「あの~、渚ちゃんのおうちでお買い物をされていた方ですよね?」
小毬が公子達の元へと歩いてきた。
「はい。 少しだけお会いしましたよね? 芳野公子といいます。 今日はよろしくお願いしますねっ」
「は、はい。 神北小毬です。 …ほわ~、やっぱりとてもきれいな人だよりんちゃん」
「きれいだ」
傍にいた鈴も小毬の意見に同意する。
「そんな事ありませんよ。 でも、そう言って頂けて嬉しいですねっ」
公子は控えめな笑顔を返し、小毬と鈴に頭を下げた。
「あの時といい今日といい、妹と遊んで頂いてありがとうございます」
「いもうと…風子ちゃん?」
「ええ、そうです」
「風子ちゃんのお姉さんだったんだ~」
公子と風子の関係を理解する小毬だったが、
「? こまりちゃん、あいつはいぶきじゃなかったか?」
鈴が基本的な質問をしてきた。
「あ、そういえば……」
小毬も思い出した。
恭介は確かに『佳奈多の友達の伊吹風子が来る』と言っていた筈だ。
しかしその姉は『芳野公子』と名乗った。
「伊吹は私の旧姓です。 今はこちらの…」
「芳野祐介だ。 風子は俺にとって『義妹』になるな」
芳野が公子の言葉を続けた。
「わ~、美男美女だよりんちゃん」
「? ぎまい? どういうことだ?」
鈴はいまいち良くわかっていなかった。
「私は結婚して芳野になりました。 だから祐くんにとってあの子は義理の妹、ということになるんです」
「ん、よくわかった。 くちゃくちゃわかりやすかった」
「うん、まるで先生みたいだったよ~」
それもそのはずだ。
「この人は以前、先生をしていたからな」
「そうなんですか~」
「なるほどな」
芳野の説明に納得な二人。
「お二人はいつご結婚されたんですか?」
小毬は興味津々な感じに質問をぶつける。
「ほんの数ヶ月前ですよ」
「わあ~新婚さんだよ新婚さんっ」
「しんこんさんか」
小毬うきうき、鈴てきとう。
「二人は互いを支え合い、寄り添って生きていく事を決めた…。 大切なものを守りながら…」
「祐くん?」
突如、芳野が手を額に当てながら語り出した。
「様々な人達に祝福され、二人は誓いを立てた…。 信じる事を……幸せになる事を……」
「えと…芳野さん?」
「そして二人の、いや、人々の願いが叶った。 間違いなんかじゃなかったんだ。 その想いは」
そして言葉を締めくくる。
「その物語の源……、それが……愛だ……」
「そーだな。 あいだな」
間髪入れず鈴が答える、と言っても良くわからず言葉を繰り返しただけな感じもするが、
「よくわかってるじゃないか。 そうだ、愛だ」
くさい台詞をすぐさま認められて芳野はとても嬉しそうだった。
「愛…人と人とが繋がる運命の絆。 君にもそれがあるか…? 愛する心…そう、愛心がっ!」
「こまりちゃん、こいつ馬鹿だ!」
「りんちゃんっ! 年上の人をこいつなんて呼んじゃ駄目だよっ」
「そうか……こまりちゃん、このお方馬鹿だっ!」
「馬鹿も駄目だよ~」
「んー……このお方、脳が天気だっ!」
「うん! それならおっけ~だよっ」
「…………」
芳野はそのポーズのまま固まっていた……
「久しぶりだな宮沢」
「ああ、坂上も元気そうだな」
「今日も正々堂々と手合わせ願おう」
「こちらこそ楽しませてもらおう。 坂上、よろしく頼む」
「……井ノ原さん、あれはどういうことですか…?」
「なんだよ笹瀬川? ん? 謙吾と坂上じゃねえか」
謙吾と智代が挨拶を交わす場面を見た佐々美は、真人を捕まえて二人の事を問いただした。
「…宮沢さんがあんなに自然な表情で女性の方と…彼女は何者ですの!?」
「んー、謙吾はいつもあんな感じじゃねーか?」
「貴方の意見なんて誰も聞いていませんわっ!」
「なんだよそりゃっ!」
「…彼女は敵ですわね…。 そう、このわたくしに対する挑戦ですわね…」
「……」
「何か言いなさいっ! この筋肉!」
「なんだよそりゃっ! どっちだよ!」
とかなんとか言いながらも、真人は佐々美の相手をしている。
良く言えば、面倒見の良い男。
正直言えば、ただただ自然体なだけ。
「だからなんで貴方なんかと二人っきりで話し合っているんですかわたくしはっ!」
「お前が呼び止めたんだろうがっ! 納得いかねぇぇぇぇぇぇっ!」
そして誰からもいじられる……愛すべき男。
真人と芳野。
もしかしたらこの二人、ある意味で気が合うのではないのだろうか?
…ベクトルはまったく違うのだが…