「あんがとよ、こりゃまた難儀な娘っ子なわけだ」

「それがお姉ちゃんナンデスヨッ」

 佳奈多についての大体の性格や過ごしている毎日を聞いた秋生は一つ肯いて、

 

「前ら! もういーかーっ! そろそろ始めるぞっ!」

 

 全員に向かって集合をかける。

 

 

「それで? 本日のイベント予定はいったい何なのだね古河氏?」 

 来ヶ谷が秋生に対し全員の代表として疑問をぶつけた。

 それを聞いた秋生はふふんっといたずらっぽい表情を返し、声高らかに宣言する。

 

「この青い空の下、元気にはっちゃける大人数の遊びといえば……そう! ケイドロしかねえだろっ!」

「「「「おーーーー」」」」

「「「「けいどろ?」」」」

 感嘆の声と疑問の声。

 二種類の声が日曜日の空に響いた。

CLANALI2  第十八話

「なんだよなんだよ? 知らない奴がいるとは思わなかったぜ」

 秋生は大げさにかぶりを振る。

 そしてことみを呼び、自分の前に立たせる。

「???」

「ほら、一家に一台一ノ瀬さんちのことみさん。 ケイドロ説明頼むわ」

「……わかったの」

 二秒ほど脳内検索に時間を使った後、流暢に解説を始めた。

 

「ケイドロは鬼ごっこの一種なの。呼び方はドロケイ、ドロジュン等たくさんあるの。

  泥棒役が逃げて、捕まえる役…刑事が追いかける、グループ遊びなのが一般的なの」

 

「んーとぉ、普通の鬼ごっことは違うの?」

 小毬が質問する。

 しっかり手を挙げているのがなんとも彼女らしい。

 

「一番の違いは泥棒は捕まった後、牢屋、または牢屋と定めた場所に連れて行かれることなの。

  捕まった泥棒は無事な泥棒がその敷地に入った場合、改めて逃げ出す事が出来るの」

 

「おぅ! この復活制度があるから燃えるんだよなっ!」

 真人が理樹の肩を叩きながら答える。

 

「制限時間いっぱいまで泥棒が全滅しなければ泥棒側の勝利、捕まえきれば刑事側の勝利なの」

 

「ここまでは理解したか?」

 秋生の問いに対し、質問は出なかった。

「一ノ瀬、ご苦労さん。 また頼むわ」

「どういたしましてなの」

 ことみも満足気だった。

 

「…あの子、よくもまぁこんな雑学を淀み無く語れるわね…」

「すごいだろう二木君? とはいえ、ことみ君の雑学性能はこの程度では納まらないぞ」

「一家に一台…欲しいようないらないような」

「私は欲しい。 というか部屋に欲しい。 というかくれ」

「なるほど。 来ヶ谷さんのお気に入りなんですね…」

 

 

「でだ、この一般ルールだけじゃ時々だれる事があるからな。 俺様ルールを追加する!」

「追加ルール?」

「この遊びにはローカルルールがいっぱいいっぱいあるの」

 朋也が何気なく洩らした言葉にもしっかり答える高性能なことみだった。

 

「その一、泥棒側の携帯電話の使用を禁ずる!

  その二、牢屋とは別の場所に『お宝』を用意する!

  その三、泥棒が『お宝』に触れた場合、その瞬間泥棒側の勝利となる!」

 次々と追加ルールを言い放つ秋生。

「刑事にしてみりゃ牢屋は守らなけりゃなんねぇし、お宝も守らなきゃならねぇ。

  泥棒は勝利条件が増えるが連絡手段が無くなる。

  どうだ? どきどきわくわくが止まらねぇだろ? …くぅ~っ俺様すげぇ!」

 

 確かにそれなら『気が付いたらかくれんぼになっていた』というよくあるパターンを防げそうだ。

 各々不安気であったりにやにやしていたりと千差万別だったが、特に文句は出なかった。

 

 

「古河さん、基本的な事聞いてもいいですか?」

「棗か、なんだ?」

「行動の有効範囲は?」

「この公園全部」

 言い切った。

 迷い無く言い切った。

「まじかよ…?」

 春原が呆然とするが何も彼に限った事ではない。

 この臨海公園だが、広さは約80万平方メートル。

 東京○ームで換算すると17個分以上ある。

「…公園の設備その他の使用は…?」

 さすがに冷や汗をかきながら恭介がもう一度秋生に質問する。

「好きにしろ」

「「「……」」」

 この位置から見るだけでも、観覧車・展望ハウス・出島状の海岸線・林状の茂み等が確認できる。

 秋生はそれら全てを『使用可』としてしまった。

「遊ぶならとことん……なっ!」

 そう言い放った男の顔は、まるであどけない少年のようだった。

 

 

 

「気ぃ入れやがれよっ! 勝利チームにはご褒美があるからな!」

 そんな事は初耳だったが、

「っとその前に一番大切な事を決めちまわねぇとな」

「大切な事?」

 理樹のオウム返しに秋生はにかっと笑って、

「今回は野球じゃねぇからな、合同でチーム分けをするぞっ!」

 

 

 そして、一悶着も二悶着もあるチーム分けが始まった。

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