「見事なまでに直接対決ってやつね」

 秋生の代わりとしてマウンドに上がる杏。 

 対してリトルバスターズのバッターは、

「さっきはいい当たりをお前にキャッチされたからな。 お返しといくさ!」

 意気揚々な恭介だ。 

 杏は嬉しそうに笑顔を返し、大きく振りかぶった。

 

 

「おい、藤林」

 朋也が小声で椋に聞く。

「もしかしなくても、杏って棗のこと…」

「わ、私の口からはなんとも…」

「……」

CLANALI  第二十五話

   バスンッ! 「ストラーイクッ!」

 

「ひゅーっ。 いい球投げるなぁ、あいつ」

 恭介は改めて杏を見る。

「そりゃ当たり前さ」

「当たり前?」

 その答えに興味を引いたのか、春原に聞き返す。

「よっと。 棗だっけ? 藤林杏には気をつけたほうがいいと思うよ、僕は」

 ボールをピッチャーに投げ返しつつ、にやりと笑って暴露する。

「あいつって確かに見た目は結構いい線いってるんだけどさ、スゴイんだよ」

「すごい?」

「というかヤバイね。 ちょっとでもあいつをからかうと、殺人級の」

 

   ボゴオォッッ!!  

 

 …最後まで言い終わらないうちに、今投げ返したばかりのボールが春原の顔面に返ってきた。

 

「すーのーはーらー…」

「藤林杏っ! 顔面にボールかよっ! さすがに死ぬわっ!!」

「そうねー、死ぬかもねー。 あははー」

「あははーってお前ね!」

「ああ? 本気で死にたいの?」

「ひぃぃっ! 何でもありませんっ!」

 杏は自分でフォローに失敗しているような……

 

 

「ま、まあよくわからんが…杏」

「え!? ん、な、何?」

 恭介はマウンドに近づいてやさしく、けど真剣に伝える。

「これは俺のわがままかもしれない。 でも、聞いてくれ。

  遊ぶのもいいし、今みたいに多少ハメをはずすのも大歓迎だ。 …だけど」

「? だけど?」

「 『死ぬ』 だの、 『殺す』 だなんて言葉は杏の口からは聞きたくない」

 杏はびっくりして、

「ちょ、ちょっと! あんなのただの冗談だって! 本気なわけじゃ!」

「わかってる、わかってるんだ。 …それでも、悪い…頼む……」

「……」

「……」

「……わかった。 でも、そんな顔をしてまで頼みこむ理由って」

「それは、」

「うん。 いいや」

「え?」

「今はいい。 恭介の真剣さ、伝わったし」

「杏…」

「そのうちねっ! そのうち教えて? …駄目、かな……?」

「…そんなことないさ。 また今度、な?」

「うん!」

 

 

 

 

「…で、試合を続けてもいいのかな?」

「「うわっ!!」」

 意を決して近づいてきたのは鷹文だった。

「「も、もちろん!」」

 

 

 

 

「…恭介、あいつと何話してやがったんだ? 敵のピッチャーだろ、あれ?」

 真人が声に出しても、チームの面々は微妙な空気のまま誰も答えなかった。

 

 

 

 

 

 

    キーーーンッ!

 

 

 三球目をバットに捕らえ、恭介は走り出す。

 あまり無理はせず一塁で止まると朋也が話しかけてきた。

「お前ってさ」

「? なんだ?」

「恋人いるのか?」

「はぁ!? なんだいきなり? 久々のわけわからんポイントだぞ、それ」

「いや、俺もなんでこんな事聞いてんだ?」

「っぷ、岡崎、お前って思ってたよりおかしな奴なんだな」

「なんだよ」

「いや、楽しい奴だって事さ。 遅くなっちまったが、これからもよろしくな」

「お前のほうがおかしいだろ? まぁオッサンの知り合いならこれからも色々と会うかもな」

「ああ、きっとそうなるさ」

 

 きっと、そうなる。

 朋也も恭介も、同じ事を考えていた。

 

 

 

 

「ようやく俺の番だ…。 待っていたぜ! 俺っ!」

「わふ! 井ノ原さん、お一人でご自身を鼓舞してます!」

「一人プレイってやつですネ!」

「一人プレイ?」

「! 小毬君、もう一度」

「え? ひとりぷれい?」

「もう一度」

「ひとり…ぷれい……」

「ああ…、いい……」

「うわーーん! なんだかわからないけど、なんかやだーーーー!」

 逃げ出す小毬、喜びの来ヶ谷。

 

 

「うおりゃーーーーーーっ!」

 

   バスンッ!  「ストラーイク!」

 

 ベンチのかなり特殊な盛り上がりをよそに、真人の打席が始まっていた。

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