「そろそろ再開しても良いですか?」 

「あ、うん。 ありがとう鷹文君」

 理樹は鷹文に対して素直に礼を言う。

「そんな、ただの審判ですよ僕は。 えっとそれじゃあさっきの続きになるので…。

  古河さん、三塁に戻ってくださーい!」 

 

 朋也ハーレム騒動も何とか治まり、ようやく試合再開となった。

 

「鈴」

「うん。 理樹、頑張ろう」

 

 現在3-3の同点。

 五番の杏が打席に入る。

CLANALI  第三十話

   キンッ!     「謙吾っ!」

 

「任せろ。 よっと」

 杏は内野フライを打ち上げてアウト。 さすがに秋生もタッチアップは狙えない。

 

「朋也。 あのピッチャー、ホントになんか立ち直ったっぽいわよ?」

「そうみたいだな」

「手元で意外と伸びる球だから気をつけなさい」

「サンキュ」

 

 

「あ、朋也さん」

 理樹が打席に入ってきた朋也に気づく。

「おう。 …直枝、あのピッチャーを立ち直らせたのはお前か?」

「ううん。 僕だけじゃないよ。 ただ僕は背中を押しただけ」

「……」

 朋也がバットを構える。

「…でも朋也さんって意外に熱い人だったんですね」

「…なにがだ?」

 構えたまま答える朋也。

「いえ、さっきの告白、」

「なんでもないからな? いいか? 絶対にうちのメンバーの前で蒸し返すなよ」

「は、はい…」

 もうあの騒動の再発は勘弁してもらいたいらしい。

 

 

 

   バスッ!  「ストライク! バッターアウト!」

 

「おいおい、何種類変化球持ってんだよ? オッサンといい勝負じゃないか」

 六球ほど粘った朋也だったが最終的には三振だった。

「すごいでしょう? うちの自慢のピッチャーなんですよ?」

「…へぇ」

 理樹の答えを聞いて、不敵に笑う。

「自慢の彼女って事か?」

「ち! 違いますって! 鈴は妹みたいなもので!」

 さっきの自信満々な顔はどこへやら。

 真っ赤な顔の理樹だった。

 

 

 

 

「お父さん、ごめんなさいです。 ホームに帰してあげられなくて…」

「気にすんなって。 渚、体の調子はどうだ?」

「はい。 全然へっちゃらですっ!」

 七番の渚も三振。

 どうやら本格的に鈴の調子は好調のようだ。

「お前が元気でいてくれて、そのうえ楽しんでくれてんなら言う事はねえよ。

  それだけで俺らは本当に幸せなんだ。 …渚、楽しんでいてくれてるか?」

「…はいっ! もちろんですっ!」

 

 

 

 

 

「試合は四回になった! みんな、もう一頑張りだ! 俺に続けっ!」

 だいぶギアが入ってきた謙吾がベンチに声をかける。

「俺、三枝、能美の三人で満塁にしてくる! …あとは任せたぞ! うおおおおおおお!」

 叫びながらバッターボックスに駆けていく。

「…恭介、今でも俺、あいつのギアが入る条件がわからねえんだけどよ? 突然だよな、いつも」

「謙吾だからな…。 その分真人はわかりやすいよな?」

「え? そうか? そんな事ねえだろ」

「真人少年、…『筋肉』」

「う…」

「井ノ原さん…、あなたの『筋肉』」

「違う…違うぞ…。 そんな、見え透いた…」

「真人? 『筋肉いえー…』」

「い、いえー?…」

「真人! 『いえいいえーい!』!」

「!! き…筋肉…いえい、いえーー…。 うおおおお! 筋肉、いえいいえーーい!

  筋肉いえいいえーい! 筋肉いえいいえーーーい!!」

「やっぱ馬鹿だ! こいつっ!」 

 

「筋肉はともかく、俺達も謙吾に置いてきぼりにされてたまるかっ。 なぁ! みんなっ!」

 真っ先に答えたのは謙吾から指名を受けた葉留佳とクドだ。

「もちろんですヨッ!」

「わふーー! がんばるのですーーーっ!」

 

 

 

 

 

 

 そして三者凡退。

「俺が…、俺が三振なんかするから…」

「…いらない子? はるちんいらない子?」

「ぼーるがひゅんっって、ぴゃーって、ばすーんって…」

 

 急激に高まったテンションは冷え込みも激しかった……。

 

「全部真人のせいだな、これは」

 鈴が真人を睨んでも当の本人は……

 

 

「筋肉いえいいえーい! 筋肉いえいいえーーーい!!」

 旅立っていた。 センセーションな感じに。

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