「伊吹風子? もしかしてさっき小毬さんが言ってた小さい子の事?」

 僕は恭介に尋ねた。

「おそらくな。 だろ?小毬」

「うん、そうだよー。 ちっちゃくて可愛かったよー」

「…小毬さん達から見てどんな感じの子だったの?」

「えーとね、……ヒトデ?」

 …え?

「そうだ。 あれはヒトデだな」

 鈴…?

「そうですわね、一言で言うならばヒトデですわね」

 …笹瀬川さん…?

 

 えっと……、え?

CLANALI2  第十一話

「ヒトデ少女……何者だ? このおねーさんの女の子知識を駆使しても、さすがに想像がつかない」

 どんな知識を持っているんだろうか来ヶ谷さんは。

「二木さんはその子の事を大変気にされていましたわ」

「そうなの笹瀬川さん?」

「ええ、一言で言うと…そうですわね、妹や手のかかる娘を相手にするような…そういった印象でしたわ」

 

「……」

 葉留佳、さん…?

 

「当たり前のようにまざっているな、ささみは」

「! な、なんて言い草ですの棗鈴! あなた達が誘ってきたのでしょう! なにか文句でも、」

「いや、あたしは楽しいぞ?」

「~~~! ふ、ふん!」

 うん、こっちは大丈夫そうだね。

 

「まぁとにかくその情報を切り札にして、もう一度二木に挑戦だ」

 恭介が二木さんの部屋のドアに手をかけると、

「ちょいと待ったー恭介くん!」

「三枝? どうした?」

「えとさー、んっとさー……、少しだけお姉ちゃんと二人にしてくれるかな?」

「……わかった。 なら俺達は学食で待機しよう。 何かあったら電話してくれ」

「りょーかいりょーかい!」

 僕達は葉留佳さんを残して、学食へと移動した。

 

 

 

「恭介、葉留佳さん一人に任せて大丈夫かな?」

「理樹、そう心配するな。 あいつらならもう大丈夫さ」

 うん……

 

 

 

 

「で? 貴女一人で何の用?」

「あははー、はるちん大役を仰せつかったのですヨ」

「はぁ?」

「お姉ちゃん、次の日曜は一緒に遊ぼー!」

「なんで私があなた達と?」

「あそぼー!」

「だから理由が、」

「……」

「葉留佳…?」

「……ごめんね…」

「ちょっと、突然なにを、」

「まだ病院に通ってたんだね…」

「! ……それ、クドリャフカから…?」

「んーん。 クド公はなにも。 ただ日曜に出かけてるって聞いて、ね」

「……もう大丈夫よ。 近頃は体に残っていた傷跡の検査だけよ」

「…全部押し付けちゃってて、ごめんね…」

「済んだ話よ。 あの時あなたもわかってくれたじゃない。 お互いに理解し合ったでしょ?」

「…うん」

「なら気にしないで。 ……もうあの家の連中に好き勝手なんてさせないわ。

  もちろんこれからも不自由な事はあるでしょうけど、葉留佳を…なんて脅し、絶対にさせない」

「お姉ちゃん…」

「私達は、姉妹なんだから…」

「…うん…」

 

 

 

 

「さっきさ、葉留佳さんの様子がちょっとだけおかしかったから気になっちゃって」

「そうか? あいつはいつも元気だろ?」

「真人、お前は短絡的すぎだ」

「なんだよ謙吾、お前は女の機嫌の変化が理解できるってのか?」

「無論だ。 伊達にジャンパーが似合う男ではないからな」

 色々違うよね、それ。

 

 

 

 

「さ、そろそろ戻りなさい葉留佳。 それともまだ小言を聞き足りない?」

「……」

「葉留佳?」

「『伊吹風子』」

「…ええ、知っているわ。 どうかしたの?」

「うん、その子も来るんだって。 今度みんなが集まる日に」

「…そう。 でも私には関係の無い、」

「友達…でしょ?」

「……」

「お姉ちゃん、その子の為に友達になったんでしょ?」

「葉留佳? 何を言って、」

「友達になった詳しい理由は知らないよ。 でも、お姉ちゃんにとって大事な子なんでしょ?」

「……」

「今までの友達とはとても浅い付き合いしかしてなかったのに、その子は違うんでしょ?」

「葉留佳…」

「あははー、嫉妬とかじゃないって。 ………嬉しいの、あたしも」

「嬉しい…?」

「お姉ちゃんに、自然な笑顔を出せる相手が出来た……って事」

「…」

「一緒に遊んだら楽しいよきっと。 お姉ちゃんも、その子も、………あたしだって…ね」

「……」

 

「ま、口うるさいのは勘弁ですけどネーッ!」

「…………ふうっ。 わかった。 …わかったわよ葉留佳」

「ほんとっ!?」

「ええ、たまには…ね?」

「うひょーっ! お姉ちゃんげっとぉ!!」

「だから騒がないで! …って……ふふっ」

「あひゃー……あははっ」

 

 

 

 

 結構時間が経つけど、葉留佳さんも二木さんも大丈夫なのかな…

「少年、心配しすぎだ。 あの二人なら、もうすぐやってくるさ」

「来ヶ谷さん…」

「それとも密室にいる姉妹のあられもない姿を妄想しているのかね?」

「してないよっ!」

「おかしいな…。 健全な男子なら『美人双子姉妹』『密室』『夜』…このあたりでたまらない筈だが?」

「うおおっ! なんだかオギオギしてきたぁぁぁっ!」

 真人?

「心底馬鹿だな、こいつは」

 もう、みんなして…。 本当に心配じゃないのかな…。

「理樹」

 恭介…。

「信じて待っていてやれ。 いつもみたいな元気な笑顔で俺達のところへ帰ってくるさ。

  三枝ともう一人。 そいつはきっと…三枝に手に引かれて、困った顔をしながら…な」

「……そうだよね。 うん、大丈夫だよね」

 そう……きっともう直ぐ…

 

 

 

 

「それじゃ、気が変わらないうちに! ほらほらっ!」

 

「ちょ、ちょっと! どこへ?」

 

「学食学食! みんな待ってるヨ!」

 

「そんなに引っ張らなくても、ちょっと! 葉留佳っ!」

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