「見事なまでに直接対決ってやつね」
秋生の代わりとしてマウンドに上がる杏。
対してリトルバスターズのバッターは、
「さっきはいい当たりをお前にキャッチされたからな。 お返しといくさ!」
意気揚々な恭介だ。
杏は嬉しそうに笑顔を返し、大きく振りかぶった。
「おい、藤林」
朋也が小声で椋に聞く。
「もしかしなくても、杏って棗のこと…」
「わ、私の口からはなんとも…」
「……」
バスンッ! 「ストラーイクッ!」
「ひゅーっ。 いい球投げるなぁ、あいつ」
恭介は改めて杏を見る。
「そりゃ当たり前さ」
「当たり前?」
その答えに興味を引いたのか、春原に聞き返す。
「よっと。 棗だっけ? 藤林杏には気をつけたほうがいいと思うよ、僕は」
ボールをピッチャーに投げ返しつつ、にやりと笑って暴露する。
「あいつって確かに見た目は結構いい線いってるんだけどさ、スゴイんだよ」
「すごい?」
「というかヤバイね。 ちょっとでもあいつをからかうと、殺人級の」
ボゴオォッッ!!
…最後まで言い終わらないうちに、今投げ返したばかりのボールが春原の顔面に返ってきた。
「すーのーはーらー…」
「藤林杏っ! 顔面にボールかよっ! さすがに死ぬわっ!!」
「そうねー、死ぬかもねー。 あははー」
「あははーってお前ね!」
「ああ? 本気で死にたいの?」
「ひぃぃっ! 何でもありませんっ!」
杏は自分でフォローに失敗しているような……
「ま、まあよくわからんが…杏」
「え!? ん、な、何?」
恭介はマウンドに近づいてやさしく、けど真剣に伝える。
「これは俺のわがままかもしれない。 でも、聞いてくれ。
遊ぶのもいいし、今みたいに多少ハメをはずすのも大歓迎だ。 …だけど」
「? だけど?」
「 『死ぬ』 だの、 『殺す』 だなんて言葉は杏の口からは聞きたくない」
杏はびっくりして、
「ちょ、ちょっと! あんなのただの冗談だって! 本気なわけじゃ!」
「わかってる、わかってるんだ。 …それでも、悪い…頼む……」
「……」
「……」
「……わかった。 でも、そんな顔をしてまで頼みこむ理由って」
「それは、」
「うん。 いいや」
「え?」
「今はいい。 恭介の真剣さ、伝わったし」
「杏…」
「そのうちねっ! そのうち教えて? …駄目、かな……?」
「…そんなことないさ。 また今度、な?」
「うん!」
「…で、試合を続けてもいいのかな?」
「「うわっ!!」」
意を決して近づいてきたのは鷹文だった。
「「も、もちろん!」」
「…恭介、あいつと何話してやがったんだ? 敵のピッチャーだろ、あれ?」
真人が声に出しても、チームの面々は微妙な空気のまま誰も答えなかった。
キーーーンッ!
三球目をバットに捕らえ、恭介は走り出す。
あまり無理はせず一塁で止まると朋也が話しかけてきた。
「お前ってさ」
「? なんだ?」
「恋人いるのか?」
「はぁ!? なんだいきなり? 久々のわけわからんポイントだぞ、それ」
「いや、俺もなんでこんな事聞いてんだ?」
「っぷ、岡崎、お前って思ってたよりおかしな奴なんだな」
「なんだよ」
「いや、楽しい奴だって事さ。 遅くなっちまったが、これからもよろしくな」
「お前のほうがおかしいだろ? まぁオッサンの知り合いならこれからも色々と会うかもな」
「ああ、きっとそうなるさ」
きっと、そうなる。
朋也も恭介も、同じ事を考えていた。
「ようやく俺の番だ…。 待っていたぜ! 俺っ!」
「わふ! 井ノ原さん、お一人でご自身を鼓舞してます!」
「一人プレイってやつですネ!」
「一人プレイ?」
「! 小毬君、もう一度」
「え? ひとりぷれい?」
「もう一度」
「ひとり…ぷれい……」
「ああ…、いい……」
「うわーーん! なんだかわからないけど、なんかやだーーーー!」
逃げ出す小毬、喜びの来ヶ谷。
「うおりゃーーーーーーっ!」
バスンッ! 「ストラーイク!」
ベンチのかなり特殊な盛り上がりをよそに、真人の打席が始まっていた。