「はぁ?」

「にゃ?」

 

 牢屋スペースで再会した棗兄妹。

 その第一声はなんとも間の抜けた声だった。

 

「鈴、お前…なに捕まってんだよ?」

「それはこっちのせりふじゃ…ぼけぇ…」

 

「……」 

「……」

 

 がっくりうな垂れる二人、こんなところで息がぴったり合っていた。

 お互い情けない表情をしていたが、奇しくも捕縛時の状況は同じであった事に気が付いていない。

 大切な誰かを守る為の行動だった事。

 ……それが、現状を覆す一手だったという事に。

CLANALI2  第二十六話

「しかしあれだな。 強力な人材から捕まえることが出来るたぁ、やるじゃねえかオイ?」

 秋生が一旦集まった刑事メンバーに対して檄を飛ばす。

「この調子でいきたいところだが…逆にこの二人が捕まっているとなると、奪還に力を入れてくるんじゃねえか?」

「そうね、しばらくは男性陣で牢屋のフォローを強めていた方がいいと思うわ」

 佳奈多も秋生の考えに追随する。

「…あんたはここにいなくてもいいのか?」

「意味がわからないわ」

「なんでもねえよ。 じゃあそうだな…直枝、井ノ原、宮沢、フォローで二木、西園、それに早苗。 しばらくここは任せた」

「あれ? おじさん、僕は?」

 春原が聞き返すと、

「俺様と一緒に泥棒探しだ。 わふっ娘も女王猫っ娘も外回りすんぞ」

「やーっ! りょーかいですっ!」

「…女王猫っ娘ってもしかしてわたくしの事ですの…?」

 この時の判断が吉と出るか凶と出るか。

 全ては無事な泥棒メンバーの手腕にかかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ……海岸沿いの脇道。

 ここがゲーム開始前に決めていた泥棒チームの合流場所だった。

 現在集まっていたのは朋也と芳野家、来ヶ谷とことみだ。

 ことみの考えた『秘密アイテム』の説明をしていたのだが、

「みんな、無事?」

 杏の切羽詰った声がその場に響く。

 ……空気が変わる。

 杏の声がその原因の一つである事は間違いない。

 ただそれよりも。

 彼女の隣にいる人物の様子が、あまりにもその者のイメージと違っていたからだ。

 杏の隣にいる人物は…小毬だった。

「杏、それに神北? どうしたんだよ…お前?」

 朋也も小毬を気遣う。

 体中に葉っぱをつけている上に服は泥だらけ。

 今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 それでも小毬はしっかりとした口調で告げる。

「鈴ちゃんが、……捕まりました」

「「「!」」」

 続けて杏が追い討ちをする。

「それに、その馬鹿兄貴もね……」

「「「!!」」」

 動揺が走る。

 棗兄妹の捕縛はあまりに悪いニュースだ。

「でもね、お宝の場所がわかったよ? それを伝えなくちゃって、鈴ちゃんが…鈴ちゃんが……」

「小毬君……いいんだ。 何があったのかは察しがつく。 …もう我慢しなくていいんだ」

 来ヶ谷の顔を見る小毬。

 そこには普段よりも慈愛に満ちた、包み込むような微笑があった。

「ゆい…ちゃん…?」

 小毬の目から一粒の涙が零れる。

 …もう、止まらない。

「…ゆいちゃん……ゆいちゃんっ!… ……ぅぁああああああああああああああっ!!」

「…頑張ったな、小毬君…」

 ただ一言、そう言って来ヶ谷は小毬を胸に抱き寄せる。

「あああああああああああっ、鈴ちゃん、鈴ちゃぁぁぁぁんっ!」

 

 

 

 

 

 

「……私の小毬君を泣かせたな……」

 胸の中で泣き崩れている顔を見て、来ヶ谷が本気になった。

「ことみ君、例の物の説明を」

「わかったの。 これを持ってくださいなの」

「これって…」

「売店に売っていたおもちゃのトランシーバーだ。 とはいえ十分な性能がある」

「これを使って連絡手段の没収、というペナルティを覆すの」

「そして棗兄妹奪還作戦及び、お宝奪取作戦を同時に行う」

 全員の目が来ヶ谷に注がれる。

「3チームに分けた同時兼時間差混合波状攻撃だ」

「そりゃ確かに連絡手段がなけりゃ不可能な作戦だな…」

「朋也氏、協力を要請する」

「当たり前だ。 芳野さんもいいですよね?」

「愚問だな」

 杏・風子・公子も力強く頷く。

「葉留佳君も欲しかったところだが…仕方がない。 では説明を開始する」

 ことみ発案・来ヶ谷監修の反撃作戦の説明が開始された。

 

 

 

「……概要は理解したな? 根本的な事で何か質問は?」

 誰からも質問は出てこない。

「これはかなり無茶な考えだ。 実際には各員、現場の判断にて行動してくれ。 根本の目的を理解してくれればいい」

 不思議な一体感が泥棒チームを包み込む。

 ただの遊び。

 されど遊び。

 このメンバーが集まって行う遊びだ。

 

 

 そしてもう一つ。

 常に周りを気遣っていた笑顔。

 ひまわりのようなその笑顔。

 その笑顔をもう一度、と願った者がこの場に何人いたのか。

 

「……『胸には強さを、気高き強さを、頬には涙を、一滴の涙を』……」

 芳野が呟く。

「お前達に贈る言葉だ」

「「「「……」」」」

 いつもなら『相変わらずだな…』と思われて終わる芳野の台詞。

 今ならそれすらも力に変わる。

 

「朋也氏、号令を」

 来ヶ谷の目が朋也を見据える。

 

「…よし……」

 朋也は声高らかに叫んだ。

 

 

「作戦名、『胸には強さを、気高き強さを、頬には涙を、一滴の涙を』………ミッション・スタートだっ!!」

ページのトップへ戻る