「ふぅ…」

 古河家面々の入浴後、最後に風呂へ入った俺はゆっくりと湯船に体を沈めた。

 

「朋也くん」 

「渚?」

「着替え、置いておきますね」

「ああ、ありがとな渚」

「はい。 えへへっ」 

「? どうした?」

「まるで新婚さんみたいです……って聞かなかった事にしてくださいっ!」

 …ったく……

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉ! 渚ぁぁああああああ!!」

「秋生さん、もう夜遅いのに近所迷惑ですよ?」

CLANALI2  第十二話

「あ、早苗さん。 いいお湯でした」

 風呂上り、廊下で早苗さんと出くわした。

「そうですか? よかったですっ」

「ええ、それにしても冷えますね」

「もう秋ですからね。 温かいものを持っていきますので居間で待っていてください」

「はい、ありがとうございます」

 本当、いい奥さんだよな。

 

 

「おう、小僧! ゲームしようぜゲーム!」

 …このオッサンの奥さんってのが不思議だけどな。

「なんだよ? 今は渚と遊んでるんだろ?」

「こいつにゲームは駄目だってことが判明したんだよ」

「お父さん、全然手加減してくれないんです…」

 酷ぇなオッサン。

「渚…すまねえ。 勝負の世界は非情なんだ…」

「何のゲームを…ってまた懐かしいものを……」

 オッサンと渚は初代某ひげ兄弟配管工ゲームをプレイしていた。

「そもそもこれは協力して進んでいく内容だろ? なんだよ手加減って」

「え? そうだったのか? これって骨肉の争いをしつつ相手を陥れるゲームだろ?」

 まぁその気持ちは良くわかるけどな。

 いつだか春原とこれを遊んだ時には…

 

 

「お? なんだよ岡崎。 随分懐かしいゲームを選んだね?」

 

「よーし! せっかくだから99面までクリアしようぜ! 僕と岡崎なら出来るさ!」

 

「岡崎ナイス! そのひっくり返った亀は僕が蹴りにいくぜっ!」

 

「ってうわぁぁぁ! なんで蹴る瞬間に亀を起こすのさっ! 死んじゃったじゃんか! 僕の○イージ!」

 

「ったく、気をつけろよ…ってうわぁぁぁ! そんなにPOWブロック使うなよ! ああ! また死んだ!」

 

「押すな! 押すなって! 敵にぶつかる! ぶつかるよ! ってぎゃぁぁぁ! 全滅したぁ!」

 

「ってアンタ絶対わざとっすよねぇ!!」

 

 

 …あの時の春原、輝いていたなぁ…

「よしっ! 渚、今だっ! そこの奴を蹴り飛ばせっ!」

「わぁ! …お父さん酷いですっ。 私の○リオさんが亀さんに噛まれてしまいましたっ!」

 …やってる事が俺と同じだよ…

 

「お茶です、どうぞ」

「あ、どうもっす」

 いつの間にか早苗さんが傍に来ていた。

「秋生さん? あまり酷い事はしないで下さいね?」

「なんだよなんだよ? 俺様一人が悪者か?」

「秋生さん」

「ちっ、しゃーねーな……。 んー、早苗、お前が俺を『あなた』って呼んでくれたら考えてやる」

 またこのオッサンは。

「あなた、駄目ですよ?」

「…早苗、好きだ」

「はいっ!」

 あぁ…あほあほ夫婦がここに……。

 

 

「でも、懐かしいですね」

「だろっ? 早苗、お前もやるか?」

 オッサン、目をキラキラさせ過ぎだ。

「違いますよ秋生さん。 『あなた』っていう呼び方、あの時以来ですよね?」

 あの時?

 渚を見るが、(ふるふるふる) 首を振るだけだ。

「あー、あの時か……。 あのクリスマスの夜、だな」

「はい」

「? 渚の誕生日か?」

「いいえ、もっと前の事です」

「俺様と早苗がまだ高校生だった頃だよ」

「わたし、そのお話知らないです」

 渚も知らない話か。

「そのクリスマスがどうしたんだよ?」

「その時、まぁちょっとした事があったんだが…それはいいさ」

「わたし、その時はまだ秋生さんと親しくなかったので…『あなた』、と呼んでいたんです」

「たしか俺からは…『あんた』、だったか」

「はい。 呼び方のニュアンスは違いますけどね。 …なんでも叶う、特別な夜でした…」

「……懐かしいな、早苗」

「……はい」

 

 

 二人に広がるなんとも言えない感じ。

 そうだよな……。 

 この人達は、とても長い時間を一緒に過ごしてきたんだ。

 オッサンと早苗さん。

 連れ添いあったお似合いの夫婦…だよな。

 

 

「(渚、行こうか?)」

「(…はい)」

 俺と渚は、静かにそれぞれの部屋に戻る。

 

 

 

 

 という俺達の気遣いも虚しく、

「小僧!」

「オッサン!?」

 部屋で布団を敷いていると、居間に居るはずのオッサンが顔を覗かせてきた。

 

「一週間なんてあっという間だからな。 明日にでも残りの面子にしっかり声をかけておけよ」

 ったく。 気を利かせたんだから少しはゆっくりしろってんだよ。

 

 だから俺は、らしくない笑顔で答えてやる。

 

 

 

「任せておけって、オッサン!」

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