「そうだったんですか」
「やははー、意外でしょ? あー見えてもお姉ちゃんは今日を楽しみにしてたんだから!」
「少しびっくりです。 この前二木さんにお会いした時は、とても落ち着いた方だと思いましたので」
葉留佳と渚が佳奈多をネタに世間話をしている。
「ところがどっこい、なんかそわそわしちゃっててさ。 なんか様子おかしかったんだよね」
「おかしかった…ですか?」
「ソーナンデスヨ! 一昨日は鬼ごっこをしたんだけどね? 気が付いたら最後には参加してるの。
普段なら『校舎内でなにしてるのっ!』なーんて言うキャラなのにネー?」
「一緒に遊ばれたんですか?」
「うん! …なのに昨日はいつも以上にぷんすかしちゃっててさ。 恭介くんが一日かけて説得してたよ」
「何かあったのでしょうか?」
「んー、わかんないや」
珍しく遊びを楽しみにしていたという佳奈多。
それなのに昨日は突然気分を変えて、ツンツンと棘のある対応をしてきたのだという。
…おそらく、何かがあったのだろう。
他者の知らない所で、何かが…
「おー騒がし娘、ちょいと聞きたいんだが」
秋生が葉留佳と渚の会話に入ってきた。
「はいはーいこちら騒がしっ娘ですっ! なんなりとどうぞ! あ、スリーサイズは勘弁ねー」
「あほ、ケツの青い小娘にゃ興味ねぇよ」
「ヒドッ! はるちんのおしりは青くなんてなーーいっ! 名誉キソンだーっ!」
「青いくらい気にすんな。 渚の尻なんてな、青いどころかハート型のあざがあるんだぞ」
「ええっ!? 本当ですかお父さんっ!? …知らなかったです。 今夜確認してみます…」
衝撃の事実発覚に渚は本気で憔悴してしまっている。
「大丈夫だ渚。 お父さんが見てやるよ」
「お父さんには見せられないですっ! それなら朋也くんにお願いしますっ!」
「ジェーーラシィィィーーーーッ! 小僧っ! 小僧はどこだっ!」
あほあほ親娘漫才の隙をついて、葉留佳が渚の背後に忍び寄り…
「てりゃっ」
ぺろんっ
「わわっ! 三枝さんっ?」
葉留佳は渚のスカートをいとも簡単にめくってしまった。
さらに中を確認して一言。
「ありゃりゃ。 かわいいぱんつしか見えませんでしたヨ。 残念残念」
「さっ三枝さんっ! いけない事だと思いますっ!」
渚は真っ赤になりつつスカートを押さえ、葉留佳を叱りつける。
「? 渚ちんがかわいいぱんつはいている事?」
「ぱんつの事じゃないですっ! 女の子のスカートをめくるのは駄目ですっ!」
「えー? ほんとかどうか確認するには、めくらないと見えませんヨ?」
「こんなところでめくったりしたら駄目ですっ」
「んー、おうちの中ならOK?」
「そ、そういう事では…」
「あ、おうちの中で朋也くんにしてもらうならいいのかー」
「え……、そ、それなら…、~~~っ! き、聞かなかった事にしてくださいっ!」
「にひひ~渚ちん可愛いっ!」
そして一連の行動を見て、今まで固まっていた秋生が動き出す。
「こっこっこっこっこっこっこっこっこっこっこっこっこっこっこっこっ……」
どこからか雄鶏の鳴き声のようなものが聞こえてきた。
それはまるで、雄鶏同士のプライドをかけた神聖なる戦いの開始を告げる鳴き声のよう。
問題は、その声が秋生の口から流れ出てきている事だ。
葉留佳も渚も何事かと秋生を見る。
「小僧ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
今、戦いのゴングが鳴った。
「お父さんっ!?」
「おじさんっ!?」
土煙を上げ秋生は走りだす。
目標は……
「ったく何だったんだよオッサン」
「わりぃわりぃ。 ま、気にすんなよなっ」
一悶着あった後、秋生は朋也と肩を組んで渚達の元へ帰ってきた。
「お父さん、朋也くんと仲直りしたんですねっ」
「あたぼうよっ! 元々喧嘩なんてしてないよな、コスモっ?」
「走ってきたと思ったら、急になんか呟いて立ち止まったんだよ。 このオッサンは」
どうやら嫉妬戦争は回避されたらしい。
「あー、この娘っ子に聞きたい事があったのを思い出してな」
「え? 私?」
突然話を振られた葉留佳はきょとんとしたが、
「っと、その前に…渚」
「はい?」
「さっきの話は嘘ぴょんだ。 わりぃわりぃ」
「もういいです。 お父さんのいたずらはいつものことですから」
渚も慣れたものだった。
「何の事だ?」
話題についていけない朋也は答えを求めるが、
「んとね、渚ちんのおし…」
「な、なんでもないですっ」
「渚?」
葉留佳の発言をいっぱいいっぱいになりながらも何とか阻止。
そのまま話を元に戻すかのように、秋生が葉留佳に話しかける。
「さっきも言ったが、ちょいと聞きたいんだけどよ」
「んー、ナンデショ?」
「お前と二木ってもしかして親戚か何かか?」
「おひょっ、ど真ん中来たねっ。 うん、実は姉妹だったりするのですヨ」
「やっぱりか。 でだ、姉妹なお前にあの小娘の事聞きたいんだが……」
秋生は佳奈多の情報を、おそらく一番理解しているであろう人物から聞き出そうとしていた。