……とても嫌な沈黙が試合会場に広がる。
「まぁ、なんだ…。 またやっちまったのか…俺?」
「「「……」」」
なんか、色々と台無しだ。
「小僧!」
「なんだよオッサン」
秋生は朋也に呼びかける。
「百円やる、さっさと行ってこい」
「自分で行け」
「くっそ、なにかっ飛ばしてんだよ俺はーー」
はっちゃけ過ぎだ。
「ちょっくら謝ってくるからお前らは続けてろ! あー代走! 古河 早苗!」
「ちょっとおじさん! 別に今じゃなくてもいいじゃん。 試合中だぜ?」
春原が秋生を呼び止める。
それに対して秋生は 『しょーがねー奴だな』 といった顔で話し出す。
「アホ、いいかげんいい年なんだからこのぐらい考えろ。
いいか? 問題ってのは時間が経つほど悪化すんだよ。 それはわかるな?
ほっとけばあちらさんに迷惑が掛かって、こっちの印象も悪くなる。
ついでに言えば学校自体に余計な批判を与えちまう。 面白くねえだろ」
「だけどさ、おじさんがいなくなるのだってこの試合にとって迷惑ってもんじゃないの?」
「だからすぐに行って帰ってくんだよ。 可能な限りいろんな被害を少なくさせる為にな」
本当このオッサンは時々、当たり前のことを迷いなく当然のように言うことが出来る。
「あ、ああ。 引き止めちゃって悪かったよ」
「わかりゃいいんだよわかりゃ。 さて…、オイ! そこの筋肉!」
「あ? 俺か?」
「お前のホームランってことでいいか?」
「なんでだよ!? 嫌に決まってんだろ!!」
「ちっ、じゃあ…となりのつんつん頭! お前ってことで」
「断固拒否だ」
「っかー! んだよお前ら!?」
さっきの話はどこへやら、かなり見苦しい。
「秋生さん? 正直にお一人で行ってきてくださいね?」
「でもよう早苗…いい年こいて学生相手の草野球で特大ホームランかっ飛ばしちゃいましたー、
なんて言って謝るのなんて恥ずかしすぎだろ? いやマジで!」
「秋生さん」
「わーったわーった! 早苗、代走任せるからな。
守備の時までに戻れなかったら、そーだな…藤林のねーちゃん、あんたで頼む」
「いいから! 早く行ってきなさいっ! わかったわよ、もう!」
杏が秋生を追い出す。
「秋生さんの代わりの早苗です、よろしくお願いします! えーと、どうすればいいのでしょうか?」
「え、えーと。 じゃあベースを一周して戻ってきてもらえますか?」
鷹文が早苗に答える。
「はいっ! 行ってきますっ!」
そんなこんなで現在3-1。 秋生不在のまま試合は続く。
「んじゃ、あたしの番ね」
杏がバッターボックスに立つ。
「あれ? あの子様子おかしくない?」
鈴の事だ。
さっきの打席での事が響いているのだろうか。
「大丈夫だよ、まだ鈴は諦めたりなんかしてないから。
えーと、藤林さんだよね? ありがとう、鈴の心配してくれて」
理樹が杏に笑顔を見せる。
「べ、別に感謝される事でもないわよ…。
さ、こっちは負けてるんだからね。 本気でやらせてもらうわよっ!」
キーーンッ!
何球目かでヒットを放つ。
「ノーアウト一塁か……」
朋也が打席に立つ。
「岡崎ーーっ! 満塁ホームランだーーっ!」
春原がなんか叫んでいる。
「無茶、言うなっ!」
カンッ!
うまい具合に内野と外野の中間へボールが落ちた。
「え、えっと…いいんでしょうか?」
七番の渚はストレートでフォアボール。
ノーアウトで満塁となる。
「鈴……?」
理樹以外のリトルバスターズのメンバーも心配そうな顔をしている。
「大丈夫だ。 続けるぞ理樹」
「……」
そして、それは起こった。
「きゃっ!」
「椋っっ!!」
「!!!」
八番打席、椋に対する二球目。
鈴の手からすっぽ抜けたボールが椋のふとももに当たった。
「大丈夫っ!? 椋っ? 痛い!?」
杏が駆け寄る。
「う、うん。 大丈夫だよお姉ちゃん。 避け損なっちゃった…えへへ……」
「えへへじゃないわよ、もう」
「杏、藤林は?」
「あ、朋也…それにみんな」
両チーム全員が集まっていた。
「椋、痛むか? どうだ?」
「あ、棗さん。 えーと…はい。 特に問題はないみたいです」
どうやら本当に異常はないようだ。 安堵のため息がもれる。
「…ごめん。 当ててしまった。 ……ごめんなさい」
鈴が椋の前で頭を下げる。
「そんな、大丈夫ですから。 頭をあげてください」
「そうよ。 わざとじゃないって分かってるんだから。 ほら! 続き続き!」
「本当にごめん……」
デットボールの押し出しによる一点追加で3-2。
まだノーアウト満塁が続く。