ブウゥゥンッ! 「ストライク! バッターアウト!」
「頑張ったぜ、俺……」
なぜか意気込みとは反対に結果がついてこない真人。
「もしかして……この筋肉は、残念な筋肉でしかないのかぁぁぁぁ----!」
「なんだよそれ…ま、もうちょっとボールを良く見たほうがいいんじゃないの?
完全なボール球だって目いっぱい振ってたしさ」
人生を嘆くかのように落ち込む真人に対し、春原がアドバイス。
「そうか、そうだったのか…。 くそっ! もう少し目の筋肉を鍛えておくんだった!」
「あんまり関係ないんじゃ…」
「え? 嘘? だって筋肉だろ?」
「だって、の意味が分からないんですけど……」
「待たせたなガキ共! どうなったんだ、試合は? ん?
お、3-2 か。 なんだなんだ? いい試合してんじゃねーか。」
「お父さんっ!」
「秋生さんっ!」
意外と早く秋生が帰ってきた。
「オッサン、窓ガラスは許してくれたのか?」
「ったりめーだ。 大人の交渉術ってやつをこれでもかってくらい見せてきたぜ!」
「とか言いながら本当は、『わりぃっ! 割っちった! 勘弁なっ!』 なんて言って
お茶を濁してきたんじゃないのか?」
「んなわけあるか。 だいたいなんだ小僧? その具体的な台詞は?
まるで前に俺が謝るところを見たことがあるみてえじゃねえか!?」
「お父さん、朋也くんと野球する時、時々よそのおうちの窓割ってます」
「ああ、だいたいはそんな感じで謝ってたからな」
「秋生さん、ちゃんと謝ってくださいね?」
「なんでそんなに信用が無いんだ俺はぁぁぁーーー!」
「理樹…俺は、俺はぁ……!」
「真人、さっきもそんな感じだったよね…」
「少年、どうやら古河氏が戻ってきたようだ。 気をつけたほうがいい」
「うん、そうだね来ヶ谷さん」
「直枝さん、あの方のフォークボールですが、おそらく乱用はしないはずです」
「え? そうなの?」
「はい。 あのボールは勝負時限定のようです。 それに気をつけていただければ」
「ありがとう西園さん。 じゃ、行ってくるよ」
理樹が打席に入る。
マウンドに立つのはもちろん秋生だった。
「待たせたな坊主、けちょんけちょんにしてやるぜ!」
「そうさせる訳にはいかないです、古河さん」
「へぇ、言うねえ?」
だがそんな台詞を聞いても秋生は嬉しそうだ。
ヒュンッ! 「ストライク!」
「(本当に速い…、でもツーカウント取られる前にっ!)」
ヒュッ! キーーーーーーーーーンッ!
「「打ち上げたっ!」」
「ひゅー、惜しかったな。 あれじゃ外野フライ…ってなんだぁ?」
ただのフライにしか思えない打球なのに、理樹は一塁に向けて本気で駆けている。
「青春だなっ! ま、その若さはいいが、ってオイ! あの外野はっ!」
大きなフライの落下地点で、野手が手を広げてボールを待つ。
ひゅーーーーーーーーーーん、ぽてん。
「???」
ボールを待ち構える格好はしっかりしていたのだが、
肝心のボールは、準備万端な構えをしていたことみの2メートルほど後ろに落ちた。
「回れーーーーーーーっ!」
謙吾の声が響く。
既に恭介は二塁を回り三塁へ…!
「一ノ瀬! ボールをっ!」
「はい、智代ちゃん」
恭介が三塁に到着するその瞬間、
ヒュッッッッバスゥゥゥゥゥンッッッッ!!!!
「「「……」」」
まるでレーザーとしか表現できないボールが恭介を刺した。
「「「……」」」
「えー…アウト、です。 棗さん」
鷹文が申し訳なさそうに宣言する。
「マジか……?」
さすがの恭介も言葉が無い。
「河南子っ! 二塁っ!」
「!?」
ボールを受け取った河南子に朋也が叫ぶ。
「あ!?」
レーザー返球を見て足が止まってしまっていた理樹が刺される。
かなり変則的だがダブルプレーだ。
「今の…なに?」
「……」
リトルバスターズのベンチ内も時が止まっていた。
「出来る限り、あの方向に打球を飛ばすのはやめておこう……」
謙吾が智代を見ながら答える。
「坂上さんだーばきゅーむボールですネッ!」
「だからはるかはうるさい」
「ひどっ!?」
「わふー、私はれいんぼーで、すぱーくなぼーるのほうが好きでしたっ!」
クドの日本知識はやはり少々古い。