「まだ追ってきてますっ! 風子、さすがにこれは怖いですっ!」

「なんなんだ!? あの無駄に息のあった連携はっ! しかも本当に無駄だっ!」

「祐くん、あまり話していると舌をかんじゃいますよっ?」

 芳野家一同が半分パニックになりながらも走っていた。

 風子を庇うようにして、両サイドを芳野と公子がフォローをしている。

 そんな一家団結逃避行の原因はというと、奇声を上げながら追いかけてくる二人組みだった。 

 

「キッンッ!」「ニックッ!」「キッンッ!」「ニックッ!」「キッンッ!」「ニックッ!」

  

「最悪ですっ! 例えようが無いほどに最悪ですっ!」 

「怖いぞお前らっ! いやマジでっ!」

「ふぅちゃん? あまり酷いこと言ったら駄目だよ?」

 

「キッンッ!」「ニックッ!」「キッンッ!」「ニックッ!」「キッンッ!」「ニックッ!」

 

 筋肉馬鹿と剣道馬鹿の二人が、何故か二人三脚で追いすがって来ていた。

CLANALI2  第二十四話

「キッンッ!」「ニックッ!」「キッンッ!」「ニックッ!」「キッンッ!」「ニックッ!」

 恐怖が近くまで迫ってきた。

 

 どうしようかと思った瞬間、芳野達の視界に建物が映る。

「!! 二人ともっ、こっちだっ!」

 芳野が公子と風子に声をかけ、裏口と思われる扉から建物内部へと強引に入り込む。

 

   バタンッ!

 

 すぐさま扉を閉めて、息を潜ませる。

「「「……」」」

「キッンッ!」「ニックッ!」「キッンッ!」…「ニックッ!」……「キッン…」………「ニック…」………「キッ…」……

 

 段々と馬鹿達の声が遠ざかっていく…

 

「「「……」」」

 誰もが無言のまま、ゆっくりと時間が流れる。

 五分ほど過ぎた頃だろうか。

「風子たち、助かったんでしょうか?」

 ようやく緊張の糸が切れた。

「うん、そうみたいだよ?」

「ああ、今のは危なかったな…」

 風子の言葉を皮切りに、公子も芳野も安堵の溜息を漏らす。

「それにしても…」

 今さっきの恐怖を思い出す。

「あいつらはなんで二人三脚で追いかけてきたんだ? 足までしっかりと結んで…」

 おまけにものすごい速度で走っていた。

「…風子、今の光景、夢に出てきそうで怖いです」

 軽くトラウマだ。

 

「ところで祐くん、ここって入ってもいいのかな?」

「とっさに入ったからな…なんだ? ここは?」

 大小様々なパイプが連なっている通路だった。

「どう見ても、関係者以外立ち入り禁止っぽい場所だな」

「おねぇちゃん、こっちのドア開きますっ」

「ふぅちゃん? 勝手に開けたら…」

 

   ぎぃぃぃぃぃぃ

 

「もう遅いです。 開けてしまいました…って、え?」

 開いたドアの前には……

 

 

 

 

 

 

 

 

「心底馬鹿でしょ? 貴方達は?」

「「申し訳ありません」」

 

「今の役目は何? 言ってみなさい」

「「刑事役です」」

 

「目的は?」

「「泥棒を捕まえる事です」」

 

「それなのに二人三脚?」

「「出来心でした」」

 

「ホントに馬鹿ね」

「「申し訳ありません」」

 

 芳野家の三人を見失った後、自分自身も見失っていた馬鹿二人は佳奈多の説教を受けていた。

 馬鹿二人の行動に対し、佳奈多は冷静にキレている。

 

「でもよう」

 真人の反論。

「こんな時に紐を見つけたらとりあえず足結ぶだろ?」

「結びません」

「…はい」

 速攻で撃沈。

 

「しかし」

 続いて謙吾の反論。

「二人三脚は楽しかったぞっ!」

「今、貴方達のすべき事は?」

「…むぅ」

 もちろん撃沈。

 

 たまたま見つけた程よい長さの紐。

 佳奈多はそれを使って泥棒を捕まえようと思ったのだが、真人と謙吾が手にした瞬間にその考えは御破算となった。

 いつの間にかスイッチの入っていた二人によって、結果はこの通り。

 泥棒を無駄に怯えさせて終了した。

 

「まったく、まだ何も成果が上がっていないじゃないの」

「そこで一つ情報だ」

「?」

 謙吾が急にシリアスな顔をして、佳奈多に語りかける。

「恭介の奴だが、最近は藤林姉と一緒に行動することが多い。 あいつの事だ。 見つかりにくいコースを考えているだろう」

「……」

「いくらそんなコースを考えたところで二人で動けばなんらかの痕跡が残るだろう。 そこで……、? 二木…?」

 佳奈多にとっての優先順位が変わる。

「棗恭介と…さっきの女? 藤林杏…だったわね…」

「あ、ああ。 そうだが…」

 謙吾でさえ気後れする佳奈多の気配。

「…クドリャフカと、そうね…古河さんの父親、それに直枝理樹も呼び出しなさい」

「え? なんだよ急に?」

 真人の素朴な疑問に対しても目で一喝。

「呼び出しなさい。 ……どんな手を使っても、あの二人を捕まえるわよ」

「「……」」

「返事はっ!?」

「「あ、あいあいさーっ!」」

 …なんとも妙な力関係がここに生まれた。

 

 

 

「なんなのよ……。 このいらつきは……っ」

 そんな佳奈多の心情について答えられる者。

 それは彼女自身でしかないことにまだ気が付いてはいなかった。

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