「ん?」

 最初に気が付いたのは秋生だった。

 その異変は数名の足音だという事に。

 

「春原っ! 構えろっ!」

「え? 何…ってえええええええええ!?」

 

「ぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおっ!!」

 

 芳野が気合を込めながら走って来た。

 更にその後ろからは風子と公子まで揃っている。

「能美と笹瀬川はっ!?」 

「わふーーーーっ!?」

「何事ですのっ!?」

 

 ……ついに反抗作戦が始まった。

CLANALI2  第二十七話

「おっと、あんたを素通りさせる訳にはいかねえな!」

「願ったり叶ったりだ…」

「なんだと…?」

 芳野の前に立ちはだかるのは秋生。

 と言うよりも、芳野の方から秋生へと向かっていったかに思える。

 

 

「僕は、ぶほぉぉぉぉぉっ!」

「風子、ついに禁断の一手を使用してしまいました……」

 風子は春原に木彫りのヒトデを投げつけ、相手を行動不能にさせる。

「……ヒトデの夢を楽しむといいです……」

 

 

「わ、わふっ!?」

「ちょっ、ちょっと貴方!?」

 クドと佐々美の前に立つのは公子だ。

「……」

 ただただ笑顔のまま近寄る公子。

「な、なにかそこしれないお~らをかんじます……」

「なんで逃げないの? 泥棒でしょ…?」

「……うふっ。 何もしませんよ?」

 クドと佐々美の戸惑いが頂点に達する。

 その背後から、息を潜めて近づいてきた小毬が二人を抱きしめた。

「「!!」」

「逃がさないよ~っ!」

「わふっ! 小毬さんっ!? 役割おかしくないですかっ!?」

「泥棒が刑事に抱きついちゃいけないルールなんてないも~んっ!」

「無茶苦茶ですわっ!」

「…りんちゃんを助けるんだもんっ。 無茶でもいいもんっ!」

 

 

 

 ……離れて様子を見ていたことみがトランシーバーに向かって語りかけていた。

 

 

 

「遊撃部隊の足は止めたの。 フェイズ2開始して下さいなの」

「(了解)」

 返ってきた返事は朋也の声だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 たたたたたたたっ!

 牢屋スペースに足音が響いてくる。

「来たかっ!?」

「よっしゃ出番だぁっ!」

 謙吾と真人が足音の方向に目を向ける。

 向かって来た人物は朋也と杏だ。

「たった二人? 舐められたものね」

 佳奈多が戦力差を判断する。

 刑事は理樹・佳奈多・謙吾・真人・西園・早苗の六人だ。

 無謀……としか考えられないが、向かってくる二人の気迫は本物だった。

 

 

「早苗さんっ!」

 朋也が走りながら叫ぶ。

「…はい?」

「……くっ!」

 若干の葛藤。

「早苗さんのパンは……古河パンの、……古河パンの○○○だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 言った。

 朋也、言ってしまった。

「えええええええっ! そ、…そうだったんですか……っ」

「古河さんっ!」

 膝を突いて落ち込む早苗に西園が駆けつける。

 

 

 更に牢屋に向かって駆ける二人。

 その前に立ちはだかるのは理樹・真人・謙吾。

「甘いよ二人ともっ!」

 ここは通さないとばかりに気合を入れる理樹達。

 

 その時だった。

 

「理樹っ! 真人っ! 謙吾っ! ここに『絶対命令権』を発動するっ!!」

「「「恭介っ!?」」」

 牢屋にいる恭介が叫んだ!

「三人とも、そこを動くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「「「なんだそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」

 そう。

 前回の野球前日に行った人生ゲームの優勝者権限だ。

「こんな時に使う、普通っ!?」

 理樹の叫びも虚しく朋也と杏は三馬鹿の横を通過した。

 最後に待つのは…佳奈多。

 

 

「何? 何? なんなのよっ!?」

 恭介の絶対命令権の事など知らなかった佳奈多は状況がわからない。

 そんな佳奈多に向かっていく朋也。

「うおおおおおおっ!」

 おもむろに上着を脱ぎながら駆け寄る。

「え?」

 

 

「岡崎っ、最高ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 

「ええええええええっ!?」

 完全に予想外の行動を取られ、佳奈多が躊躇したその瞬間。

 

 

「恭介ぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

「杏ぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 

 

    ぼふぅぅぅぅっ!

 

 

 

 まったく減速せずに、杏が恭介の胸に飛び込んだ…………

 

 

 

 

 全力で向かってきた杏をしっかりと受け止める恭介。

「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ぁっ!!」

 杏は恭介の胸をぽかぽか叩き続けていた。

 恭介はそんな杏にやさしい目を向けた後、朋也に向かって声をかける。

「やるな、岡崎」

「お前こそ……。 来ヶ谷の言った通りだな、お前は切り札を持っているって。 …っと、まだ終わりじゃない」

 朋也は懐からトランシーバーを取り出して声を張り上げる。

 

 

「フェイズ2成功っ! 続けてフェイズ3を開始するっ!」

 

 

 間髪入れずに次の作戦が発令された。

 泥棒が牢屋から脱出する際、牢屋警護の刑事チームは五分間泥棒を捕まえる事が出来ない。

 いわゆる逃走猶予時間だ。

 だがその時間を逃走に使うのではなく、攻撃手段とする事。

 今まで捕まっていた人材を次のフェイズに参加させると共に、牢屋を守っていた人物を五分間無力化させる……

 それがことみの考え出した波状攻撃だった。

 

「フェイズ?」

 鈴は今の怒涛の展開にびっくりしていたが、朋也の声に反応した。

「…よしっ! 恭介に妹っ。 二人とも行くわよっ!」

 立ち上がった杏が鈴に手を伸ばす。

「何事だ? くちゃくちゃわからんぞ?」

 

「ケリつけるのよ、あたし達で」

「……ひとついいか?」

「ん? 何?」

「こまりちゃんは?」

「…安心して。 この作戦は彼女の功績よ」

「そうか……。 よし、いくぞ! 『きょー』」

「っ!? …頼りにしてるわよ? 『鈴』!」

 

 改めて杏は鈴に手を伸ばす。

 鈴はしっかりとその手を掴んで立ち上がった。

 

 

 

 そして最終フェイズが始まる。

 

 最後に待ち構えるのは……最強の少女だ。

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