「みんなー! とりあえずここまで! 一旦集まってー!」
グラウンドが茜色に染まってきたころ、僕は声をあげてみんなを呼び集めた。
「どうする理樹? まだ練習を続けるか?」
「ううん恭介。後は体調を整える意味でもゆっくりしたほうがいいんじゃないかな?」
「少年も、だいぶ主将としての貫禄が出てきているな」
「うん。ゆいちゃんの言うとおりだよー。理樹くんは立派なキャプテンさんだよ」
「そんな、僕なんてまだまだだよ。みんなが頑張ってくれているからそう見えるんじゃないかな?」
「少年、あまり謙遜すぎるのもよくないぞ? 立派に君の力だよ。あと小毬君、いい加減、ゆいちゃんというのはだな……」
「えー。ゆいちゃんのことゆいちゃんって呼んでもいいって言ってくれたのはゆいちゃんだったよね? 私覚えてるんだよー?」
「だ、だからだね、そう何度も呼ばれると、どうも……」
「ゆいちゃん、ゆいちゃんって呼ばれるの、やっぱり嫌?」
小毬さんが不安げに語りかける。
「嫌というかだね……少年、なんとかしてくれないか?」
「来ヶ谷さん、こういう時の小毬さんには誰も勝てないから」
「……しかし」
「いーもん。私はゆいちゃんが好きだからゆいちゃんって呼ぶんだもーん」
ちょっとだけ拗ねたように小毬さんが言い放つ。
「あぁ、その表情には勝てない……というかたまらない。反則だぞ、小毬君……」
来ヶ谷さんは顔を上気させて困りながらにやけてる。
あいかわらず器用な人だ。
「おい理樹」
「なに? 鈴?」
後ろから声をかけてきた鈴に振り返る。
「発見だ。これは」
見ると鈴の手にはめたグローブの中には猫が丸まっている。
「グローブの中に丸まった猫。これはありえないほど組み合わせがいい。大発見だ」
どうゆう状況?
でもまあ。
「うん、確かにかわいいね。鈴にしてみればくちゃくちゃってところ?」
「そうだ。くちゃくちゃだ。いや、これはくちゃくちゃどころじゃないな。くちゃくちゃのくちゃくちゃだ。あたしにはもうどうすればいいかわからない」
僕もどう対応すればいいのかわからない。
「わふーっ。なにかわかりませんがとても愛らしいことになってますー!」
騒がしさにつられたのか、クドが近寄ってきた。
「クド、くちゃくちゃのくちゃくちゃ猫だ。この発見をどうしたらいいんだ? 学会とかいうところへの連絡はまかせてもいいのか?」
えらい無茶フリだった。
「まずは思い出に残しておこう。これを使ってな」
「恭介」
恭介は携帯のカメラを作動させて構えていた。
「写真か?」
「せっかくだ。鈴、ちょっとポーズをとってみろよ」
「ポーズ? どういうことだ?」
「わふー。ねこさんもかわいいんですから、鈴さんもかわいくきめましょー!」
「そうか。よし、撮れ」
鈴は直立不動のまま、猫を乗せたグローブだけを自分の前に突き出した。
「まてまて、鈴。ここは俺の指示どおり動いてみろ。まずは軽く前かがみだ」
「こうか?」
「そのままグローブをはめた手を背中に回して、そうそう、猫を落とさずに背中越しに見せる」
「……恭介?」
「空いている手はひざに添えて……よし、後は顔を上げて目線をこっちに」
「なんだ? こうでいいのか?」
「ばっちりだ」
「あ、ねこさんが起きました!」
猫は軽く伸びをして、丁度顔と両前足がグローブからはみだした。
その瞬間。
カシャッ!
「どう? 恭介? 上手く撮れた?」
恭介に尋ねると、
「……すばらしい」
たった一言だけ、返事が返ってきた。
「おおっ、なんですかこれは! 鈴ちゃんプロマイドなんデスカ!?」
「とてもかわいいですよ、鈴さん」
「りんちゃんもねこさんもかわいいよー」
集まってきた女の子たちには大絶賛だ。
「恭介氏、もちろんその写真はおねーさんにも渡してくれるんだろうな?」
「やっぱり欲しいのか? 来ヶ谷も」
「もし拒否するのであれば、それ相応の覚悟を持って挑ませてもらおう」
渡して。早く来ヶ谷さんの携帯に送信して、恭介。
「なんだか少し恥ずかしい」
鈴は困った顔をして照れていた。
「よし、この写真を我らリトルバスターズの象徴としてポスターにするぞ!」
「「「おーーーーっ!!」」」
「あほかっ!! いやじゃぼけーーーーーっ!!」
「はぁーはぁー……おい、謙吾……」
「はぁー、はぁー……なんだ?真人……?」
「この勝負……いつ、終わるんだ?」
「何周勝負か、決めていなかった、から、な……」
「さすがに……やばいな……」
「……同感だ。人として……限界だ……」
「謙吾……」
「なんだ……?」
「もう、ゴールして……いいか……?」