「見事にやられてしまったな。 …またいつか、貴女とは別の何かで合間見えたい」
「こちらこそいい勝負だった。 また会えるといいな」
握手を交わしているのは謙吾と智代だ。
それぞれ健闘を称えあい、またいつか、と約束を交わす。
「それでは失礼する」
「なんだ? お前達はもう帰ってしまうのか? よければ私達と一緒に古河さんのバーベキューに…」
「誘ってくれるのはありがたいが、すまない。 こちらもこれから食事会が待っているんだ。
お疲れ様ホットケーキパーティーがな」
「そうか、それはとても楽しそうだ。 では宮沢、またな」
「ああ!」
そしてその場から振り返る謙吾だったが、
「って西園? なに写真を取っているんだ?」
「いえ…。 宮沢さんが女性の方と手を繋いでいる場面ですので。 ……是非笹瀬川さんにでも、と」
「待て待て待て待てぇぇぇぇーーー! 西園っ! わざとかっ! 狙ってるな!」
「み、宮沢……?」
はっちゃけ謙吾に少しびっくりな智代であった。
「へへーん! どーよ? ことみさんの所有権が誰にあるか思い知ったかー!」
「仕方無い、ひとときだけ、彼女は君に貸し出そう。 すぐに返すんだぞ?」
来ヶ谷は駄々っ子をあやすかのように言ってのける。
「元々あたしのだって! ことみさん! 言ってやって下さい!」
「???」
「この姐さん、ことみさんを貸してなんて言ってるんですよ!」
ことみは少しばかり考えてから…
「ご返却、ありがとうございます」
ぺこりとお辞儀。
「既に貸してたの!? 誰に? っていうかあたし返却待ち中だったのか?
…流石ことみさんだ……。 このオチはことみさんにしか思いつかねーよ……」
どっぷりはまっていく河南子。
「おねーさんとしては、ことみ君と河南子君のお持ち帰りセットがご所望なんだがな」
「…アンタもホンモンだね……」
河南子は呆れているが、それでこそ来ヶ谷といったところだ。
「ほらよ、杏」
「? なによ陽平?」
「これ、欲しがってるんじゃないかと思ってさ」
「紙…? っ! ちょっとアンタッ!!」
春原が広げた紙の内容を見て声を荒げる。
「なに? いらないの? いらないんなら破って捨てるけど?」
「いるとかいらないとかじゃなくてっ! …なんなのよ……」
杏は突然の事態に気が動転している。
「杏ってさ、結構分かりやすいんだよね。 ま、前は全然気が付かないって奴もいたけどさ。
きっとだけど、あいつも同じだよ。 …またおんなじ事繰り返す気?」
「……」
「どーでもいいけどね、僕は」
「……」
「……」
「…その、…うん、…ちょうだい、ソレ……」
「うん、ほら」
杏がその紙を受け取る。
「…そんなに分かりやすいかな? あたしって」
「うーん、前の時はそうでもなかったと思うよ。
実際気付いてたのは委員長と僕ぐらいだったんじゃないのかな?」
「そっか…。 気付かれてたんだ……」
「後は自分でどうにかしなよ?」
「…うん。 ……陽平」
「あ?」
「…ありがと」
春原はそのまま歩いていった。
その場に立ち尽くしていた杏は、その紙を胸に抱きそっと呟く。
「恭介の、メアド…。 うん、前に進んでいかなきゃ…だよね……」
歩いていく春原の顔を見る者が誰もいなかったのは、果たして幸か不幸か。
複雑な感情を押し込んだ、その表情を。
「またな、直枝」
「朋也さんもお疲れ様でした。 また遊びましょうね」
「暇だったらな」
朋也の表向き面倒くさそうな返答にも慣れたのか、理樹は笑顔で握手を求めた。
「学校に帰ったらホットケーキ沢山作るんだよー」
「それは楽しそうですっ! …あ、あのっ今度……」
「うん! 今度一緒に作ろうね! ばいばい、渚ちゃん」
「ありがとうございます! またお会いしましょう、神北さんっ!」
「…ううん、 『こまり』。 ……ね?」
「っ! はいっ! ばいばいです、小毬さんっ!」
「筋肉を鍛えなおしてくるぜっ! じゃーな!」
「どうぞ、これはお土産です。 皆さんで召し上がってくださいっ」
「お? あんがとよ! んじゃ早速ひとつ…っ! …ぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!」
「わふーーーーっ! 井ノ原さん!? 井ノ原さんがでぃーぷぶるーなふぇいすに!」
「コンセプトは青春ですっ!」
「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!」
「今度はすぷりんぐっ!?」
どんな顔色だそれ。
リトルバスターズのメンバーがワゴンに乗り込む。
そして最後に……
「古河さん」
「あー? 何だ、棗?」
「…今度は負けませんよ」
「へっ。 返り討ちにしてやんよ、小僧。 ……またな」
「…はいっ!」