「杏、妹は?」
「あー、椋は今回パスで。 なんでも相方の大事な検査が急に決まったらしくてさ、その付き添いだって」
「勝平か…」
そりゃ仕方ないな。
約束の日の朝、集合した俺たちは電車に乗っていた。
「ま、それでも十分大人数だしな。 また今度なって伝えといてくれ」
「はいはい。 にしても合計で何人よ?」
「んー、古河家で四人だろ芳野家で三人、お前とことみと智代、馬鹿一人で…11人か」
「……ふーん…、ま、いっか。 そう、11人もいるんだ」
「えらい団体行動だよな」
さすがに電車内で騒いでいないのがせめてもの救い、なんだが…
「最悪ですっ! やっぱり春原さんの髪は激しく最悪ですっ!」
「なんだよ激しくって!」
…一部だけ騒いでいやがった。
「ふぅちゃんに春原さん、喧嘩は駄目ですっ」
渚がフォローしても二人はしつこく食い下がってくる。
「渚ちゃん聞いてくれよっ! こいつは僕の髪をっ」
「わわっ! 春原さんの髪の色が変化してますっ! どこの戦闘民族の方ですかっ!」
「変わるわけないだろっ! どこに目をつけてるんだよおちびちゃんっ!」
「意味わかんないですっ! 風子、もう大人です! セクシーな娘さんとして近所でも注目の的ですっ!」
「…オイ、小僧」
「わかってる、オッサン…」
ったくあいつらは。
「渚、こっちへ」
「朋也くん?」
まずは渚を風子の後ろに連れてくる。
「きっと春原さんはきんきらきんきんきんな方としてその筋の方々に注目…ほわぁぁぁ~~」
渚を使って風子を後ろから抱きしめさせると、流れるようにトリップモードへ移行した。
残るは…
「春原」
「な、なんだよ岡崎。 言っておくけどな、今回ばかりは僕に非は、」
「さっき可愛い女の子がお前の事をみつめていたぞ?」
「うっそ! マジかよっ! どこ、どこ!?」
はい釣れたー。
「あー、後ろ髪引かれてるみたいな表情で電車の最後部車両の方へ行っ…」
「最後部だねっ! へへっ、シャイな子なんだっ! 声かけてきてみるよ!」
「春原っ! 強気で行けよ!」
「ああ! 応援サンキュ!」
「岡崎…」
「智代か、どうした?」
「今の女の子の話はどこまで本当なんだ?」
「『女の子が春原を見て後部車両に行った』ってのは本当だ」
「そうなのか?」
「騒いでいた春原を迷惑そうに見てたから、ただ単に離れていっただけ、という可能性もあるけどな」
「相変わらずだなお前達は…」
「とりあえず静かになっただろ?」
「それはそうだが…危険だぞ?」
珍しい。 智代が真剣な目で焦っている。
「大丈夫だって。 あいつだって直ぐに気付くだろ」
「…この時間帯、最後部車両は 『女性専用車両』 だぞ?」
……やばい。
……春原だから余計やばい。
「すまん、智代。 あいつの事頼めるか?」
「仕方の無い奴だな…」
「そんな車両で勘違いされたら、流石に洒落にならないからな…」
「わかった、問題が起きる前に連れ戻してくる」
「今回は俺も悪かった。 本当にすまん。 今度なんか奢らせてくれ」
「ふふっ、期待しないで待ってるぞ」
「とっもや~」
智代が春原を迎えに(確保しに)行った後、杏がにやにやしながら話しかけてきた。
「なんだよその目は?」
「あたしには何を奢ってくれるのかな~?」
「はぁ? なに寝ぼけてるんだ?」
「い~のかな~? そんな事言っても」
…怪しすぎる。
というよりも背筋に寒気が……なにか良くない事が起こりそうな…。
「みんなにばらしちゃってもいいのね~?」
「だから何だよ!」
「さっき人数の確認をした時さ」
「ああ」
「あんた言ったわよね?」
「?」
「『古河家で四人だろ…』ってさ」
「ああ、それがどうかし……あっ!」
「すでにあんたにとっては 『自分も入れて古河家は四人』 って事か~。 ふーん」
「……」
「さて、結婚を前提としたお付き合いって事、まずは渚のおじさんに…」
「鬼」
「え? なんか言った?」
「何でもありません。 後日改めて奢らせて頂きます」
「うん! よろしくー!」
鬼だ。
鬼がいる……。
目的の駅に到着するまで、俺は鬼退治ついて本気で考えていた……