「はぁ?」
「にゃ?」
牢屋スペースで再会した棗兄妹。
その第一声はなんとも間の抜けた声だった。
「鈴、お前…なに捕まってんだよ?」
「それはこっちのせりふじゃ…ぼけぇ…」
「……」
「……」
がっくりうな垂れる二人、こんなところで息がぴったり合っていた。
お互い情けない表情をしていたが、奇しくも捕縛時の状況は同じであった事に気が付いていない。
大切な誰かを守る為の行動だった事。
……それが、現状を覆す一手だったという事に。
「しかしあれだな。 強力な人材から捕まえることが出来るたぁ、やるじゃねえかオイ?」
秋生が一旦集まった刑事メンバーに対して檄を飛ばす。
「この調子でいきたいところだが…逆にこの二人が捕まっているとなると、奪還に力を入れてくるんじゃねえか?」
「そうね、しばらくは男性陣で牢屋のフォローを強めていた方がいいと思うわ」
佳奈多も秋生の考えに追随する。
「…あんたはここにいなくてもいいのか?」
「意味がわからないわ」
「なんでもねえよ。 じゃあそうだな…直枝、井ノ原、宮沢、フォローで二木、西園、それに早苗。 しばらくここは任せた」
「あれ? おじさん、僕は?」
春原が聞き返すと、
「俺様と一緒に泥棒探しだ。 わふっ娘も女王猫っ娘も外回りすんぞ」
「やーっ! りょーかいですっ!」
「…女王猫っ娘ってもしかしてわたくしの事ですの…?」
この時の判断が吉と出るか凶と出るか。
全ては無事な泥棒メンバーの手腕にかかっていた。
……海岸沿いの脇道。
ここがゲーム開始前に決めていた泥棒チームの合流場所だった。
現在集まっていたのは朋也と芳野家、来ヶ谷とことみだ。
ことみの考えた『秘密アイテム』の説明をしていたのだが、
「みんな、無事?」
杏の切羽詰った声がその場に響く。
……空気が変わる。
杏の声がその原因の一つである事は間違いない。
ただそれよりも。
彼女の隣にいる人物の様子が、あまりにもその者のイメージと違っていたからだ。
杏の隣にいる人物は…小毬だった。
「杏、それに神北? どうしたんだよ…お前?」
朋也も小毬を気遣う。
体中に葉っぱをつけている上に服は泥だらけ。
今にも泣き出しそうな顔をしていた。
それでも小毬はしっかりとした口調で告げる。
「鈴ちゃんが、……捕まりました」
「「「!」」」
続けて杏が追い討ちをする。
「それに、その馬鹿兄貴もね……」
「「「!!」」」
動揺が走る。
棗兄妹の捕縛はあまりに悪いニュースだ。
「でもね、お宝の場所がわかったよ? それを伝えなくちゃって、鈴ちゃんが…鈴ちゃんが……」
「小毬君……いいんだ。 何があったのかは察しがつく。 …もう我慢しなくていいんだ」
来ヶ谷の顔を見る小毬。
そこには普段よりも慈愛に満ちた、包み込むような微笑があった。
「ゆい…ちゃん…?」
小毬の目から一粒の涙が零れる。
…もう、止まらない。
「…ゆいちゃん……ゆいちゃんっ!… ……ぅぁああああああああああああああっ!!」
「…頑張ったな、小毬君…」
ただ一言、そう言って来ヶ谷は小毬を胸に抱き寄せる。
「あああああああああああっ、鈴ちゃん、鈴ちゃぁぁぁぁんっ!」
「……私の小毬君を泣かせたな……」
胸の中で泣き崩れている顔を見て、来ヶ谷が本気になった。
「ことみ君、例の物の説明を」
「わかったの。 これを持ってくださいなの」
「これって…」
「売店に売っていたおもちゃのトランシーバーだ。 とはいえ十分な性能がある」
「これを使って連絡手段の没収、というペナルティを覆すの」
「そして棗兄妹奪還作戦及び、お宝奪取作戦を同時に行う」
全員の目が来ヶ谷に注がれる。
「3チームに分けた同時兼時間差混合波状攻撃だ」
「そりゃ確かに連絡手段がなけりゃ不可能な作戦だな…」
「朋也氏、協力を要請する」
「当たり前だ。 芳野さんもいいですよね?」
「愚問だな」
杏・風子・公子も力強く頷く。
「葉留佳君も欲しかったところだが…仕方がない。 では説明を開始する」
ことみ発案・来ヶ谷監修の反撃作戦の説明が開始された。
「……概要は理解したな? 根本的な事で何か質問は?」
誰からも質問は出てこない。
「これはかなり無茶な考えだ。 実際には各員、現場の判断にて行動してくれ。 根本の目的を理解してくれればいい」
不思議な一体感が泥棒チームを包み込む。
ただの遊び。
されど遊び。
このメンバーが集まって行う遊びだ。
そしてもう一つ。
常に周りを気遣っていた笑顔。
ひまわりのようなその笑顔。
その笑顔をもう一度、と願った者がこの場に何人いたのか。
「……『胸には強さを、気高き強さを、頬には涙を、一滴の涙を』……」
芳野が呟く。
「お前達に贈る言葉だ」
「「「「……」」」」
いつもなら『相変わらずだな…』と思われて終わる芳野の台詞。
今ならそれすらも力に変わる。
「朋也氏、号令を」
来ヶ谷の目が朋也を見据える。
「…よし……」
朋也は声高らかに叫んだ。
「作戦名、『胸には強さを、気高き強さを、頬には涙を、一滴の涙を』………ミッション・スタートだっ!!」