「あ、朋也くん、何か聞こえてきます」

「上手い具合にあいつらはまだ学校にいるみたいだな」

 

 中庭に近づくにつれて、はっきりと音が聞き取れるようになってきた。

 

「これって、もしかして……」

CLANALI  第六話

「やっぱりことみちゃんです!」

「ああ、それに多分……お、いたいた」

 

 校舎の角を曲がって中庭に出る。

 そこにはバイオリンを弾くことみと、その演奏を聞いている藤林姉妹がいた。

 

「あれ? 朋也に渚じゃない? どーしたのよ?」

「あ、岡崎さんに古河さん。こんにちは」

 

 姉妹がほぼ同時に俺たちを見つけて声をかけてきた。

「でも内容はまったく違うな……性格か? これは」

「なんか言ったー? 朋也ぁ?」

「いんや。なんでも」

 

 相変わらず杏は耳ざとい。あと、少しは殺気を隠せ。

 

「杏さんに椋ちゃん、こんにちは」

「なにやってんのよ? 渚達は?」

 

 ことみはきりのいい所までバイオリンを放す気が無いようだし(それ以前に目を瞑ったままだ)、先にこの二人と話をしておくか。

 

「いやな、杏たちは夕方までことみに付き合う予定って言っていただろ? それを思い出してお前たちに会いに来たんだ」

「会いにきたって……あんた、まさか渚だけじゃ飽き足らず椋にまでその穢れた手を!」

 

 おいおい。

 

「お、お姉ちゃん! そんなことないよ! 絶対!」

「じゃあ誰よ? ……ことみね?」

「あほ」

「きっとお姉ちゃんに会いに来たんだと思うな」

「な、何言ってんのよ椋!」

 

 落ち着け。

 

「朋也くん……」

「っておい! 何泣きそうになってるんだよ渚!」

 

 

 

 

「朋也くんと渚ちゃんがいるの」

「あ、あー。練習お疲れ様だな。ことみ」

 

 なんだかよくわからん展開のかしましい三方向同時追求を切り抜けた時、ことみがてくてくと歩いてきた。ナイスタイミング。

 

「朋也くん、こんにちは」

「よう」

「渚ちゃん、こんにちは」

「はい、こんにちは、ことみちゃん」

「杏ちゃん、こんにちは」

「はい、こんにち……って違うでしょ! わたしには!!」

「???  ……杏ちゃん、さようなら」

「なんでやねん!!」

 

 ビシっといい音を出して杏がつっこむ。

 

「うー……いたいの……」

「まったくこの子は」

 

 ことみはつっこまれたおでこを両手でさすりながら、

 

「いじめる? いじめる?」

 

 既に半泣きだった。

 

「ことみちゃん、だいじょうぶですか?」

「もう、お姉ちゃん? だめだよ?」

「あーもう。ごめんねことみ? ほら。いじめないいじめない」

 

 なんだ今日は? 漫才サービスデーか?

 

 

 

 

「で? あたし達に用ってなによ?」

 

 ようやく本題に入れるのか。

 

「ああ、実はな」

「うん?」

「今日は朋也くん、いろいろな方を狩っているんです」

「はぁ?」

「え、えぇ?」

 

 なぜだろう。渚が言うと冗談に聞こえない。

 

「つい先ほどは春原さんを狩られました」

「あいつを……? なんで?」

「はい、朋也くんが言うには『とりあえずはあいつからだな』と」

 

 渚? いろいろ端折ってないか?

 

「あ、その前にたまたま道端で出会った坂上さんも狩らせていただきました」

「坂上って、坂上智代!?」

「はい、彼女の弟さんと後輩の女の子も一緒に。ついで、だそうです」

「朋也……いくらなんでも生徒会長は駄目でしょ……」

「それに後輩の男の子や女の子まで……岡崎さん……」

 

 まてまて。

 

「渚、その言い方だと俺がとんでもない奴に聞こえるぞ?」

「えっ? そ、そうでしょうか?」

「ああ、杏に藤林。詳しく話すとだな」

「狩り。山野で獣を追いかけて捕らえることなの。獣じゃなくても追い詰めて捕らえる、という意味で言葉は通じるの」

 

 ことみ辞書、起動。

 

「他にも紅葉狩り、といった植物鑑賞・採集の際にも使用するの。英語ではハント、フランス語なら……」

「ハント!? ハントってナンパ野郎のセレブな言い方、ガールハントのハント?」

 

 セレブかそれ?

 

「ちょっと朋也!? 渚を連れてんのになんでナンパなんかしてんのよ? しかも坂上智代を!!」

 

 ただでさえ高くなっていたテンションが、智代の名前部分でさらに上昇。

 上限知らずのフィーバーだ。

 

「そ、それにさっき、春原さんもって……」

 

 藤林? なんで顔が赤いんだおまえ?

 

「とーもーやー……」

 

 まずい。

 冤罪確定なのになんなんだ? この絶望感は?

 

「違うぞ! まて杏! まてまて! 渚っ! おまえからも……っていつまでことみウンチク聞いてんだ!」

「はい?」

「コンチクショーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!」

 

 大きく振りかぶった杏の手には、和英辞典が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あははー。さすがにあの距離は朋也でも避けられないかー」

「お前、そのうち本気で傷害事件起こすぞ……?」

 

 見事に辞典が直撃し、少しばかり気を失っている間に渚があらかたの内容を説明したらしい。

 

「ごめんっ! 朋也っ! えへっ!」

「えへじゃねえよ、ったく」

 

 まあ渚の膝枕というありがたい介護がついたんで差し引きゼロだな。

 

「でだ。 お前ら明日は大丈夫か?」

「んー、そぅーねーぇ」

「岡崎くん、私は大丈夫です」

「朋也くん、私も一緒にいくの」

 

 藤林とことみは即答だ。

 

「ちょっと、少しは引っ張りなさいよ。女が廃るわよ?」

「杏、そういうお前はどうなんだ?」

「つまんないわねー。平気よ平気。むしろ呼ばなかったら六法全書が飛んでたわよ」

 

 少しは懲りろ。

 

「ではみなさん、明日はよろしくお願いします」

「まかせてよ渚。あんたのお父さんにもよろしく」

「はいっ」

「岡崎くん、渚ちゃん、よろしくお願いします」

「あぁ」

「はい」

「朋也くん、さようなら」

「あぁ、気をつけてな、ことみ」

「渚ちゃん、さようなら」

「はい、さようなら、ことみちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでなんとか9人か」

「はい。これで野球ができます」

「ま、前回とは多少メンバーが違うけどこんなもんか。渚、そろそろ帰るぞ」

「朋也くん、一緒にお買い物をしてから帰りましょう」

「なんだ? 夕食の分か? 荷物持ちならしてやるよ」

「ありがとうございます、えへへっ」

 

 さてと、これで人数だけは揃ったな……

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