「最終確認だ。 制限時間は午後3時まで。 牢屋はそこの展望ハウス横の芝生、線で区切った中だ」

 秋生が最後の確認を始めた。

 既に泥棒役の携帯電話は回収済みであり、早苗さん特製おにぎりも各々携帯している。

 現在時刻は午前9時50分。

 

「今から泥棒共は逃げな。 10時ジャストからゲーム開始だ。」

 泥棒役・刑事役、全員が頷く。

「お宝はこの後、刑事の一人にとある場所まで持って行かせる。 物はてめぇら自身で確認しやがれ」

 

 

「よし! とっとと散れ! 全員ひっとらえて丸裸にしてやんぜ!」

CLANALI2  第二十話

 秋生の号令とともに駆け出していく泥棒達。

 ある者は一人で、またある者は複数固まって。

 

「秋生さん」

 早苗さんが秋生に近づき声をかける。

「思ったとおりのチーム分けは出来たんですか?」

「まあまあってとこだな。 とりあえずは棗と直枝を引き離せたのと…」

 秋生は佳奈多に目を向ける。

「あいつを棗と競い合わせるって事が最初の目的だからな」

「彼女…二木さん、ですね」

「ああ、お前も気が付いただろう? あの娘っ子は無理してやがる。 何を我慢してるんだかは知らんがな」

 

 秋生はこの企画を行う上で、ちょっとした事を考えていた。

 もちろん第一には楽しむこと。

 自分や家族はもとより、参加させるメンバーの笑顔を引き出したかった。

 そして恭介と理樹。

 あの二人はいつでも協力し合っていた。

 野球の時も、そして聞いた限りでは今までもずっと。

 いつかそれぞれの道を歩くだろう。

 恭介は自分の道を見つけようとしている。

 しかし理樹は…

 強く在ろうとしているのだろう、強くなっているのであろう。

 だが、秋生の目に映る理樹の姿は…──恭介になろうとしている──…男にしか見えなかった。

 憧れるのもわかる。

 大切な親友であることも知っている。

 それでも…理樹は理樹だ。

 恭介を手本とするのは構わない。

 その先を見る事が、『自分自身』の成長した姿を求める事が出来るのなら。

 以前野球が終わった後、秋生が理樹に言おうとして口を閉ざした答えがそれだった。

 

「まったく……俺様ってこんなにもお節介オヤジだったっけか…?」

「秋生さん…?」

「なんでもねぇ。 おーい二木! おまえにゃ期待してんぞ!」

 秋生は佳奈多に向かって叫ぶ。

「そんな大声出さなくても聞こえます」

 秋生は佳奈多の元へ歩いていき、そんな他愛もない言い合いを始めていた。

 

 

「……ずっと前からですよ、秋生さん」

 早苗さんは誰に聞かせるわけでもなく、そう秋生の背中に呟いた。

 

 

 

 

「渚さん、お宝を隠すのは任せますね」

「はい、それでは行ってきますね直枝さん」

 渚はお宝を隠す為、別行動をとることになっている。

 その手にあるのは…だんご大家族のぬいぐるみ。

 渚にとっては本当にお宝だ。

 隠し場所は渚に一任される事となった。

 更には守衛として智代も配備。

 ある意味このお宝を掠め取るには、死を賭して望まなければならないだろう。

 

 

 

 

「30秒前です」

 西園がカウントを始めた。

 

「二木さん。 二人の事、頼んだよ」

「仕方ないわね…」

「理樹、何かあったら携帯に連絡するのを忘れるんじゃないぞ?」

「うん、謙吾に真人も気をつけて」

「応よっ! 俺と謙吾と二木。 三人分の筋肉で、一人ずつ挟んできてやるぜ!」

「絶対に嫌」

 佳奈多は謙吾と真人を連れて、遊撃部隊担当になるようだ。

 

「笹瀬川さんっ頑張りましょうーっ!」

「役割は覚えていますわね? 能美さん」

「わふーっ! 最前線なのですーっ!」

 笹瀬川とクドはその身体能力を活かして、常に泥棒を追い続ける追跡役だ。

「疲れてきたらその時その時で休んでね? 二人とも」

「あら、お気遣い感謝ですわ」

「リキー! 期待していてくださいねーっ!」

 

「へへっ! 早く誰か牢屋に来ないかな? 僕、監視しちゃうよ?」

「とりあえずお前の出番はずっと後だがな」

「少しはテンション上げてくれたっていいじゃないっすか!?」

 春原は早苗さんと共に牢屋の監視役だった。

「春原さん、牢屋に人が入るまで僕と見回りに行かない?」

「おっ? 直枝、お前っていい奴だよな~。 どっかのおじさんとは違うよねっ!」

「ああ~ん? 誰が心の狭いガキンチョみたいなオヤジだって?」

「ひぃぃっ! なんでもないっすー!」

「ま、そんなに褒めるなよなっ!」

「今の会話おかしいよね…」

 理樹の悩みはこのチームのつっこみを一人でやり遂げることが出来るかどうかだった。

 

 

 

 

「3・2・1…」

 

 

 10時ジャスト。

 

「ミッション・スタートッ!」

 理樹の掛け声がスタートとの合図となり……高く、秋空へと響き渡った。

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