「にしてもよ?」

 ゲーム開始から30分ほど経過した牢屋エリア前。

「開始前にお前が決めたあの作戦。 効果あんのか?」

「どうでしょうか? ただ、とても簡単で手間は無いですし、見事に決まったら十分効果的かと」

「相手がひっかかったら儲けモンって事か」

 

 今現在、牢屋エリアにいるのは秋生と西園の二人だけ。

 まだ誰も捕縛していないので、実のところ誰一人いなくても問題は無いのだが…

 

「で、『予想通り』って言えばいいんだっけか?」

「はい。 泥棒を見かける度、可能な限り大きな声でおっしゃってください」 

「目的が果たせれば別の言葉でもいいんだろ?」

「そうですね。 出来れば別な言い方を組み合わせた方が悟られにくいかと思います」

 

 …西園発案の追い込み作戦。

 効果が現れるのは、ゲームが中盤に進んでからだった。

CLANALI2  第二十二話

「こまりちゃん、どうしよう」

「うん、どうしよう鈴ちゃん…」

 

「予想外だ」

「うん、とっても予想外だよ…」

 

「行くべきなのか? それともみんなを探して教えた方がいいのか?」

「わからないよ~…」

 

 茂みに隠れていた鈴と小毬は、何の偶然か…または悪魔のいたずらか…渚と智代の姿を見つけてしまった。

 風向きからか、その二人の話し声まで聞こえてくる。

 断片的ではあったが聞こえてきた単語というのが、

 

 『盗まれないように』

 

 『お宝』

 

 『この木の上』

 

 『坂上さん、ありがとうございます』

 

 『だんごのぬいぐるみ』

 

 『かわいいですっ』

 

 『ところで…』

 

 『え?もう一度お願いします…』

 

 『もうあいつと…』

 

 『朋也くんと…?』

 

 『恋人なのだから…』

 

 『~~~っ!』

 

 『したのか?』

 

 『そんな事まだしてないですっ! …あぁっ、正直に話してしまいました…』

 

 

 

 

 図らずとも渚と智代の密談を聞いてしまった二人は、どう行動すればいいか悩んでしまう。

「えらいことを聞いてしまった」

「うん」

「警察チームのお宝は」

「お宝は」

「岡崎朋也だ」

「あの木の上に……ってえええ~~っ!? 違うよりんちゃんっ!」

「なにっ! そうなのかっ!?」

「そもそも岡崎くんは泥棒チームだよ~っ」

「なら何故あいつの名前が出てきたんだ?」

「そ…それは……」

 聞こえてきた単語からなんとなく理解しているものの、小毬はその事をどうやって鈴に伝えるべきかわからない。

「え、え~とね…それは、渚ちゃんと岡崎くんが…」

「あの二人が?」

「もう、……しちゃって…るか…どうか…」

「? こまりちゃん、よくわからないぞ?」

 鈴は純粋に聞きたがっているだけなのだが、小毬にとってはある意味拷問だった。

「だ…だから…」

「だから?」

「………(ごにょごにょ)………」

「……! なんだとっ!! あいつらそんな事をっ!!」

 小毬の説明は鈴にとって、あまりに衝撃的な内容だったようだ。

「誰だっ!?」

「「っ!!」」

 その瞬間、鈴の上げた大声に智代が反応する。

「その声、棗鈴かっ!」

 そう言いながらも既に智代は、声が聞こえて来た方向へと走り出す。

「! まずいぞこまりちゃんっ! 逃げようっ!」

「う、うんっ!」

 その場から離れようとする二人だったが、小毬はせり出した木の根に足をかけてしまった。

「わわっ!」

「こまりちゃんっ!」

 鈴は転んでしまった小毬を素早く助け起こすが、その背後には智代が迫っている。

「……こまりちゃん」

「りんちゃん?」

「お宝の事をあの馬鹿兄貴達に伝えて欲しい」

「りんちゃん!?」

「きっとこまりちゃんがいた事には気がついていない筈なんだ。 …だから、それしかないんだ」

「りんちゃんっ!」

「こまりちゃんの事、頼らせてもらうからな」

「!? ……ぜったい、ぜったい伝えるからね、伝えるからねっ!」

 普段の小毬なら、鈴の身を張った提案は断るはずだった。

 しかし今の鈴からは、溢れるほどの信頼を感じられた。

 だからこそ小毬も決断する。

 小毬は、深い茂みの中にその身を潜めていった……

「うん…これでいいんだ。 ……坂上智代っ! 勝負だっ!」

 小毬が隠れきった事を確認して、鈴はあえて智代の注意を自分に向けさせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちら坂上だ、聞こえるか?」

 智代が携帯で誰かに話しかけている。

 

 

「ああ。 そうだ、手強かったんだぞ、本当に…」

 軽く息を吐いて話し続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たった今、棗鈴を確保した」

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