「みんなっ! マウンドに集まって!! リトルバスターズ集合っ!!」 

 

 僕は思いっきり大きな声を出してみんに呼びかけた。

 みんなは小走りに、あるいは大急ぎで鈴の元に集まってきた。

 

「どうしたんだよ理樹?」

「どーしたの? 理樹くん?」

 

 真人と小毬さんの声が重なる。

 みんな不安げな顔してるけど…、さすがに恭介と来ヶ谷さんは僕の考えがわかってるみたいだ。

CLANALI  第二十八話

「……」

 鈴は黙って俯いている。 まるで叱られるのを待っている小さな子供みたいだ。

 そんな鈴の雰囲気を察したのか、クドが鈴を庇うように、

「わ、わふ。 リキ? しょーぶはときのうんっていいます。 だからここは私に免じて…」

「そ、そーだヨ理樹くん? クド公だけで足りないなら私の分にも免じて…」

「えっ? えっ? わ、私もっ!」

 クドの意見に続いて、葉留佳さんや小毬さんが続く。

 

 ううん。 大丈夫だよみんな。

 僕は鈴を責める為に全員を集めたんじゃないんだ。

 

「じゃあ……、 恭介?」

「なんだ?」

「数々の逆ナン経歴を持つ伝説のフェロモン野郎という棗さんに質問です。

  一番印象に残った逆ナンの方法とは何でしたか?」

「フェロモン野郎ってお前な…。 ん、んん。

  ああ、それは転校初日の事だ。 初めてクラスに入った瞬間、全男子生徒から一斉に

  告られた。 しかも片言の日本語でだ。 あれにはマジびびったぜ」

 なんとか恭介が乗ってきてくれた。

 

「何言ってんだ恭介? お前は転校の経験なんて無いだろうに」

 謙吾が素でつっこんできた…。

 

 

「……。 片言の日本語で『男性』に告白されたことのある棗さんに質問です。

  その時の女子生徒たちの表情はどのような感じでしたか?」

 西園さんが若干顔を赤らめて、この話を繋げてくれた。

「その時、女子生徒は全員机の上にあったお菓子を食べる事に夢中だった。

  どの子もお菓子を食べる事だけに集中していて俺の危機には気付いてもくれなかったんだ。

  正直泣きそうだったよ。 だから俺は叫んだんだ! 『おまえら小毬かよっ!』ってな」

「ええ~~~っ!? 私、そんなに食いしん坊じゃないもん!」

 そんなこと無いよ? 小毬さん?

 

 

「…おい」

 鈴が話を折ろうとするが、

「ゴシップより食い気な女子生徒たちに泣かされそうになったという棗さんに質問です」

 3コンボ目は来ヶ谷さんだ。

「その時、棗さんは本当に泣かされてしまったんでしょうか? とても心配です。

  ちなみに棗さんの泣き顔を想像すると、もっと鳴かせてやろうという気がムラムラ湧いてきます」

「心配ありがとう、だが安心してくれ。 俺は涙がこぼれる前に『その場を逃げ出す』という

  最優先事項を思い出したんだ。 まさに危機一髪だ。

  後、少しでも遅れていたら涙をこぼしていたどころか、男子生徒たちに捕まって

  一生忘れられないレベルのトラウマを植えつけられてしまうところだったんだからな。

  …俺は、純粋な少年のままでいることが出来たんだ……。

  ところで、 『鳴く』 の字は違うだろ。 頼むからやめてくれ。 トラウマになりそうだ」

 

 

「あほかーーーーーーーーっ! きしょいわぼけーーーーーーーっ!」

 鈴がきれた。

 

「今はそんな馬鹿の体験談を聞いてる場合かっ? もっと他にあるんじゃないかっ?

  また打たれたんだぞあたしはっ! かきーーーーんって! それも…」

「……」

「…あたしの本気のボールがだ…。 みんな、言いたい事があるんじゃないのか……?」

「……」

 沈黙がマウンド上を支配する。

 鈴もみんなに顔を向けて、誰かの言葉を、叱責を待っている。

 だから僕は鈴に対して言うんだ。

 

「鈴はとても強くなったよ」

「!? そんなこと無いっ! だって……」

「打たれた?」

「…うん。 あいつに二回も打たれた。 …また、みんなに迷惑を、」

「迷惑をかけたらいけないの?」

「!?」

「そもそも迷惑だと思ってる人がここにいると思う?」

 そこで鈴ははっとして、改めてみんなの顔を見る。

 そこにはみんなの笑顔が、リトルバスターズの笑顔があった。

 

 

「…あたしはやっぱり馬鹿だな」

「うん、ちょっといろんなものを背負いすぎちゃったね。 鈴」

「…この重い物。 みんな、一緒に持ってくれるか? もう一度、頼ってもいいのか?」

 鈴の少しだけ何かをねだるような、でも自分の意思をはっきりと込めたその問いに対して

 みんなは一斉に答える。

 その答えは、………。

 

 

 もう、大丈夫だ。

 鈴は強くなった。

 さらに、今はこんなにも仲間がいるんだ。

 同じ想いで満たされている、本当の仲間が。

 

 

 

 新たに結束を確認していたその時、同じく集まっていた古河ベイカーズの集団から

 突然大きな声が響いてきた。

 

「だから! 俺が一番好きなのは、渚だーーーーーーーーっ!」

 

「「「「……」」」」

 朋也さん…?

「…わー、岡崎くんってそんな事を大声で言える人だったんだねー」

「ぶらっくほわいとですっ! 情熱的なぶらっくほわいとですっ! わふーーーー」

 大盛り上がりだ。

 

 ふとその喧騒が収まったなんとも絶妙なタイミングで、

「一番ってことはよう? 二番も三番もいるのか? あいつ?」

「「「「……」」」」

 真人が結構大きな声で謙吾に尋ねる。

「「「「……」」」」

 あ、向こうにも聞こえたな。 これは。

 

 

 

 古河ベイカーズの面々は一瞬静まり返り、再びさっき以上の喧騒に包まれた。

 真人…、天然過ぎるよ……。

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