「そろそろ再開しても良いですか?」
「あ、うん。 ありがとう鷹文君」
理樹は鷹文に対して素直に礼を言う。
「そんな、ただの審判ですよ僕は。 えっとそれじゃあさっきの続きになるので…。
古河さん、三塁に戻ってくださーい!」
朋也ハーレム騒動も何とか治まり、ようやく試合再開となった。
「鈴」
「うん。 理樹、頑張ろう」
現在3-3の同点。
五番の杏が打席に入る。
キンッ! 「謙吾っ!」
「任せろ。 よっと」
杏は内野フライを打ち上げてアウト。 さすがに秋生もタッチアップは狙えない。
「朋也。 あのピッチャー、ホントになんか立ち直ったっぽいわよ?」
「そうみたいだな」
「手元で意外と伸びる球だから気をつけなさい」
「サンキュ」
「あ、朋也さん」
理樹が打席に入ってきた朋也に気づく。
「おう。 …直枝、あのピッチャーを立ち直らせたのはお前か?」
「ううん。 僕だけじゃないよ。 ただ僕は背中を押しただけ」
「……」
朋也がバットを構える。
「…でも朋也さんって意外に熱い人だったんですね」
「…なにがだ?」
構えたまま答える朋也。
「いえ、さっきの告白、」
「なんでもないからな? いいか? 絶対にうちのメンバーの前で蒸し返すなよ」
「は、はい…」
もうあの騒動の再発は勘弁してもらいたいらしい。
バスッ! 「ストライク! バッターアウト!」
「おいおい、何種類変化球持ってんだよ? オッサンといい勝負じゃないか」
六球ほど粘った朋也だったが最終的には三振だった。
「すごいでしょう? うちの自慢のピッチャーなんですよ?」
「…へぇ」
理樹の答えを聞いて、不敵に笑う。
「自慢の彼女って事か?」
「ち! 違いますって! 鈴は妹みたいなもので!」
さっきの自信満々な顔はどこへやら。
真っ赤な顔の理樹だった。
「お父さん、ごめんなさいです。 ホームに帰してあげられなくて…」
「気にすんなって。 渚、体の調子はどうだ?」
「はい。 全然へっちゃらですっ!」
七番の渚も三振。
どうやら本格的に鈴の調子は好調のようだ。
「お前が元気でいてくれて、そのうえ楽しんでくれてんなら言う事はねえよ。
それだけで俺らは本当に幸せなんだ。 …渚、楽しんでいてくれてるか?」
「…はいっ! もちろんですっ!」
「試合は四回になった! みんな、もう一頑張りだ! 俺に続けっ!」
だいぶギアが入ってきた謙吾がベンチに声をかける。
「俺、三枝、能美の三人で満塁にしてくる! …あとは任せたぞ! うおおおおおおお!」
叫びながらバッターボックスに駆けていく。
「…恭介、今でも俺、あいつのギアが入る条件がわからねえんだけどよ? 突然だよな、いつも」
「謙吾だからな…。 その分真人はわかりやすいよな?」
「え? そうか? そんな事ねえだろ」
「真人少年、…『筋肉』」
「う…」
「井ノ原さん…、あなたの『筋肉』」
「違う…違うぞ…。 そんな、見え透いた…」
「真人? 『筋肉いえー…』」
「い、いえー?…」
「真人! 『いえいいえーい!』!」
「!! き…筋肉…いえい、いえーー…。 うおおおお! 筋肉、いえいいえーーい!
筋肉いえいいえーい! 筋肉いえいいえーーーい!!」
「やっぱ馬鹿だ! こいつっ!」
「筋肉はともかく、俺達も謙吾に置いてきぼりにされてたまるかっ。 なぁ! みんなっ!」
真っ先に答えたのは謙吾から指名を受けた葉留佳とクドだ。
「もちろんですヨッ!」
「わふーー! がんばるのですーーーっ!」
そして三者凡退。
「俺が…、俺が三振なんかするから…」
「…いらない子? はるちんいらない子?」
「ぼーるがひゅんっって、ぴゃーって、ばすーんって…」
急激に高まったテンションは冷え込みも激しかった……。
「全部真人のせいだな、これは」
鈴が真人を睨んでも当の本人は……
「筋肉いえいいえーい! 筋肉いえいいえーーーい!!」
旅立っていた。 センセーションな感じに。