「ホラ娘っ子ども、肉食え、肉」
「あ、ありがとうございます…」
「ん、ああ。 ありがとう。 だが多くないか? この量は?」
「でっかくなれよ!」
オッサンが藤林や智代達に、焼いた肉を山盛りで渡している。
「こんなところでバーベキューなんてしてもいいのか?」
古河パンの目の前にある公園で、さながらキャンプのごとく食事をしている。
「どうでしょうか? でも以前にもお父さんやお母さんと一緒に、近所のお子さん達と
この様なバーベキューはしたことがあります。 だからきっと大丈夫です」
「既に経験済みかよ……」
「お父さん、子供好きですから。 えへへっ」
「ほら、河南子。 こっちの野菜も食べなよ? さっきから肉ばかりじゃないか」
「肉よこせよ肉。 野菜は鷹文があたしの分まで食べといてよ?」
「駄目だって。 はい」
「オメー、若奥さんかよ?」
「はいはい…。 これも、これも……」
「なんだよ野菜ばっかり! 恨みでもあんのか!?」
こっちはこっちで夫婦漫才を繰り広げている。
「杏ちゃん」
「なによことみ? ってもう! それはまだ焼けてないじゃないの! はい、こっちを食べなさい」
「杏ちゃん、ありがとうなの」
「まったく、世話が焼ける娘ねー。 で? なに?」
「お願いがあるの」
「?」
「どんなご本にも書いてなかった知識を確かめて欲しいの。 とっても気になるの」
「確かめたいって言われてもね…。 で? 内容は?」
「『バファリンの半分はやさしさで出来ている』」
「あー、それはただの宣伝文句じゃ…」
「『残りの半分はカステラで出来ている』」
「カステラっ!? なんでよ!? そもそもそんなネタ話自体どこから仕入れてきたのよ!?」
「今日、棗さんから教えてもらったの」
「あの馬鹿…。 なにことみにくだらない事吹き込んでんのよ……」
「杏ちゃん、お薬持ってる?」
「そりゃ常備薬として何錠かあるけど…。
いい? 今度本人から話を聞いておくから、ことみは薬で変な事しちゃ駄目よ?」
「変???」
「いいからあたしに任せておいて。 わかった?」
「わかったの。 杏ちゃんとお薬で実験するのは我慢するの」
カステラってなんだよ? 棗もやっぱりよくわからん奴だな……。
「おいしーっす! 早苗さんが焼いてくれたお肉は格別においしーっす!」
「ありがとうございますっ! 春原さん、どんどん召し上がってくださいねっ!」
「もういくらでも食べちゃいますよっ!」
「嬉しいですっ! もし足りなければこちらもいかがですか?」
「ははっ! なんでも頂きますってっ! …え」
「コンセプトは青春ですっ!」
「は、はは…、ぃ…いただきますっ!!」
「どんどん食べてくださいねっ! パンでしたらまだまだ沢山ありますよ?」
「…は、はは」
「早苗さん」
ここは助け舟を出してやろう。
「なんでしょう?」
「春原は以前、『渚のお母さんが作ったパンを腹いっぱい食べる』為に尽力をつくしてくれまして…」
「そうだったんですかっ!?」
「おまっ! 岡崎てめぇっ!」
「春原…願いが叶ったな……」
「なんでそこで涙ぐんでいるんですかねぇ? アンタ!」
「思い残す事は無いなっ!」
「急に爽やかになりましたね!?」
「その後…春原の行方を知る者は誰もいなかった……」
「勝手に人の人生のエンドロールを流さないでくれますか!?」
一息ついた頃、オッサンは少し離れてタバコを吸っていた。
「オッサン」
「んー? なんだ小僧? しっかり食ったのか?」
「ああ、充分すぎるほどにな。 …食材買いすぎだろ?」
「若いモンは沢山食べるの事が義務なんだよ」
「そーかい」
「そーだよ」
オッサンはとても美味そうにタバコの煙を吐き出す。
「やっぱ体を動かす遊びはいいな。 飯も美味けりゃタバコも美味い」
「そりゃ良かったな」
「あんだよ? 小僧は楽しくなかったのか? ああん?」
「…楽しかったよ」
「だろ?」
ああ、十分楽しんださ。
渚だって笑顔で楽しんでいたんだ。 俺が楽しくないわけが無いだろ。
「…で、オッサンは何か得るものがあったのか?」
「んー、何の事だ?」
下手なとぼけ方をする。
「ま、言いたくないって言うなら別にいいさ」
「……これからだな」
オッサンはどこか遠くを見ながら続ける。
「これから何度でも会うだろからな、あの坊主共とは」
「やっぱり、それも楽しみなのか……?」
年甲斐も無い、だがとても端正な笑顔を俺に向けながら、オッサンは答える。
「当たり前だろ?」
まだ、この道は続いていく。
家族と、町と、人々が紡いでいる、長く遠いこの道は……。