「あいつら、強かったな…」 

「うん、そうだね。 でも古河さんは特別に強かったよ」

「あたしもそう思う。 理樹、今度は 『打たせて取る』 というのを教えてくれ」

「? 鈴、知ってるの?」

「さっきあいつに聞いた」

「あいつって…」  

 もしかして鈴、古河さんに教えてもらいに行ったの?

 鈴が……、自分から?

「もっと、みんなを頼る。 出来る事をした上でみんなを頼るんだ。 甘えないで、頼る」 

 

 鈴はいろんな意味でまた一つ成長しているんだ。

 僕はそのことが誇らしかった。

 …でも、ちょっとだけ。 ほんのちょっとだけ寂しい気もする。

 

 きっといつか。 鈴も、ひとり立ちするんだ。

 本当の意味で。

CLANALI  第三十五話

「それは聞き捨てならんな、真人」

 謙吾と真人の言い争いが聞こえてきた。

 

 帰りのワゴンの中、みんなは思い思いに今日の感想を話し合っているみたいだ。

 

「知っての通り、俺は武道を通じて精神を鍛えている。 ちょっとやそっとの事では目くじらは立てん」

「じゃあいいじゃねえかよ?」

「だが今の言葉は我慢できん! 俺に対する宣戦布告と受け取らせてもらおう!」

「へっ…。 何とでも言えばいいさ。 俺は前言撤回なんてしねえからな」

「よかろう…。 恭介! 車を止めてくれ!」

「はぁ? なんだよ……」

 しぶしぶ恭介は車を路肩に止めた。

「表へ出ろ、真人」

「上等だ…!」

「ちょっと二人とも! どうしたのさ!? 来ヶ谷さん? どうしたの一体?」

 二人はゆっくりと車を降りる。

「少年…。 他人には止められない想いがあるのだよ。 あの二人の間には……」

「そんな…!」

「直枝さん、どうか止めないであげてください……」

「西園さんまで…」

「お二人は食べるホットケーキの量を決める為に、その熱い想いをぶつけ合おうとしているんです」

 えらく小さな意地の張り合いだったっ!!

 

「…恭介……」

「ん?」

「出発していいよ……」

「? そうか?」

 躊躇い無く発進するワゴン。

 

「今こそ、今までのけりをつけてや…!? っておい! 恭介! 待……」

「なんだよ謙吾? 臆病風にでも吹かれ…!? って車がねぇーーーーーーーーーっ!?」

 

 

 

 

「リキ? 良かったんですか? お二人を置いてきてしまっても…?」

 クドが恐る恐る聞いてくる。

「ほっとこう。 もうっあの二人はっ!」

「わふっ! ごめんなさいですっ!」

「あ、ごめんね? クドに言ったわけじゃ…」

「びっくりしました…。 リキって怒るとちょっと恐いですー」

 そうかな……?

「おやー? 理樹くんってばご機嫌斜めさんですかー?」

「そんなことないって」

「んー。 もしかして試合に負けちゃった事が結構ショックだったりして」

 葉留佳さんはなんだか妙に追及してくる。

「ん…。 勝ち負けよりも、その後のことかな…?」

「え? 何、何、ナンデスカ?」

「ううん、大丈夫だよ」

「…そうデスカー。 ……なら、笑顔でいようよ! ねっ?」

 なんだか気を使われちゃったのかな…?

「ありがとう。 …ごめんね」

「学校に帰ったら、ホットケーキがいっぱい食べれるよー? ほら、これでみんな笑顔!」

「小毬さん…。 うん、沢山食べようね!」

「うんっ!」

 

 

「やっぱり馬鹿だな、あいつらは」

 必死に走って追いかけてくる二人を窓越しに見ながら、鈴が苦笑いする。

 

 

 

 

 

 しばらくの間、僕はぼーっと運転をする恭介の横顔を見ていた。

 そのうち、恭介が前を見ながら僕にだけ聞こえる声で話しかけてきた。

「理樹、俺さ…」

「なに?」

「なんだか、あの人に認められたい、って思うんだよ……」

「…古河さん……?」

「ああ。 どうしてだろうな……」

「……」

 

 そうか…。 

 きっとそうなんだ。

 

 恭介は今まで鈴の為に、真人や謙吾、そして僕の為に色々な事をしてきてくれた。

 もちろん恭介自身、楽しみながらやってきた事もいっぱいあったんだと思う。

 だけど。

 今まで誰もいなかったんだ。

 恭介自身の事を本気で窘めてくれる、まるで自分の事のように向かってきてくれる大人が。

 ただ一人、恭介のおじいさんだけはその位置にいたけど、恭介は自ら離れていったから…。

 

「…あの人に、名前で呼ばれてみたいんだ……。 あーもう、わけわかんねーっ!」

 

 悔しいし、寂しい。 僕らから離れて行っちゃうような錯覚もする。

 けど……。

 

「ミッションスタート、だね」

「? 理樹……?」

 僕も、前に進むんだ。

「『古河さんに恭介を認めさせろ。 …手段は選ばないで良し』 ってところかな?」

「理樹、お前…」

「恭介は自分の力と僕達みんな、他にも出来る事すべてを使って前に進むんだ」 

 きっと、進まなきゃ駄目なんだ。

 僕達リトルバスターズだって来年には学校から卒業する。

 その事は、抗えない現実なんだから。

 

「もしかしたら、とても長いミッションになるかもしれないぞ?」

「…いつもの生活や他のミッションとの掛け持ちぐらい恭介なら出来るよ」

「…言ってくれるな理樹……」

 そう。

 遠い、とても遠い目標だと思う。

 だけど、誰かが言ったんだ。

 

 

 『リトルバスターズは不滅だ……』

 

 

 何があっても…何が変わっても…。

 前を向いて、歩いていけるんだ……。

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