「結局逃げられちゃったね」

「っていうか三枝だっけ? あの子? 逃げ方が上手すぎるよね? なんなのさ一体」

「あ~、葉留佳さんはね…」

「?」

「毎日風紀委員の人達から逃げ回っていたから」

 

 理樹、春原、クド、佐々美の四人がかりで追いかけていたのにも関わらず、葉留佳は上手く逃げきっていた。

 こんなところで毎日の積み重ねが成果を発揮するとは、人生とは全く良くわからないものだ。

 理樹は春原に葉留佳の毎日を説明しながら、一旦牢屋エリアへと戻ってきた。

 

「ただいまーって、えっ!? どうしたの?」 

「理樹か…どうもしない、見ての通りだ」

「……鈴」

 

 牢屋で佇んでいるのは囚われた子猫、棗鈴だった。

CLANALI2  第二十三話

「古河と宝を隠した直後にその場を見られてな。 危うく宝の情報が泥棒チームに伝わってしまうところだった」

 鈴を捕まえてきた智代が状況を説明する。

「へぇ~、そりゃ危なかったね。 智代ちゃんナイスだよっ!」

「……春原に褒められると、なにか良くない事が起こりそうな気がするのは何故だろうか?」

 きっとそれは、今までの経験から来るものなのであろう。

「なんにせよ」

 西園が鈴を見ながら申し訳なさそうに話す。

「鈴さんには申し訳ありませんが、お宝の情報を持ってしまっている以上は逃がすわけにはいかないですね」

「気にするなみお」

「鈴さん?」

「直ぐに仲間が迎えに来るからな」

 鈴ははっきりと宣言した。

「それはどうかな?」

 春原がにやりと笑う。

「誰が来ても簡単には逃げられないと思うよっ」

「なんでだ?」

「決まってるじゃん。 僕が、君を、逃がさないっ!」

 何故か一言ずつ区切ってポーズを決める春原。

「……実を言うと、あたしを捕まえているとお前達が危ない」

「へ? なんで僕達が…」

「あたしを捕らえていると、数え切れない数のヒットマンがやってくる」

「マジかよっ! 殺し屋って、そりゃないよっ!」

「もうあたしの意思では止められない」

「聞いてないって! 直枝、どうすりゃいいんだよっ?」

「あ、あはは…」

「理樹のその笑いがすべてをものがたっているんだ」

「そんなぁぁぁぁぁっ! 早くこの子逃がしちゃおうよっ!」

「落ち着け」

「ぶほぉっ!」

 右往左往しながら喚きたてる春原を大人しくさせたのは、腕組みをした秋生のヤクザキックだった。

「えーと鈴? その沢山のヒットマンって…」

「理樹も知ってるだろう? あいつらの事を」

「うん…」

「直枝、どういう事だ?」

 理樹は智代に振り返って答えた。

「…学校で鈴に何かあった時、何故か一致団結して助けに来てたんだよ」

「誰が?」

「……沢山の…猫達が…」

「? すまない、よくわからないのだが?」

 智代にとってはまさに未知の領域だった。

 

 と言っても、電車に乗ってここまで助けには来ないだろうが。

 来たら来たで、最早その猫達については猫として認識しない方が良い。

 それは既に別の生き物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

「わふ?」

 

 まったくの偶然だった。

 建物の角を曲がる際に危険防止の為、角からそっと顔を出した恭介。

 同じく索敵の為に建物の角から恐る恐る顔を覗かせたクド。

 同じ場所、同じ時間、同じ速度で同じ行動をとった二人は、目の前3センチに現れた顔を見て固まる。

 

「……」

「……」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「わふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

 同時に後方へ飛び跳ねる。

「どうしたの恭介っ!」

「能美さんっ?」

 後方で待機していた杏と佐々美が奇怪な行動をとったパートナーに驚く。

 だがお互いの声が聞こえた瞬間、すぐさま状況を理解した。

「恭介! こっち!」

「やっぱりここでしたのねっ!」

 茂みの中へと駆け出す恭介達と、行動を読んでいたかのような言葉を発しながら追いすがる佐々美。

「わ、わふぅ~~~~~~。 びっくりしたのです~~~~」

 尻餅をついてわふわふ言っているクドは現在戦力外だった。

 

 

 

 

「撒いたのか?」

「多分ね」

 追いかけてきたのが佐々美一人だった事が幸いし、そう時間をかけずに逃げ切ることが出来た。

「しかし驚いたぞ今のは」

「それはこっちの台詞よ…何? 鉢合わせしたの?」

「ああ。 顔を覗かせた瞬間、能美の顔が目の前にあった」

「あのちっちゃい子ね」

「一瞬、訳分かんなかったけどな」

「あほね…」

「そう言うなって。 あまりに近すぎて視界いっぱいに誰かの顔があったんだぞ?」

「それでもよ。 ……ってそんなに近かったの?」

「? ああ、あいつの吐息が鼻にかかって、ようやく事態を理解し……杏? …なんか…怖いぞ…?」

「ふ~~~~ん。 と・い・き、ねぇ~~?」

「…杏…?」

「きっと恭介の、と・い・き、もあの子にかかったんでしょうね~~?」

「そりゃあの状態なら……」

「くっついた?」

「は?」

「くっついたんだ?」

「…何が…って、いやいやそりゃないって!」

 ようやく杏の言いたい事が分かりかけてきたが、時既に遅し。

「焦ってるわね…?」

「よし、落ち着こうじゃないか。 勘違いは早めに直しておかないと…」

「あはっ♪ 勘違い? ……じっくり聞かせてもらおうかしら……?」

 

 

 

 

 恭介は後に、この時の事をこう語った。

 『人の目って、本当に殺気で光るものなんだな…』

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