「はーい、お気をつけくださーい! 筋肉が通りまーす!」

「へっ余裕かましやがって……負けられねぇー!」

 

 まだ走り続けてるよ、あの二人。

CLANALI  第五話

「リキーッ! 一緒にれんしゅうしましょーっ!」

 

 休憩が終わり、練習を再開するとクドに呼び止められた。

 

「うん、もちろんOKだよ、クド。で、何の練習をしようか?」

「はい! これからですねー、えーと、えーと、すろーあらうんど、あ、ぼーる、んーと……うぃー!!」

 

 さて、脳内翻訳の開始だ。

 

「えっと……投げ、ボール……うぃ? ……WE! ……あっ。うんいいよ。他には誰がいるの?」

「わふーー! やりましたー! 通じましたー!」

 

 クド翻訳には結構自信があるからね。

 

「私とーリキとー小毬さんとー恭介さんですー!」

「わかったよ、クド。一緒に行こう?」

「はいー! ライトの場所で、お二人はおまちだとおもいますー」

 

 

 クドの言うとおり、外野まで行くと恭介と小毬さんが大きく離れて待っていた。

 そう、クドは「投げ回し合うキャッチボールをしよう」と僕に言っていたんだ。

 

「理樹くーん、クーちゃーん、準備できたよー」

「よし、それじゃぁ始めるか!」

 

 恭介の掛け声でボールが回り始めた。

 クドは腕力が無いけど、多少離れた位置に来たボールでも身軽にキャッチする。

 対して小毬さんはボールを追いかける事が不得意みたいだけど、とても滑らかなフォームでボールを投げ、相手に送球している。

 恭介はそんな二人の長所を伸ばすかのようなキャッチボールをしていた。

 

「やっぱり恭介はすごいや」

「なんだー理樹ー? なんか言ったかー?」

「別にー! なんでもー!」

 

 そんなことを考えながら、しばらくキャッチボールを続けた。

 

 

 

 

 

「あっ!」

 

 クドが軽く声を上げ、そのまま駆け出していった。

 

「クーちゃんどーしたんだろー?」

 

 みんなでクドの走る先を見てみると、大きな犬が駆け寄って来ていた。

 

「ストレルカー!」

 

 クドの呼び声に反応したかのようにじゃれつくストレルカ。

 

「すっとれーるかー♪ すっとれーるかー♪」

「あー私もー! クーちゃーん!!」

「あ、小毬さん!」

 

 はやっ!小毬さん、足はやっ!

 

「これがコマリマックスの力か……」

 

 恭介、何言ってんの?

 

「理樹くーん、ストレルカってさわさわしてるのに引き締まってるよー」

 

 と、突然ストレルカが小毬さんとクドの周りを走り出した。

 遊んでもらっているつもりなのかな?

 まったく追いつけそうに無いけど、二人はストレルカを追い掛け回し始める。

 

 

「理樹」

「うん?」

「ミッションスタートだ。神北小毬と能美クドリャフカを誘導して、ストレルカを捕まえろ」

「突然だね……理由は?」

「まぁ特に意味は無いんだが」

 

 えっ?無いの?

 

「理樹、お前にチームメイトを上手く扱うことが出来るかな?」

 

 あ。

 きっと恭介なりの意味があるんだな、と、なんとなく理解した。

 なら……

 

「小毬さん! そのままストレルカを追いかけて! クドはそこでストップ!」

「え? え? よくわからないけどわかったよー!」

 

 どっち? 小毬さん?

 

「あい、あむ、すとっぴんぐーなうー!」

 

 クドはすぐに言われたことを理解したみたいだ。

 よし、これで後は挟み込んだときタイミングを合わせて……

 

 

「ストレルカー!」

 

 小毬さんが追い込み、

 

「わふー! きましたー! でもここはとーせんぼですー!」

 

 クドが立ちはだかったその瞬間、僕は、

 

「ストレルカ!! こっちだ!!」

「なにっ!?」

 

 恭介が驚きの声を上げる。

 

 

 追いかけられているという本能のまま走り続けていたストレルカは、二人に突然挟み込まれた所為で動く方向に迷いが生まれた。

 その瞬間、強く自信あふれる声がストレルカの耳に届く!

 そしてストレルカは飛び込んだ。

 僕の腕の中に……

 

 

 

「ミッションコンプリート、だね。恭介」

「……ああ、確かに神北小毬と能美クドリャフカを誘導してストレルカを捕まえろ、というミッションは誰の手で、という名目が無かったからな。

 問題なくミッションコンプリートだ」

 

 僕は恭介の目を見ながら、しっかりと頷いた。

 

「しかし……」

「なに? 恭介?」

「たったあれだけの時間の中で、よくそこまで頭が回ったもんだな」

「あたりまえだよ」

 

 僕にしては珍しく力強い声が。

 

「みんなの希望をのせて、あの日々を、あの日を駆け抜けてきたんだから」

 

 

 

 

 

 

「誇りに思うよ、理樹」

 

 恭介は僕を見て、とても嬉しそうに……その言葉を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わふー……小毬さーん。どいてくださいー」

「クーちゃん……私、もう走りつかれたよー」

 

 あー、あの瞬間二人は止まりきれずにもつれ合っちゃったのかー。

 

「小毬君とクドリャフカ君がくんずほぐれつ…… はぁ、はぁ」

 

 来ヶ谷さん、気配を殺してそばに立たないで。

 怖いから。

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