…っ? だが捕虜を助ける為だけにそこまで…、まさかっ!?」

 一つの可能性に考えが至る。

 『お宝の位置を知っているのが、棗鈴一人ではなかったのだとしたら?』

「やばいっ! 笹瀬川っこいつらを任せたっ! オイッ! 春原、起きろっ!」

 

「……ヒトデ……祭…? …ヒトデカーニバル……… っ!?……フェスティバル……?」

 

 春原は風子が聞いたら興奮しそうな寝言を言っていた。

CLANALI2  第二十八話

「状況を教えてくれっ!」

 恭介が走りながら朋也に声をかける。

「刑事側の遊撃部隊を足止めさせたと同時にお前達を救出した! 俺達はこのままお宝の確保に向かうぞっ!」

 攻めるのはこのタイミングしかない。

 刑事達の内、牢屋にいた理樹・真人・謙吾・佳奈多・西園・早苗はルール上しばらく動けない。

 更には遊撃部隊の秋生・春原・クド・佐々美は陽動組とやりあっている筈。

 陽動組を捕まえた後は牢屋に向かうだろう。

 すなわち、

「お宝の守りは智代と渚だけだっ!」

 朋也はフェイズ2開始時にことみから聞いた遊撃部隊の構成を思い出しながら、最後の刑事を判断する。

 お宝の守りが二人だけだという事は嬉しい誤算だった、が

「坂上が相手っ!?」

 最後の最後に最強の少女が待っていることになる。

「四人で勝てるのかっ!?」

 鈴が声を張り上げるが、杏がすぐさま言葉を返した。

「四人だけじゃないっ!」

「なにぃっ!?」

「裏ボスがやり始めている頃よっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石に早いな……っ」

「それはこちらの台詞だぞ? 智代君……」

 お宝が隠された木の前。

 智代と来ヶ谷は一旦距離をとって相手を見据える。

 フェイズ3開始の報を聞いた来ヶ谷は、朋也達が来るタイミングに先駆けて智代と死闘を始めていた。

 智代は相手を捕まえる事に専念し、渚は伏兵を懸念して木の前で二人の戦いを見守っている。

「(応援は四人。 このまま彼女を引き付けておければっ)」

 来ヶ谷がそう考えたその時、複数の足音が聞こえた。

「来ヶ谷っ! 坂上は任せたっ!」

 恭介の声だ。

「もらったぁぁぁぁぁっ!」

「!? 朋也くんですかっ!?」

 朋也が渚に向かって走りこむ。

 勝敗が決したかに思えたその場に、更なる人影が飛び込んできた。

 

「小僧ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「オッサンッッ!?」

 

「うそっ!? なんでよっ!?」

 杏が秋生の姿を見て声を出すが、

「おっぱいぼーーーーーんっ!!」

 なんとも頭の悪い声が杏の疑問を掻き消す。

「貴様っ!」

 春原がルパンダイブの要領で来ヶ谷に飛び掛った!

「断罪してやろうっ!」

 

   ボグゥッッ!!

 

 鈍い音を立てて春原が跳ね返っていく。

 それと同じタイミングですばやい影が来ヶ谷に抱きついた。

「クドリャフカ君っ!?」

 攻撃直後だった為、流石の来ヶ谷も避けきれずにいた。

「わふ~~~っ! げっとです~~っ!!」

 春原の奇行はクドの気配を紛らわすためのものだったのだろうか?

 そしてあの奇声は……おそらくは素なのだろう……

「……見事だよ」

 来ヶ谷は軽く息を吐いて、肩の力を…………抜かない。

 逆にクドをぎゅっと抱きしめる。

「…あの~来ヶ谷さん?」

「何かね?」

「あちらの手助けに行きたいのでそろそろ離してもらえると…」

「はっはっはっ、断る」

「逆に捕まりましたっ!?」

 自らの趣味と泥棒側の実益を兼ねて、来ヶ谷はクドをその場に留めていた……

 

 

 

「間に合ったみてえだな…」

「なんで解るんだよ、ここを狙ったって…」

 秋生に朋也がつっこむ。

「そもそもなんで間に合うのよ…?」

 杏が呆れたように呟く。

「簡単だ」

「「??」」

「俺様だからなっ!」

「「「「いやいやいや」」」」

 泥棒勢、魂のつっこみ。

 そして秋生の隣に智代がやってきた。

「正念場だな、いい舞台だ」

 恭介は顔を輝かせつつも、にやりと笑う。

「またアンタは……。 相手は坂上智代と渚のお父さんなのよ? 正面からじゃ…」

「きょー」

 鈴が杏の言葉を遮る。

「きょーすけを信じろ。 この馬鹿はいざという時には凄い馬鹿になる。 きょーも信じろ」

「「「「……」」」」

 四人は簡単にアイコンタクトを交わし、秋生と智代に向き直った。

 

 

 

 

 

 

「後は任せたぞ…恭介氏…」

「なんか綺麗にまとめようとしていますっ!? ってどこを触ってるのでしょ~かっ!?」

「はっはっはっ」

「ふんーっふんーっふぬーっ……抜け出せないです~……」

「ふむ、ろりぷにひんぬーもなかなか……」

「わふっ!?」

 こちらではずっと来ヶ谷の独壇場だった。

「…どうせ私はひんぬーですよー、そのとおりですよー、よー…、よー……」

 

 

 最終決戦を見守るのは幸せそうな観客と色々大変なことになっている観客。

 

 …もう一人、とある男は再び眠りについていた……

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