「最終確認だ。 制限時間は午後3時まで。 牢屋はそこの展望ハウス横の芝生、線で区切った中だ」
秋生が最後の確認を始めた。
既に泥棒役の携帯電話は回収済みであり、早苗さん特製おにぎりも各々携帯している。
現在時刻は午前9時50分。
「今から泥棒共は逃げな。 10時ジャストからゲーム開始だ。」
泥棒役・刑事役、全員が頷く。
「お宝はこの後、刑事の一人にとある場所まで持って行かせる。 物はてめぇら自身で確認しやがれ」
「よし! とっとと散れ! 全員ひっとらえて丸裸にしてやんぜ!」
秋生の号令とともに駆け出していく泥棒達。
ある者は一人で、またある者は複数固まって。
「秋生さん」
早苗さんが秋生に近づき声をかける。
「思ったとおりのチーム分けは出来たんですか?」
「まあまあってとこだな。 とりあえずは棗と直枝を引き離せたのと…」
秋生は佳奈多に目を向ける。
「あいつを棗と競い合わせるって事が最初の目的だからな」
「彼女…二木さん、ですね」
「ああ、お前も気が付いただろう? あの娘っ子は無理してやがる。 何を我慢してるんだかは知らんがな」
秋生はこの企画を行う上で、ちょっとした事を考えていた。
もちろん第一には楽しむこと。
自分や家族はもとより、参加させるメンバーの笑顔を引き出したかった。
そして恭介と理樹。
あの二人はいつでも協力し合っていた。
野球の時も、そして聞いた限りでは今までもずっと。
いつかそれぞれの道を歩くだろう。
恭介は自分の道を見つけようとしている。
しかし理樹は…
強く在ろうとしているのだろう、強くなっているのであろう。
だが、秋生の目に映る理樹の姿は…──恭介になろうとしている──…男にしか見えなかった。
憧れるのもわかる。
大切な親友であることも知っている。
それでも…理樹は理樹だ。
恭介を手本とするのは構わない。
その先を見る事が、『自分自身』の成長した姿を求める事が出来るのなら。
以前野球が終わった後、秋生が理樹に言おうとして口を閉ざした答えがそれだった。
「まったく……俺様ってこんなにもお節介オヤジだったっけか…?」
「秋生さん…?」
「なんでもねぇ。 おーい二木! おまえにゃ期待してんぞ!」
秋生は佳奈多に向かって叫ぶ。
「そんな大声出さなくても聞こえます」
秋生は佳奈多の元へ歩いていき、そんな他愛もない言い合いを始めていた。
「……ずっと前からですよ、秋生さん」
早苗さんは誰に聞かせるわけでもなく、そう秋生の背中に呟いた。
「渚さん、お宝を隠すのは任せますね」
「はい、それでは行ってきますね直枝さん」
渚はお宝を隠す為、別行動をとることになっている。
その手にあるのは…だんご大家族のぬいぐるみ。
渚にとっては本当にお宝だ。
隠し場所は渚に一任される事となった。
更には守衛として智代も配備。
ある意味このお宝を掠め取るには、死を賭して望まなければならないだろう。
「30秒前です」
西園がカウントを始めた。
「二木さん。 二人の事、頼んだよ」
「仕方ないわね…」
「理樹、何かあったら携帯に連絡するのを忘れるんじゃないぞ?」
「うん、謙吾に真人も気をつけて」
「応よっ! 俺と謙吾と二木。 三人分の筋肉で、一人ずつ挟んできてやるぜ!」
「絶対に嫌」
佳奈多は謙吾と真人を連れて、遊撃部隊担当になるようだ。
「笹瀬川さんっ頑張りましょうーっ!」
「役割は覚えていますわね? 能美さん」
「わふーっ! 最前線なのですーっ!」
笹瀬川とクドはその身体能力を活かして、常に泥棒を追い続ける追跡役だ。
「疲れてきたらその時その時で休んでね? 二人とも」
「あら、お気遣い感謝ですわ」
「リキー! 期待していてくださいねーっ!」
「へへっ! 早く誰か牢屋に来ないかな? 僕、監視しちゃうよ?」
「とりあえずお前の出番はずっと後だがな」
「少しはテンション上げてくれたっていいじゃないっすか!?」
春原は早苗さんと共に牢屋の監視役だった。
「春原さん、牢屋に人が入るまで僕と見回りに行かない?」
「おっ? 直枝、お前っていい奴だよな~。 どっかのおじさんとは違うよねっ!」
「ああ~ん? 誰が心の狭いガキンチョみたいなオヤジだって?」
「ひぃぃっ! なんでもないっすー!」
「ま、そんなに褒めるなよなっ!」
「今の会話おかしいよね…」
理樹の悩みはこのチームのつっこみを一人でやり遂げることが出来るかどうかだった。
「3・2・1…」
10時ジャスト。
「ミッション・スタートッ!」
理樹の掛け声がスタートとの合図となり……高く、秋空へと響き渡った。